6・追い詰められてクレイジー?!

れんは消極的過ぎるの!」

「えっと……」

 何故誘えなかったのかをしどろもどろになりながらも一生懸命伝えたつもりではあるが、はるかには怒られる。

「もっと自信もってよー」

 ”本気で嫌だったすぐに別れている”と彼女が言うのを複雑な心境で聞いていた。彼女とおつき合いをすることになったのは、自分のトチ狂った発言が発端。大好きな彼女の前ではいつも言動がおかしくなる。


 取引先である(株)原始人からよくうちの社に来る営業の者の中に、特に仲良くしている奴がいた。

 彼の名は『蒼姫あおき』という。変わった苗字だなと思い、一発で覚えた。彼は蓮が仲良くしている『三多みた』の大学時代の友人ということも手伝ってたまに昼を一緒にする中だ。

 そんな経緯もあって、蓮が悠に片想いをしていることを蒼姫も知っていたのである。


「池内」

 いつものように社の玄関先でゴルフクラブを振っていると、営業で来た蒼姫に話しかけられた。

 蓮が玄関先でゴルフクラブを振り回しているのは別段ゴルフが好きなわけでも、ホームの練習の為でもない。単に、不審者の監視のついでである。

 これは社長の指示。

 しかし一度も不審者が訪れたことはなく、近所の社の女の子が集まってくるくらいだ。


「よう」

 蒼姫は社の中から出てくると、ガシっと蓮の肩に手をかけた。

 非常にゴルフクラブを振るのに邪魔だ。

「今日も可愛いね『相模悠』」

 蒼姫の言葉に蓮はおもむろに嫌な顔をする。

「フルネームで呼ぶのはやめろ。俺だって名前呼んだことないのに」 

「はあ?」

 相変わらず苗字さえ呼べない自分。

「え? いや、はあ? じゃあなんて呼んでんの?」

 困惑気味の蒼姫。

「受付お嬢」

 蓮の返答に蒼姫が一瞬、埴輪顔になる。

「なんでそこに『お』をつけるんだ!」

「緊張して間違ったけど、そのままそう呼んでいる」

 ”まあ、インパクトはあるけど”と肩で笑う蒼姫。

 非常に失礼な奴だ。


「お前さあ……よくここで社外の女子と話している割には、女慣れしてないというか」

 蒼姫は肩を竦めると、いつも三多が座っているベンチに腰かけた。

「そんなもの、慣れるわけないだろっ」

と蓮はゴルフクラブを振りあげる。

「ナイスショット」

 素振りだ。

 

「なあ。協力してやろうか?」

と蒼姫。

「協力?」

「いい加減、話くらいできるようにならないと進展しないぞ」

 三多のようなことを言うなあと思いながら、連は蒼姫に視線を向けた。

「ぼやぼやしてると、他の奴に取られちゃうぞ」

「え?」

 これがいけなかったのだ。

 蒼姫が蓮を焦らせるものだから、てんぱってクレイジーな言動に出てしまったのである。



「何それ?!」

 悠にあの時の経緯を話すと、彼女は驚きに声をあげた。

「蒼姫くん、許すまじ……」

 何故か悠が手を握り締め、決断力のポーズをキメている。

「ちょ、別に蒼姫は悪くないから!」

 蓮は殺意を感じ慌てたのだった。

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