レベル10 尾行
「オラ!いつまでボーっとしていやがる。とっとと働きやがれ!!」
ボス・オークがそう
くそッ……
当のスライムたちが『これでいい』と言っている以上、俺にはなにもできない。
「う、ううう……」
あっ!
それはそうと、最長老のジイさんがオークに蹴られたんだった。
俺は、あわてて白ヒゲのところへかけ寄り回復魔法をかけてやる。
パアァァ……☆
「これでよし」
「かたじけない。スラ
「そんなことより、どーなってんだよこれは」
「見てのとおりですじゃ。これが今のスライ村……。
「ジイさん……」
「あ、このジジイ!もう動けるならさっさと持ち場へ戻れ」
「ひっ。今まいりますですじゃ……それではスラ
こうして白ヒゲも行ってしまった。
「……なんてこった」
俺はしばらく呆然と立ち尽くしていた。
だが、やがて畑をあとにし、とぼとぼと村を歩いていく。
マジで……どうすることもできない。
俺から見れば、スライ村のスライムたちはどう見てもオークにイジめられているようにしか見えなかったけれど、そのスライム側が、
『オークさんはむしろトモダチ』
と言うのである。
それに、こうして見るとやはり村の家々は立派になっている。
給料をもらっているというのも、なるほど、たしかなのだろう。
まあ、400年もこの村を出ていた俺が、この現状にケチをつけることはできないのかなぁ。
とは思う。
「はぁ……」
が、やはり心をモヤモヤさせつつ歩いていたのだけれど、ふと気づくと……
俺は、例の河原を歩いていたのであった。
子供の頃、みんなで遊んだあの河原。
ガサ……
ふと、草むらがそよぎ音を立てた。
……その向こうに
「ゴン吉?」
俺は声をかけてみる。
が、しかし、そこには誰もおらず、ただ草がゆれているだけだ。
気のせい、か。
でも、それでちょっと昨日の夢を思い出すことになった。
経験値になったはずの仲間たちが、草の向こうからこちらをジッと見つめていた、あの夢を。
あれは本当に夢だったのか?
いや。夢だったかどうかなんて、どーでもいい。
問題は、あの昔の仲間たちが今のスライ村を見てどう思うだろうか……ってことだ。
たしかに、俺たちスライムは昔っから弱くて、すぐに初級冒険者たちの経験値になっちまったけれど、それでも……俺たちは俺たち自身で生きていた。
他のモンスターに頼りっきりになったり、子分になったりはしなかった。
そんなこと、俺たちからすれば当たり前の、最低ラインのことだ。
そんな感覚の時代に生きていたゴン吉たちが今のスライ村を見たら……
やっぱり悲しむんじゃねーかな?
「……っ!」
俺は『キッ』と振り返り、畑の方へ引き返していった。
◇
とは言え、だ。
『強いからってなにしてもイイってわけじゃあないだろ』
というボス・オークの言い分も一理ある。
どうやら俺は、すでに少なくともオークを簡単に倒せるだけの力を持っているらしい。
それは、さっきの戦闘でわかった。
たぶん今すぐオークたち全員をぶっ倒すこともできるだろうし、それが一番簡単と言えば簡単だろう。
だって、もうオークより俺の方が圧倒的に強いんだもんね。
でも、この力の差をいいことに、一方的にヤツらをボコすだけだと、これはもうオークたちと同類ってことになる。
だから、
『オークたちがスライムを不当にコキ使っている』
という絶対的な証拠をつかんでおきたい。
というわけで畑の方へ戻った俺は、とりあえず身を隠しながら様子を
そして夕暮れ時。
……かぁー、かぁー!
「よし、今日はここまでだ!」
ボス・オークがそう号令すると、スライムたちはその場にへたれこみ、オークたちはのっしのっし畑からあがってゆく。
そして、なにやら裏山の
シュン!シュンシュン!……
俺は気配を消し、ヤツらのあとをつけていった。
しばらくゆくと、木々のなかに巨大な
「こんなところに……」
オークたちはゾロゾロと
なるほど。
ここがオークたちのアジトってわけか。
よし、なんとかバレないように潜り込んでやろう……
そう思って
「カシラ。こんなスライムしかいないような村で見張りが必要なんですか?」
やべ……オークが出てきた。見つかる。
俺はあわてて木の幹へ『みにょーん』とへばりついて身を隠した。
「口ごたえすんな。お前らは俺の言うことを黙って聞いてりゃいいんだよ」
おっ。あのボス・オークだ。
「でも……みんな酒飲んでるのに、俺らだけ」
「なあ?」
と、
「チッ、しょうがねえな。見張りのワケを説明してやるよ。……というのはな。今日の昼、ぶさいくなスライムがヤンチャしてきただろ?」
ぶさいくなスライム?
そんなヤツも来たのか……
「ええ。すげえ強い、ぶさいくなスライムですよね。アイツのボディ・ブローは速かったわぁ」
……って、俺かよ!
この超☆美形スライムのスラ様に向かって『ぶさいく』だと!?
やっぱ今すぐ全滅させてやろうか、この豚どもめ!!
「でも、アイツ。カシラが出てくると尻尾巻いて逃げていったじゃねえすか」
「はぁ。お前らはバカだな。あのスライム、顔はぶさいくだが、オレたちじゃてんで相手にならねえほどのすげえパワーを持ってるんだぜ」
「そんなにすげえヤツなんすか?」
「そんなことも見抜けないからお前らは並なんだよ。その証拠にな。さっき回復班から報告を受けたんだけどよ。お前らがあのスライムから受けたダメージは全部ちょうど『23』だったらしい」
「はあ。ダメージ23すか。思ったよりたいしたことねえっすね」
「やれやれ。あのな。たしかに普通に『23くらい』のダメージを与えるだけだったら簡単だぜ? でも、あれだけ殴りちらして、それがぜんぶ偶然同じダメージでそろうってありえねーだろ。ヤツは精密にコントロールしていやがったんだよ。それもあのスピードでな」
「なるほど。そう聞くとスゴいっすね」
「で、そんなヤツがなんであのまま引き返したと思う?」
「さあ。腹でも減ってたんじゃねーんすか?」
「バカ。それじゃあメシ食ったらすぐやって来るはずだろ。いいか? オレの説ではな。アイツはオレたちのアジトをつきとめるためにワザと泳がせたんじゃねーかって思うんだ。だから今夜、ヤツが攻めてくる可能性ってそれなりにあるんだぜ」
2匹のオークたちは、ボス・オークにそう説明されるとブルブル震えだした。
「で、でも……見張りしててもヤツが来たら一巻の終わりじゃねーすか?だって、オレたちじゃ歯が立たないんでしょ」
「ああ、普段だったらヤバかったな。でも、今日はちょうどA&B商会のザハ会長がいらっしゃっている。つまり……」
「ボディ・ガードの邪龍眼リリト様も来てるってことっすか!」
「……まあ。あの人の場合『邪龍眼』ってのは自分で言ってるだけで、実際はただ物理で殴ってるだけなんだけどな」
「そーなんすか!?」
「でも、リリト様の強さはマジもんだよ。いくらあのスライムが強くてもしょせんはスライムだ。リリト様の足元にも及ばねえだろ。お前らの役目は、もしあのスライムがやって来たらすぐにリリト様を呼んでくるってことだ。それくらいお前らにもできんだろ」
「はあ」
「まあ、ヤツも単に『こんな村カンケーねえ』って思って帰っただけかもしれねえから、オレの杞憂に終わるかもだけどな。それにしばらくしたら交代を送るからよ。ちょっとの辛抱だ。頼むぜ」
そう言ってボス・オークは
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