2・そんな名前のまんじゅう?!

「手伝い?」

 表へ出ると、社用車の前で悠と三多が何か話をしているところだった。

「それは助かる」

 三多は悠に先に乗るように促し、蓮の方へ視線を向ける。

 スマホを耳にあてながら。

「俺、運転するよ」

 助手席に乗り込んだ悠を見ながら蓮がそういうと、彼は車のキーを差し出し、後部座席に乗り込む。

 恐らく蒼姫に連絡を取っているのだろう。


「え。蓮が運転するの?」

 運転席に乗り込んだ蓮を見て、悠が一言。

「何か問題でも?」

 蓮はカーナビに手を伸ばし、操作をするとシートベルトを締める。

「ううん。カッコいい」

「は?」

 そういえば最近運転を悠にまかせっきりだなと反省しつつアクセルを踏み込むと、通話を終えた三多に、

「場所、何処だって?」

と尋ねた。

 相変わらず悠は目をキラキラさせて蓮を見ている。

 非常に運転しづらい。


「株原の本社の近くの和菓子店らしい」

と三多。

「株原はとうとう和菓子にも手を出したのか」

 またクレイジーなものを作っているんだろうなと思いつつ、意識を悠に向けると彼女はスマホで株原のホームページを見ている。

「これは!」

 

 (株)原始人。

 美男美女が多く働いていると有名だが、それ以上におかしげな自社ブランドの製品を扱っていることの方が印象的だ。

 外食産業、下着、日用品雑貨、家具、食品など手広く事業を展開しており、『大人の空間』をコンセプトにしていたが何故かアダルトな方向へ独走している変わった会社でもある。

 最近ヒットしたのが『息子きゅん型クッション』。つまり、男性のアレである。背もたれがいわゆるイチモツで、丸いあれに挟まれた形らしい。

 見た目はあれだが、なかなか座り心地が快適でリピーターもいるとか。


──だいぶトチ狂ってるな……。


 蓮は自分のことを棚に上げ、そんなことを思った。

「相変わらずだな、株原は」

 悠のスマホの画面を見ながら三多が言う。

 だが貰った饅頭は普通の形をしていた気がする。

「あれは、片玉饅頭って言うらしいぞ」

 三多の言葉に蓮は吹いた。

 通りで普通の形をしているはずだ。

「何、両玉とかあるのか?」

「両って……」

 蓮の言葉に悠が笑っている。


「ないな。そんなに一気に食うヤツがいないからじゃ?」

「おまんじゅうが二つ、くっついていたら食べづらそうだし」

と悠。

「喉に詰まらせるどころの騒ぎじゃないな」

 蓮もなんとなく納得した。

「ただ……美しき白片玉大福というのがあるらしい」

「ネーミング!」

 隣で大笑いする悠。


──飛んでもない会社だな。


「誰がつけるの? そんなの」

という悠の疑問に、

「商品部とかじゃないのか?」

と蓮。

 (株)原始人の本社は駅の近く。この時間は空いているが、全面ガラス張りのビルは太陽を反射して光り輝いていた。

「結構、うちのところから近いんだよね、株原」

 ”蒼姫くん”いるのかなと続けた悠。

 ちょうどその頃、株原の玄関から出てくる蒼姫を見かけ蓮は本社前に車を寄せたのだった。

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