Chapter.24 決断


結局颯太の友達が来てくれて荷物運びしてくれて私たちはバイクで颯太の家に向かった。夢を見ている様な感覚だった。夢なんじゃないかとすら思った。

私は昨日の今頃まで客を取っていた。夢なら醒めなきゃいいのに。


ずっとこのまま時が止まったらいいのに。

颯太の大きな背中に掴まりながらそんなことを思っていた。



やがて颯太の家に着き颯太のご両親に改めてご挨拶した。


『おかえり、彩花』


そんな優しい言葉に涙が出そうになった。


『心配してたのよ、よく帰ってきたね。

ご飯食べる?作っといたんだけど。』


『本当ごめんなさい…ありがとうございます』


本当だったらもううちの息子と別れろと言われたっておかしくないのに温かく迎え入れてくれた。優しい人たちだった。


そして明日の話し合いの話や、私がこっちへ戻ってきたって話は私の両親にしてくれたらしい。改めて思うが本当に迷惑をかけてしまった人達だった。

彼らがいなかったら今の私はいないだろう。


心から感謝を述べたい。


温かいシチューを出してくれた。

毎日外食やコンビニで適当に済ましていたが

久しぶりに食べる人の手料理は本当に美味しかったし何より心に染みた。

未だにシチューを口にするとこの時の事を思い出す。


不思議とコンビニのお弁当だって美味しかったはずなのに改めて人の料理を頂くと味気なかったんだなと気付かされる。手料理って不思議な力があると私は思うのだ。


颯太はじっとたまに私を満足そうに微笑んで見た。

それが照れ臭くって恥ずかしかった。


その夜は手を繋いで眠った。

『もうどこにも行かないで』


そんな事をうわ言のように颯太は繰り返し言っていた。


私は『うん』と言ったが内心明日の話し合いに怯えていた。

どうなっちゃうんだろう。でも高校辞めるならちゃんと辞めて其れからにしなきゃ。でもそうしたら颯太達をまた悲しませちゃうんだな。


どうしたらいいんだろう。

颯太の長い睫毛を見ながら胸が揺らいでいた。


普通の女の子になりたかった。

何でいっつもそれだけが叶わないんだろう。


それだけしか 望んでないのに。


結局一睡もできないまま朝を迎えた。




そしてお昼頃だっただろうか。近くのファミレスで私の両親と颯太の両親、私達で話し合いの場を設けられた。


一番最初に言葉を切り出したのは父親だった。



『彩花、高校だけは卒業してほしい。

じゃなきゃ死んだ親父とお袋に顔向けができない。』


『…。』


『具体的にどうするつもりなんですか?その…彩花が家出をする原因がやっぱりあったんだと思うんですが』


颯太のお父さんが父に聞く。


『アパートを借りようと思います。』


『お母さんにですか?』




『いえ、彩花にです』




一瞬場の空気が凍りついた。




『え…彩花ちゃんを一人で暮らさせると言う事ですか?』


颯太のお母さんが驚いた様子で聞く。



『彩花にはまだ下に妹弟がいます。彩花にはもう必要のない母親でも

やっぱり母親は必要だと思うんです。』



何故か母親が啜り泣き始める。



『今それ以上の解決策もないと思うんです。な、だから彩花。

一回耐えて家に戻ってこい。アパート借りるまでは。すぐ借りるから。』



何故 追い出されるのが 私なの?



聞けなかった。

聞くのが怖かった。



少なからず暴力を受けていたのは私だけじゃない。

妹や弟だってそうだ。それでも母親は必要って事で私は省かれるの?



『うんわかった』



全ての気持ちに蓋をした。

私が頷かなければ話はいつまでも終わらない、

そんな雰囲気だったからだ。




颯太の家に行き荷物を積んで家へ戻った。

そして翌週 高校の近くにアパートを借りて本当に一人暮らしが始まった。




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