1・お突き合い?!

 そう、あれは。


「池内」

 悠が蓮とたまたま一緒に、会社の玄関に居た時のことであった。彼は他社でも有名らしく、たくさん知り合いがいるようで。その日もわが社にやって来た他社の社員に話しかけられていた。

「ちょ、今日は可愛い子と一緒じゃん」

「ん?」

 蓮は、なんのことだと言うように相手に視線を向ける。

「付き合ってる子とか?」

「突き合う?」

 ゴルフクラブを振り回そうとしていた蓮の手が止まる。悠は彼らから離れると、自動販売機に向かった。今日は、新作のジュースが導入されるということを思い出したためだ。

「あった」

 悠は二人の会話が気になったものの、新作のジュースを見上げる。


「突きあってはいないな」

と、連。

「可愛い子なのに。勿体ない」

「俺は突くのは好きだが、突かれる趣味はない。それに本人の希望は聞かないと」

「はい?」

 悠が近くにいたのはたまたまだ。

「おい。受付お嬢」

 炭酸リンゴを嬉しそうに抱えた悠が、徐にイヤそうな顔をする。

「なあに、おいって」

「突くと突かれるどっちが良い?」

「え?」

 悠は何を言われているのか謎であった。そもそも彼がわけのわかることをいった試しはない。

「あなたといると、疲れる」

 ニコッと笑い、嫌味を言ったつもりであったが、

「よし、今日から俺の彼女だ」

と言われ、

「はい?!」

と困惑する。

「成立だ。今日から俺たちは突く突かれるの関係だ」

「なんなのそれ!」

 悠は、あまりに突然の地獄に卒倒した。


「ねえ、カワイコちゃんぶっ倒れたけど?」

と、他社の社員。

「おい、受付お嬢。しっかりしろ」

 しょうがないなと言って、蓮は悠を担ぎあげる。そう、首に。

「ちょっとまて、池内」

「なんだ?」

 救助担ぎの蓮にストップをかける彼。

「普通はおぶるだろ」

「は?」

 蓮は悠の足を抑えている手の方を見る。彼女はひざ下のタイトスカートをはいていた。

「そんなことしたら、おパンティが丸出しになるだろう!」

「だったらせめて、お姫様だっことか」

「うーむ。注文が多いな」

 蓮はめんどくさそうにそのまま、玄関に入っていったのだった。



──そうそう、なんか気絶していてあんまり記憶がないのよね。


 悠は頬杖をついたまま、記憶を辿る。そういえばあの時のジュースどうしたのかしらと。

「受付お嬢」

「なによー」

 気づけば、目の前に蓮が立っていた。

「いい加減名前で呼びなさいよね。家では……ふがっ」

 悠は口を手で押さえられる。


──そう、何故か家では”悠タン”と呼ばれることが多いのよね。


「俺の威厳が損なわれる」

 そもそもそんなものあったかしらと、悠は首をかしげるのであった。

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