4・頑張るほど失敗して
何も言えなくなったのは、悠に別れようと言われたことが原因。
元彼女の時と同じ。
何が原因か分からないから、どうしていいのか分からない。
──また別れようって言われたら……。
同期の三多は入社当時から蓮に構ってくる奴だった。
だからいつでもつるんでいたし、悠に気があることもすぐにバレれたのだ。それでも初めはタイプだなくらいで、『好き』だなと思うようになったのは、あの時がきっかけ。
意識すると逆に話せなくなるのは何故なのだろう?
元々会話をする用事がなかったこともあるのかもしれない。
「なあ、池内。このままじゃ何も進展しないぞ?」
「わかってるよっ」
今日も玄関先でゴルフクラブを振る。
「ナイスショット!」
素振りだ。
「そんなこと言ったって、話しかける理由がない」
悠は受付以外にも事務を担当していたが、彼女と主に交流があるのは営業部。話すきっかけがない。
「元カノとはどうやってつきあったんだよ」
と三多。
「三多だっていたじゃないか。パーティの席で名刺貰って……あとはなんか連絡が来て、食事に行ったよ」
「はいはい、おモテになるようで」
「ひがみ?」
フラれたと言っているのにと思いながら、チラリと三多の方に視線を向ける。
「ああ、今は相模さんの話しだったな。とりあえず、二人きりになって何か話しかけてみたらどうだ?」
と彼。
随分無茶なことを言う。
ワンフロア式なため二人きりになるなんて無理だし、互いに車通勤なので食事にも誘い辛い。第一、連絡先すら知らない。
蓮が無理だという理由を並べると、
「ああ……まあ、ねえ」
と顎に手をやる。
そして受付の方に視線を走らせると、
「名刺。そうだ、名刺発注すれば?」
といかにも名案という風に言う。
「は?」
確かに会社で名刺を作ることはできるが、この会社では自分でデザインして作る者が多い。他社との合同パーティに良く参加する蓮もその一人であった。
「わざわざ?」
「そう。相模さんに話しかけるチャンス」
と両腕を伸ばし親指を立てる、三多。
三多の助言により、何とか悠に話しかけることが出来た蓮だがあまりに緊張しすぎていて、
「ちょっと、お茶くみ女……失礼、受付お嬢」
と名前すら呼べなかったのだ。
ちなみに『悠たん』と呼ぶようになった経緯も同じく、悠さんと呼ぶつもりが噛んでしまい、恥ずかしいので間違えたと言えないまま今に至る。
「蓮?」
悠に名前を呼ばれ、我に返った。
「ねえ、泣かないでよ。何が嫌だったの?」
蓮はぎゅっと彼女を抱きしめ返すと、
「悠は、他の人とキスしたかった?」
と問う。
──悠を独り占めしていたいなんて、わがままなのかな……。
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