第10話 シルヴァン・ロンデックス
「ずいぶんと賑やかな夜だな。シュショットマン」
突然現れた第三者の声。坂道を下って来たのは、治安維持局所属のシルヴァン・ロンデックス少佐であった。
「遅かったな。ロンデックス」
「いきなり無茶振りをされる方の身にもなってみろ。捜査員を動かすにも、色々と手続きがいるんだよ」
「軍属はしがらみが多くて大変だな」
「何にも縛られない。身軽な探偵が羨ましいよ。縛られて動けなくなっている奴もいるようだが」
呆れ顔のロンデックス少佐の視線が、縛られて転がっているマンディアルグを見下ろした。
「起きろ。お迎えだぞ」
ギーが慣れた様子でマンディアルグの上体を起こして気つけをすると、気絶していたマンディアルグの意識が覚醒した。真っ先に視界に飛び込んできたのは、腕を組んで仁王立ちする同僚のロンデックス少佐の姿だ。
「良い夢は見れたか? マンディアルグ大尉」
「ロ、ロンデックス少佐! どうしてこちらに」
「ジャックミノー卿のご息女が事件に巻き込まれているとの情報を得てな」
「そ、それは全てシュショットマンとかいう探偵を名乗る男の仕業です! 面目ありませんが、自分も奴に襲撃されたこのような醜態を。奴はジャックミノー卿のご息女の誘拐事案に関わっている可能性があります! 洗脳されているのか、ご令嬢の証言は要領を得ません。どうか冷静なご判断を!」
目覚めて早々にストーリーを組み上げ保身に走るあたり、マンディアルグの諦めの悪さも筋金入りだ。ギーとロンデックス少佐が知人であることを知らないとはいえ、その姿はあまりにも
「ギー・シュショットマンのことならよく知っているよ。彼に君の身辺調査を依頼したのはこの私だからな」
「何だと……」
辛うじて
「君には以前から疑念を抱いていてね。だが組織の内部監査はあまり信用していないし、少佐の立場の私が直接動けば何かと目立つ。だから依頼という形で、信頼出来る外部のシュショットマンに調査を依頼したんだ」
「……あんたが裏で糸を引いていたのか。どうして私に目をつけた?」
「君の活躍ぶりははっきり言って異常だ。西方支部所属時からの因縁があるとはいえ、王都着任以降、君にとって都合の良い、グリラファールに関連した功績があまりに多すぎる。王都での影響力を高めるために功を焦ったんだろうが、性急過ぎて私には悪目立ちに映ったよ」
「悪目立ちだと? 功績を上げて異例の出世を遂げる前例を作ったのは、他ならぬあんただろう」
「過去の功績を誇示する趣味はないが、だからといって君のお
昨今はドゥヴネットファミリーが弱体化し、いよいよ当時の残影も消えかけている。そんな時期に君は、当時の私を
「……くそっ! くそっ!」
正論を前には感情的な反論さえも出来ず、マンディアルグはただただ悔しさに歯噛みするばかりであった。両手両足が捕縛縄に拘束されていて、怒りに任せて拳を地面に打ちつけることすらも許されない。
「世話になったな。シュショットマン」
完全に心が折れたマンディアルグを後目に、ロンデックスは感謝の握手を求め、ギーもその手を握った。
「ここから先はお前に任せるぞ。善良な一般市民の出る幕は終了だ」
「まったく、君のような一般市民がいてたまるか。シルヴァン・ロンデックス少佐の名に懸けて、マンディアルグとグリラファールの連中には、しっかりと法の裁きを受けさせると約束しよう」
直にここにも応援が到着する。マンディアルグの身柄を引き渡したらロンデックスも、先に部下のエルヴェシウス少尉を向かわせた、グリラファールの拠点の倉庫に合流する予定だ。
「お嬢さんはこのままジャックミノー卿の屋敷に送らせてもらうぞ。これは俺の受けた依頼だからな」
「止めはせんよ。娘を心配する父親の心情を思えば是非そうしてくれ。後日改めて卿やお嬢様には事情を伺いに行くから、卿には君から事情を通しておいてくれ」
「それぐらいはサービスしておく」
ロンデックスに別れを告げると、ギーはルイーズに手を差し伸べた。
「お屋敷までお送るよ。夜道は危ないので逸れないように」
「ありがとうございます。えっと、ギー様でしたよね?」
「探偵のギー・シュショットマンだ。以後お見知りおきを」
思えばルイーズ個人にはまだ名乗っていなかったので、ギーはこの機会に自己紹介をし、名詞を一枚手渡した。
「何かお困り事なら、ぜひシュショットマン探偵事務所にご依頼を」
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