2話 この男、初恋につき

Side:蓮

1・蓮の元彼女

 池内蓮は、恋人の相模悠から離れた席で、スマホの画面を見つめていた。

 飲み会は憂鬱だ。悠の傍に居られないから。

 

 元彼女と別れたのは悠が入社する二か月ほど前。

 出会いはこのような酒の席だった。


──まあ、フラれたんだけどね。


 社会人になるまで、非常に地味だったし同じ学科に女性があまりいなかったため、出逢いもない。社会人になって、スーツは男を五割り増しいい男に見せることを知った。

 入社一年目は普通に仕事をしていたため、声をかけられることもあったが何せ、恋愛初心者。社内で面倒は起こしたくないと慎重だった。

 そんな折、取引先数社で合同パーティが開かれたのである。


 彼女は社長令嬢だった。

 当時の蓮はそのことを知らず、食事に誘われOKをしたのだ。何ごとも社会勉強。その程度の軽い気持ちで行ったのが人生初デート。

 年上の彼女は話術にも長けていて、一緒にいるだけで楽しかった。

 蓮は彼女から色んなことを教わったのである。そこにはもちろん夜の相手も含まれた。


──楽しいと思っていたのは、俺だけだった。

 それが事実。


『あなたって、ツマラナイ男ね』

 そう言われ、二人の関係は幕を閉じる。

 何がいけなかったのか、わからないまま。

 自分は彼女にとって、アクセサリーにもなれなかった。

 プライドどころか、自信喪失してしまったのだ。


 それ以来、女性に苦手意識が芽生えてしまった蓮だったが、彼は決定的なことを理解していなかったのである。

 恋愛にはまず『好きという気持ちが必要』だということを。


 初めての彼女にフラれた蓮は正直、何もやる気が起きなくなっていた。

「ちょっと! 池内くんどうしたの?!」

「なんです? 社長」

 真面目で見目が良く仕事のできる蓮は、入社当時から社長からとても気に入られており、なにかと気にかけて貰っていた。

 だが、あんなに心配されたのは初めてだろう。

「具合い悪いの? 何か悩みでもあるの? 池内くん、今日は一人分しか仕事してないじゃない」

 その頃から蓮は、勝手に人の仕事までやるような社員であった。

 好きなようにやらせてもらえていたと思う。


「そんな、何人分もやれなんて。パワハラですか?」

 社長にあたっても仕方ない。現状が変わらないのは分かっている。

 これはただの甘えだ。

「!!!!」

「ちゃんと自分の分は終わっているので、良いじゃないですか」

 連は頬杖をつき、ため息をつく。

 すると、

「ちょっとー! みんな本気出して! 今日は池内くん手伝ってくれないからね!」

 社長の矛先は別なところへ向かったのだった。

 あれ以来、社長とはおかしなやり取りが定番となったのである。

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