レベル4 スライムVSゴブリン


 ふー、危ない危ない。


 それにしても世の中、ちょうどいいケンカの相手というのにはなかなか出会えないものだなあ。


 いきなり連続でドラゴンと超強い女騎士だ。


 そういうんじゃなくてもっと弱めの、例えばゴブリンとかがスライムの相手としてはちょうどイイと思うんだけどなあ。


 ……などと思いながら、またズリズリ道をっている時だった。


「きゃー!」


 ふいに絹を切り裂くような悲鳴があがる。


 何事かと思ってっていくと……


「ヒャハー!このスライム、イイケツしてやがんぜ」


「や、やめてください!」


 なんと。


 一匹のメスのスライムが三匹のゴブリンに囲まれているではないか!


「ひひっ、いいじゃねーか」


「嫌っ!」


「ちょっとだけだよ。ふひひひ」


 たしかに、弾力のありそうなイイお尻をしたスライムだ。


 何百年もメスの姿を見ていない童貞の俺にはちょっと目に毒なほどである……


 それをヤツら!


 さわろうというのか?


 揉みしだこうというのか?


 う、うらやましい!


 ……じゃなくて、許さん!!


 まさにゴブリンがちょうどイイ相手だと思っていたところだ。


 スライムのびにしてやる!


 と……思うが。


 いやいや冷静になれ、俺。


 ゴブリンとは言え、相手は3匹だぞ?


 もちろんこっちもスライムとは言え400年修行したスライムだ。


 ゴブリン1匹が相手なら互角に渡りあえるという自信はある。


 でも、1対3じゃあ、いくらなんでもが悪すぎないだろうか。


 ここは勇気ある撤退という手も……


「ヤダ……だれか助けて!」


「コラー! ヤメロー!!」


 と思ったが、メスの悲鳴に自然と身体からだがビヨーンと前へ出てしまった。


「ぁあ? なんだぁお前」


 3匹のゴブリンたちが虫ケラを見るような目で俺をにらむ。


「え、ええと……その……」


 ヤバイ。


 やっぱゴブリン怖え。


 ふるさとにいたとき、何度もイジメられた記憶がよみがえる。


「その、ええと。そ……その女性ひとから離れてもらえないかなあと、そのように思いまして……」


 震える声でそう答えると、ゴブリンたちは互いにキョトンとした顔を見合わせた。


 そして、しばらくするとドッ!と笑いだす。


「ぎゃははは! このスライム! おもしれえぞ」


「よほど痛めつけられたいらしいな」


 と言いながら威圧しつつ囲んでくる3匹のゴブリン。


 ボ、ボコられるう……


「はははっ、コイツ震えてやがる」


「ケッ、スライムのくせにイイ格好しようとするからだよ」


「それ! やっちまえ!!」


 襲いかかってくるゴブリンたち。


 しかし……


「おらーぁ」


 おそッ?


 さっき女騎士の槍の速さを見たばかりだからだろうか、マジでスローだ。


 こっちがスライムだからって遊んでるのだろうか?


 そう思って俺はゆっくりとゴブリンたちの攻撃をかわして、のんびりと包囲網の外へ身体からだわせていった。


「なに! 消えた!?」


 ゴブリンたちはそんなふうにキョロキョロする。


「おい! こっちだぜ」


 仕方がないので居場所を教えてやった。


「あっ、てめえ。そんなところに!なにしやがった?」


「逃げてんじゃねーぞ!」


 相手がそう言うので、俺はためしにグニュっと身体からだを変形させ、様子見ようすみのジャブを一発はなった。


 ヒュン……


「へ?」


 攻撃は外れたけど、ヤツらの背後の木をかすめる。


 めき!めきめきめき……ずどーん!!


 木はまっぷたつに折れ、ゴブリンたちの間に倒れた。


「え、あ、おお」


「かっ……こ、きくく」


 ゴブリンたちは悪い目つきをいっぱいに開いて言葉もないという様子であった。


「……あ、ありえねえ」


「な、なんなんだお前は……?」


「別に。ただのとおりすがりのスライムだよ」


 なんだかカッコつけて答える余裕が出てきた。


 俺はスライム・フットワークで三匹の周りをポヨンポヨンと回りながら続ける。


「次は当てるぜ。クックック」


「う、動きが見えねえ!?」


「ひ、ひい……」


「お、おぼえてやがれ!」


 そう残してゴブリンたちは逃げ去っていった。


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