6・素の彼は

 悠が心配そうに蓮を見上げていると、それに気づいた彼が、

「ごめんね」

と小さく微笑む。

 彼が何故謝るのか、悠には分からなかった。

「カッコ悪いところ、見せちゃったね」

 それは冗談なのか本気なのか。

「ねえ、蓮。あの人って」

 聞き辛いことではあるが、聞かなければ始まらないと思った。


 彼は一瞬躊躇ったのち、どの道話さなければならないと判断したのか、

「元彼女。ここの店よく利用しているみたいだから、会うかもしれないとは思ってた」

と呟くようにこたえる。

 あははと苦笑いする蓮が痛ましい。


 人前では冗談ばかり言ってはいるけれど、悠の前では優しい彼。

 そんな蓮を傷つけ、こんな風にした張本人があの女性なのだろうと思った。


「悠も、俺といるとつまらない?」

 きっとそれが一番聞きたかったことなのだろう。彼はまるで泣いているような笑顔で、悠に問うのだ。


 帰ろうと言いたくなってしまう。

 悠は今すぐ蓮を家に連れ帰って、甘やかしてあげたいと思った。

 

「つまらなかったら、同棲なんてしてないわ」

 今の彼には何を言っても気休めにしかならないだろう。

「そっか」

 案の定、全く元気にならない彼。

 先ほどの女に怒りが沸々と湧いて来る。

 悠は背伸びをして腕を伸ばすと蓮の頭をいい子いい子と撫でた。

 ここが店の中の死角で良かったと思う。


 彼が悠の手を掴み、力なく笑う。

 会社ではいつだってバカなことばかり言って周りを笑わせているのに、悠の前でビックリするほど普通なのだ。

 それは、悠が蓮にとって自分を出せる相手だということであるということなのだろう。

 だがこんな状況では喜べない。


──もう! あの女、絶対に許さないんだから!


 繋がった蓮の指先がピクリと動く。

『池内って、結構前から相模ちゃんのこと好きだったって、知ってた?』

 今日、営業部の社員にこっそり耳打ちされた話だ。

 何故、こんな時に思い出してしまうのか。蓮のことは周りから聞くことのほうが多い。


──ホントは直接聞きたいのに。

 蓮が何を考えてるのか。

 何を思ってるのか、知りたいのに。


 今は元気のない彼をなんとかしなければならない。

「わたし、そんなに地味?」

 悠は自分の服装を確認し、蓮に問う。

 彼が落ち着いた服装を好むので、今日は白のワンピースに淡いピンクのカーディガンという装い。とてもオーソドックスだと思う。

 すると間をおかずに、

「いや。可愛いよ」

と蓮。

 あまりにストレートな言い方に悠は赤くなった。

「え? 俺、何か変なこと言った?」

 悠の反応に困惑する蓮が可愛すぎる。

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