3・実はめちゃくちゃ惚れてます

 我が彼氏、池内蓮いけうちれんは下ネタばかり言っている割には仕事はできるし、仕事に関しては真面目。意味不明なことを言われて付き合い始めたが、実のところ蓮のことは以前から気になってはいた。


──だって、見た目が好みなんだもの。


 はるかは極度の面食いだった!

 会社ではあんなだが初デートをした時、意外と紳士だったのである。そのギャップにやられたと言っても過言ではない。

「ねえ、ホントに行くの?」

 一緒に駐車場へ向かいながら悠が問うと、

「まだ何もしていない」

という返答。

 何を言っているんだ、この男はと思っていると、

「今夜は寝かせない」

と言われた。

 どうやらだいぶ、おねむの様だ。


 そう、会社でアホなことばかり言っているのは素ではない。

 いや、むしろ素なのか?

 一応、二人きりの時にはそれなりに紳士な彼。ただ、眠くなると下ネタ魔王となるのである。

「ほら、鍵貸して。わたしが運転するから。合コン行くんでしょ?」

「んー。悠たん、キス」

「もー、こんなところで何言っているのよ」

「ナニは後で……」

 アホなことばかり言う蓮をグイグイ助手席に押し込む。


──バカなことばかり言っているのは、照れ隠し……なわけないか。


「悠ぁ」

 シートベルトをしていると、クイクイっと袖を引かれる。

「なによ、もう」

 今、忙しいのにと思いながら蓮の方に顔を向けると、そのままちゅっと口づけされた。

 思わずきゅんとしてしまい、その頭をぺしっと平手で叩く。

「痛いよ、悠たん」

「会社の人に見られたらどうするのよ」

「モテなくなるね」

 蓮は座席を倒すと、腕を組み目を閉じた。

 一旦家に帰ってから集合場所に行く予定である。


「なによ、モテたいの?」

 アクセルを踏みこみ、不機嫌に問う悠。

「何言ってんだよ、悠がだよ」

 瞼を開けた彼はそう言って、優しく微笑む。

 実はこんなところに惚れたのだ。自分だけに見せる彼の姿に。

 イカれたことばかり言っているくせに、二人きりになると変わる。でも悠はそんな簡単に切り替えはできないし、素直にもなれなかった。


「妬いてる?」

と問えば。

「うん」

と優しい声。


──こういうとこ、誰にも見せないで欲しいなって思っているあたり、めちゃくちゃ惚れてるんだよねえ。


「悠は美人だしね」

 垂れ目で優し気な顔。スーツが似合う高身長。

 仕事もできてハイスペックなくせに、残念な男。

 でも、密かに自慢の彼氏。

「褒めても何もでないんだからね」

「いいよ別に」

と彼がクスリと笑う。

 悠は心がくすぐられるような感じがした。

「家まで寝てていいわよ」

「うん」

 蓮が再び瞳を閉じるが、悠は”今夜は寝かせてあげないんだから”と心の中で呟いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る