4・捧げるようかん

「ただいま戻りました」

 三人は饅頭を手に社内へ入っていく。結構な重量だ。

 これだけあれば片玉は両玉になるのではないかと思いながらカウンターへ降ろすと、

「お帰り。ご苦労だったね」

と社長。


「はい、それぞれの課で持っていってね」

と社長がフロアに向かって声をかける。

 するとあっという間に饅頭の箱は姿を消した。今ごろ三多と悠の席にも配られていることだろう。

 よっぽど饅頭が好きなんだなと思いながら、蓮はスーツのジャケットに手を入れると戦利品を取り出した。

「パイ社。これを」

 パイ社と呼ばれた社長は、

「だから! その呼び方やめなさいって」

と額に手をあてる。


 三多は中身を知らないので笑っているが、悠は中身を知っているため埴輪顔になった。本気であげる気なんだという心の声が伝わってくるようである。

「まあ、そんなことよりこれを受け取ってください。ささやかな日ごろの感謝の気持ちです」

「そんなことよりって……」

 悲し気に眉を寄せる社長にグイグイと息子きゅん型羊羹を押し付ける蓮。

「結構な重量だけど、中身は?」

 社長は紙袋を手に、訝しんでいる。

「芸術的な水羊羹です。きっと社長室に飾りたくなりますよ」

 

 蓮がニコニコしていると、

「この会社、社長室ないの知っているでしょ!」

とプンスコされた。

「僕はねえ、社長室にこもって何しているんだかわからない会社ではなく、クリーンでオープンな会社をだね……」

「荷物が少ないのは何よりです。それよりも、芸術を覗いてみては?」

「荷物が少ないって、どういう解釈なの? 池内くん」

 スキンヘッドの社長は更に悲しい表情をしつつ、紙袋の上を開け覗き込む。

「社長! 今は止めた方が。昼間ですし」

と横から制止の声をあげる悠。

 だが遅かった。


「これは!」

 手乗りサイズの息子きゅん型水羊羹。ずっしり重い。

「だしちゃダメですってば!」

 悠が止めるも、社長は羊羹を手の上に置き、まじまじと眺めている。

 三多がそれを見て吹いた。

「オブジェとしても、良いかと」

と仰々しく言う蓮。

 近くに居た社員が社長の手の上に乗る息子きゅん型水羊羹を二度見し、お茶を吹いた。怪我がなくてなにより。


「僕、これをデスクの上に飾るの? セクハラで訴えられちゃうよ」

 社長は肩で笑っている。

「じゃあ、石膏像のように白い布を被せましょう」

 蓮の提案に三多が大笑いしている。

「白い布ねえ……」

 社長はノリの良い人でもあった。

 それだけ社員と戯れるのが好きということである。


 この後、社長のデスクに息子きゅん型水羊羹は白い布を被せて飾られたが、変わる変わる社員たちがそっと布を指先でつまみ、中を確認していったのは言うまでもない。

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