『猟奇的、美形彼氏は』

crazy’s7@体調不良により

1話 その男、クレイジーにつき

Side:悠

0・プロローグ

「ねえ、ちょっと! 池内いけうちくん?! なんで一人でやっちゃうのよ」

 池内 蓮。スラリと背が高く整った顔をしており、スペックは高いが全くモテない残念な社員。彼は今日も社長に追いかけられていた。そのわけは……。


「一人でヤる?」

 脳内で全てが下ネタ化されるトチ狂った男。社内でも有名な名物社員である。

「俺はまだ、社長とはヤってませんが?」

 真面目な顔をして振り返れば、社員たちがどよめいた。もちろん彼の美貌にではなく言語にである。彼は手に書類を抱え、自分のデスクに腰かけるところであった。

「社長は上ですか? 下ですか?」

「何言ってるの、池内くん!」

「早く! 俺は忙しいんです」

「じゃ、じゃあ上!」

 急かされて答える社長。再びフロアの社員たちがどよめく。

「騎乗位ですか、悪くないですね。で?」

 蓮の返答に、社長は頭を抱えた。毎度のことである。

「”で?”じゃなくて! なんで君、いつもいつも人の分まで仕事やっちゃうのよ!」

「暇なんで」

 何故人の分まで仕事をやって、褒められるどころか怒られているのかと言えば、そこには理由があった。その量が尋常ではないからである。


 蓮は涼し気な顔をして、高速でキーボードを叩いていた。彼は特に仕事が好きというわけではない。単に作業が好きなだけである。通常人の分までというと、二、三人。もしくは四、五人程度だろうが、彼は人の十倍仕事をしていた。それが彼のスタンダード。理由は簡単、暇だから。やりすぎて毎日社長から怒られているが、全く気にしていなかった。こんな日常も、名物と化している。

「一人でやらないでっていつも言ってるでしょ!」

「自慰はたまにしかしてませんが?」

 蓮の真面目なトーンの返答に、社員たちがクスクスと笑っていた。

「だからね! 君がやりすぎているせいで、遊んじゃってる子が出ちゃうのよ」

 蓮はふと、社長の股間を見つめる。

「そんなとこから出ないから!」

と、社長。

 何故か連は残念そうな顔をした。

「では、早く仕事取って来てください」

 もう、どちらが上司だかわからない。社長は地団駄を踏むと、

「ちょっと! 営業部!」

と別な社員を呼んだ。えらいとばっちりである。


 頬杖をつき、そんな彼らを見つめる可憐な女性。

「相模さん?」

 相模 悠。この会社の事務兼受付嬢をしている、きゅるるん女子である。つまり、お目目ぱっちりの可愛い系ということだ。ザックリ言えば。

(ザックリし過ぎだ!)

 彼女は彼らを眺めながら、初めて蓮に声をかけられた日のことを思い出してたのである。

『ちょっと、お茶くみ女……失礼、受付お嬢』

 失礼極まりないことよりも、何故そこに”お”をつけたんだ? ということが忘れられない。その事がどうしても気になっていて、気づいたら付き合うことになっていた。人生何が起きるか分からないものである。


──そういえば、何故付き合うことになったんだっけ?


悠は、彼と付き合うことになった経緯について想いを馳せたのだった。

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