Bパート:お迎え料は100万円です☆
ガラスのケースの中に飾られているので、来客者に対する宣伝が主な役割だろう。
【夢現の遊技場】の宣伝担当というだけあって、完成度については他の人形よりもずっと高い。
語彙力はそう高くはない。そうと自覚するハルカが口に出した言葉は「美しい……」と、なんとも飾り気もなくシンプル極まりない、月並みなものだった。
「どうぞハルカ様。せっかくですのでもっと近くに寄ってこの娘達を見てください」
と、楓に勧められるがままに、ハルカは四体の人形の下へとゆっくりと歩み寄った。
よく見るとそれぞれには名前や性格など、プロフィールがしっかりと記載されている。
――――
●名前:カレン
●性格:とっても優しい
●好きなこと:お兄ちゃんに甘えること
とっても優しくて頼りがいのある、ウェアウルフ族の女の子。
普段はしっかり者ですが、二人きりの時はお兄ちゃんにたっぷりと甘える。
そんな、甘えん坊な少女です。
――――
●名前:マキ
●性格:臆病で人見知り
●好きなこと:お兄様と一緒にいること。
人見知りが激しくて臆病なハーピー族の女の子。
お兄様と一緒の時に見せる笑顔は太陽のように明るいのがこの娘の魅力です。
後、とっても力持ちで風の魔法を得意とします。
――――
●名前:アイカ
●性格:策略家(自称)、おっちょこちょい
●好きなこと:兄上様との逢引
あれこれと策略を巡らせては大好きな兄上様と結ばれようとする策士な女の子。
だけどおっちょこちょいな性格からいつも失敗ばかりしています。
そんな失敗ばかりするけど諦めない、とても健気なワータイガーの娘です。
―――
●名前:シェンファ
●性格:武人気質
●好きなこと:兄君と一緒にすごす時間。
東洋に住まうドラゴン族の少女。
自分に厳しく、日々修練を欠かさない生真面目な娘ですが、兄君の前ではデレデレ。
二人きりの時は普段の厳格な態度はどこへやら。猫のようにごろごろとかわいらしく甘える娘です。
――――
簡易ながら、しかしどの人形にも魅力的な雰囲気がしっかりと伝わってくる。
一番の魅力はやはり、何と言っても全員が人間ではないと言う点だろう。
これはハルカの趣味嗜好にも大きく影響していた。
人外娘、もしくはモンスター娘として創作界隈では一つのジャンルとして確立している。
人非ざる者という設定だからこそ、そこに生まれる魅力は計り知れない。
なかなかこの店主は良い趣味をしている……ハルカはそう、すこぶる本気で思った。
(これだったら、購入してもいいかもしれないな……)
幸い手元にはそれなりに資金はある。
人形を四体分、一体につき10万円だとしても購入するのは実に容易い。
問題は楓が購入を許可するか否か。まずはそこからの確認が必要不可欠だった。
「ふふふっ……」と、楓。
どこか嬉しそうに微笑む彼女に、ハルカは怪訝な眼差しを返す。
なんだかバカにされているような気がしてならない。
男が人形をジッと見るのが、そんなにも似合わない……楓はそうとでも言いたいのだろうか。
「あぁ、申し訳ありませんハルカ様」
と、どうやらこちらの意図が伝わったらしく、慌てて楓が謝罪した。
「別にハルカ様を馬鹿にするつもりなど毛頭ありません。ただ、少し嬉しかったものでして……」
「嬉しかった……?」
「はい。実は私、この店をオープンしてからまだ間もなくて……。子供の頃からずっと人形造りが好きでこの仕事を始めたのですけど。なかなかお客さんが来てくれなくて――だから、ハルカ様がそうやって真剣にその娘達を見つめてくださるのが、すっごく嬉しかったんです!」
「あ……――あ、あの。この人形って売り物ですか?」
「あ、お待ちくださいハルカ様。【夢現の遊技場】に関わらず、
「は、はぁ……」
(たかが玩具なのにそんな面倒なルールがあるのか……)
などと口にしようものなら、十中八九楓からの反感を買うのは火を見るよりも明らかなので、決して口には出さない。
しかしながら、本音でもある。
どれだけ凝った設定があろうとなかろうと、ハルカの目に映るこれらはあくまで無機質な
とりあえず、郷に入っては郷に従え。
ここではそう扱えと言うのであれば、従う他ない。
面倒臭くはあるが、どうせ今日限りの関係だ。一度きりならば我慢もできよう。
「そ、それじゃあ早速ですけど、この四人の人形をその、迎えたいのですが……」
「はい、ハルカ様ならばきっとこの娘達も喜んでくれると思います!」
「あ、あはは……」
「それでは後日こちらからご自宅の方へ発送させていただきますので、現住所とお電話番号の記載をしてもらってもよろしいでしょうか?」
「わかりました」
たった一度のこととは言え、なんとも大きな買い物をしてしまった。
いくら金銭面に余裕があると言っても、湯水のように湧いたものではない。
金を稼ぐためにハルカは、その心身を日々削っている。
金とは命だ。
どれだけ余裕があろうと、命と置き換えればどうして易々と手放せられよう。
(でも、本当にたまにだったら罰も当たらないだろう)
どうせ、多大に浪費するだけの趣味もないのだし。
ここで散在しても現状すぐに生活に悪影響を及ぼす心配もないから、寄付の意味合いも込めて多めに出そうとハルカは結論を出した。
「それではお迎えされるに当たっての費用ですが……ハルカ様のお気持ちでお願いします」
「そんないい加減な感じで大丈夫なんですか?」
「えぇ、私のモットーは如何に私が大事に手掛けた愛娘を大事にしてもらえるか、なので」
「それじゃあ……」
とりあえず、100万円ぐらいでいいだろう。
ケースから出した札束をそのままカウンターへ置く。
「へっ?」と素っ頓狂な声をもらす楓。
やっぱり100万円はちょっと多すぎたのかもしれない。
だが、創作に関してハルカはどっちかというと寛大な考えの持ち主だ。
素晴らしいものを作った者にはそれ相応の対価が与えられて当然である。
楓が手掛けた人形の出来栄えは、100万円ですらも少ない方と思えてしまえるぐらい、とにもかくにも美しくて魅力的だ。
「こここ、こんなに受け取れませんよ! だだだだって、ひゃひゃひゃ100万円ですよねコレ!」
「いいんです。俺はあなたの人形……いえ、愛娘を見た時一目でその精巧さと美しさに感動しました。だからこれは妥当な金額としてどうかお納めください」
「ひゃひゃひゃ、ひゃい……ああああ、ありがとうございまひゅ……」
人生生きている中で、100万の札束をお目に掛かれる機械など銀行員ぐらいなものか。
現ナマでいきなり目の前に置かれれば人はこのような反応を示すらしい。
だとすると、どうやら自分の感覚はすっかり麻痺してしまったと、ハルカは内心でくつくつと笑った。
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