2・可愛くても格好良くても

「何、突然」

 困った顔をしてこちらを見上げる彼。

 そんな顔も可愛くて好き! と思いながら、

「僕って言う蓮が可愛いなーと思って」

と悠が返答すると、

「悠は可愛い方が好きなの?」

と問われる。


 可愛いという基準は人によって違うと思われるが、元々は『小さきもの、身分の下もの、年齢などが下のもの』に向けて使われる言葉だ。

 一個上で、背も高くどう見ても『小さきもの』ではない蓮に向ける言葉ではない。

 そこまで深く考えて質問しているわけではないとは思うが、『可愛い人』が好きと勘違いされたら困る。

 まだ彼が変な言動に出ないとも限らない。

 そうなると後が大変だ。


 顔には出さないが、ヤキモチ妬き。

 悠に近づく男を、さりげなく遠ざけてきた彼。

 本人がさりげなくそうしているのかどうかは分からないが。


──あれは無意識なんだろうなあ。


「そうじゃないの。蓮は格好いいし……可愛いの! 可愛いって思われるのは嫌?」

と問うと、

「僕は別にどちらでも……」

と言葉を濁しながらも、チラッとこちらを見る蓮。

 それが”満足した?”と言っているように見えて、更に悶絶した。

「うううう。そんなとこ好き」

 悠の言葉に顔を赤らめ、視線を逸らす彼。

「今すぐ押し倒したい!」

と言えば、

「何言ってんの……もう」

と目を泳がせてる。

「アクセル全開。早くお家に帰ろう!」

「法定速度は守ってね。捕まるよ」

 言って瞳を閉じる蓮。

「はいはい」



「相模さんは、ああいうの心配じゃないの?」

 悠は以前の三多たちの会話を思い出していた。

 自動販売機は社外にあるため、玄関から出たところを三多と蒼姫に呼び止められたのである。

 一度別れて、ヨリを戻すまでに数時間。

 その後のことだ。


 三多に言われて社の門の方へ視線を向けると、相変わらず蓮が近くのビルの女子社員たちに囲まれていた。

「全然」

と悠。

「なにそれ、随分余裕じゃない?」

と蒼姫。


 蓮は確かに『モテる』のだろうと思う。

 しかしそれは彼の見た目しか知らない人たちに、だ。

 そして他の女子社員が言っていったように『蓮は好意をスルー』する人。本人曰く、結論は『モテない』なのだ。

 彼の『モテる』が何を指しているのか分からないので、基準は理解できないが。


「だって、あんなにモテるのに蓮が選んだのは”わたし”なんでしょう?」

と悠。

 三多がポカンと悠を見つめている。

「蓮にとってあれは”社長からの指令”で営業行為の一環でしかないから」

「アイドルかよ……」

と肩を竦める蒼姫。


──アイドルの素質なら、蒼姫くんの方がありそうだけれど。


 こちらに気づいた蓮が、女の子たちに”またね”と片手を軽く上げる。

「二人とも、蓮に殺されないようにね!」

 悠はまずい! と思いその場を足早に立ち去ったのだった。

 背後に魔王のオーラを感じながら。


「ちょ! 待て、池内!」

「お前から”殺”のオーラが出てるぞ!」

 その直後、三多と蒼姫の悲鳴が聞こえたことは言うまでもない。

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