7・微妙な心の距離
「ね。気を取り直して、会場いこっか」
蓮の両手を掴み見上げれば、彼は目を細め眩しそうに悠を見つめ返した。
「さてー。池内ちゃん遅すぎじゃない?」
蓮と連れだって合コンこと飲み会の会場に入ると、彼は早速営業部の者たちに拉致される。肩をがしっと掴まれ、別の会社の女子たちがいる席へ。
「相模さんとイチャイチャしてて遅くなったとかなら、おこですよ?」
「気のせいじゃない?」
と蓮。
悠は蓮を見送って、自社の女子たちが集まっている席へ向かった。
「あら、相模さん。池内くんは?」
貸し切りと言うことだけあって、ざっと数えて三十人以上集まっているようだ。蓮の所属する営業事務の女子の座っている席に混ざると、早速蓮の所在について問われ、彼のいる方を指でつつく。
「連れていかれちゃった」
我が社はワンフロア式な為、二人がつきあっていることを知らない人はいない。蓮とつき合い始めてから色んな課の人から話かけられるようになり、仲の良い人も増えた。
「心配じゃないの?」
と隣の女子に問われる。
「蓮、モテないし」
店員に飲み物を頼むと、頬杖をついて悠はそう答えた。
「池内くんは……モテないというより、好意をスルーするのよねえ」
蓮の所在を訪ねた向かい側の席の女子が、肩を竦め彼の方をチラリと見ながら。
「相模さん、よく恋人関係になれたわよねえ。羨ましー。池内くん狙ってた人、たくさんいたのに」
と、隣の女子。
「それはわたしもちょっと……なんか冗談みたいな展開で、気絶している間に恋人関係になってたのよね」
一回別れたけど、という言葉を飲み込んで。
ため息をついていると、店員が悠の飲み物を前に置いていく。
その時、蓮のいる方から黄色い悲鳴が聞こえた。
──大変おモテになっているようで。
「心配なら行ってくればいいのに」
と隣の女子。
「うんー」
蓮はどうやら他社の女の子たちと名刺交換をしているようである。
「傍にいたら、楽しめないかもしれないし」
「うわー。彼女の余裕?」
「そんなんじゃありません」
向かい側の女子と、隣の女子が気を使って悠をそっとしておいてくれた。
悠は一人、物思いにふける。蓮がこちらを気にしていることも気づかずに。
蓮が心から気を許せる相手が自分だけだとして。
それでも言ってくれないことの方が多いのだ。
どうしてなのか、悠には分かっている。
──やっぱり原因はあれだよねえ。
「ん……?」
テーブルの上に置かれたスマホにいつの間にか新着メッセージ。
「ふふ……」
「相模さん、どうしたの?」
一人で画面を見て笑っている悠に気づいた向かい側の女子が不思議そうに問う。
「ううん」
そこにはたった一つの絵文字。
悠は顔を上げ蓮の方を見たのだった。
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