3・アダルティなようかん

「よう、蒼姫」

「おう、お揃いで。何してんの?」

 三多の言葉にこちらに近づいて来る彼。

「まんじゅうを買いに」

「ああ、店ならその『南国バナナ』のある通りだから」

 株原は駅前の大通りに聳え立つ。

 『南国バナナ』は脇道に入ったところにある、株原の社員御用達となっている昼はランチ提供、夜は飲み屋に変わる店だ。


 株原とわが社は割と近い位置には存在するが、使用する駅が違うので『南国バナナ』を利用するものは少ない。


「そういえば、三多くんも蒼姫くんも歌上手かったね! 次は負けないんだから」

 金曜の夜の屈辱を思い出したのか、悠が拳を握り決断力のポーズをキメた。

 だから止めた方がいいと言ったのにと蓮は、苦笑いをする。

「おう、かかってこいや!」

と蒼姫。


 わが社では仕事帰りに遊びに行くような者はあまりいないが、株原の社員は違う。特に営業部は接待などが多いのでよく仕事帰りにカラオケに行くのだと聞いている。

 時代のせいか、わが社も株原も残業三昧などと言うことはない。

 昔のように二十四時間働けるわけなどなく、あれは世の中がおかしかったのだろうと蓮は思った。

店の場所を把握した蓮たちは蒼姫に手を振って再び目的地を目指す。

 と言っても、角を曲がればすぐそこに……


「うわあ。さすが株原系列だね」

 コインパーキングに車を停め、三人は路地に入っていく。

 商店街で見かける、俗にいう歩行者天国というもので、この通りは車が入っていけない。そのため両側の入り口に立体のコインパーキングがあった。

 昼間は主婦や学生で賑わい、夜はサラリーマンやOLで賑わう。

「寒いっ」

と三多。

 都会の一月はそんなに寒い方ではないが、時折吹く風が冷たい。

「早く中に入ろう」

 肌色の壁に謎のアートの描かれた和菓子店。

 和風とは程遠いその外観に、一瞬躊躇いはしたものの、三人は自動ドアをくぐり中へ。


「うん、株原だね!」

と悠。

 どうにもアダルトな形をした和菓子がたくさん置いてある。

「お使いはおまんじゅうだけど……これ美味しそう!」

 一人はしゃぐ悠。三多はマイペースにレジカウンターに向かうとお使いの品を人数分頼んでいた。

「何か買うの?」

と悠の後ろに立ち彼女の視線の先を眺める蓮。

「これ美味しそう」

 悠はパイ生地にあんの挟まったお菓子を指して。

 確かに内容だけ見ていると美味しそうだが、表面に息子きゅんの模様が彫られている。とてもじゃないが、人様にお出しできる代物ではない。


「蓮も食べる? 三多くんの分も買っていこう」

「いや……俺は。人様の股間に食らいつく勇気は……」

「はい? 何言ってんのよ」

 悠はこんな卑猥なものを食べるというのか、と複雑な気持ちになりつつ他のお菓子に目を向ける。

「これ、社長に買おう」

「え?! 待って……さすがにそれは」

 蓮が手に取ったのは、息子きゅん型水羊羹。非常によくできている。

 おたまたまがプルンと丸い。

「これください」

「ちょ……蓮!」

 蓮は悠が止めるのも聞かず、社長への手土産をゲットしたのだった。

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