Chapter.25 道化師


そんなこんなで私の人生初の一人暮らしは高校2年生の時に始まった。

最低限の家具、狭いワンルームの部屋。そして1人きりの暗い静かな部屋。

そんな中友達や颯太も遊びには来てくれたけどいつまでも一緒にいてくれる訳じゃない。楽しい時間の後は孤独をより一層強くするのだ。


でも母親と暮らしていたあの地獄のような日々に比べたら全然マシだ。そうだ。怒鳴り声や母親の足音に怯える必要もない。これ以上何かを求めるなんて贅沢なのだ。そう言い聞かせながら私は自身がずっと抱いている疑問に答えてあげる事が出来ずにいた。


何故、私がこんな寂しい思いをしながら暮らさなくてはならないんだろう。

暗いワンルームで引きこもっていると幻聴が私に話しかけてくるのだ。


『お前は、誰だ?』


とそう男が私に語りかけてくるのだ。


怖くてたまらなかった。でもこんな話誰にも出来なかった。

私は常に演じていた。〝明るくて楽しい人間〟を。

ムードメーカーだなんてよく言われた。いつもケラケラ友人の前では笑って友人達を笑かせていた。それが苦痛だった事は無い。何故なら本当の自分を

知られることの方が許せなかった。怖かった。


私の母親がアルコール依存症で私はそんな家庭で育って家追い出されて一人暮らししてるなんて言えなかった。アパートで一人暮らしした理由だって私があまりに学校行かないから親が見兼ねて借りてくれたって笑い話にしていた。


思い返せば数だけの友人ばっかりだった。本当の私を知ってほしい人も居なくて気付いてくれる人も居なくて。誰でもよかった。誰でもいいからそばにいて欲しかった。


1人でいると幻聴が酷く怖く眠れなかった。

先輩に分けてもらった睡眠薬や安定剤を大量服薬して眠る。

死んでもいい、もしかしたらそれが一番ハッピーエンドなのかも。

そんな事を幻聴をぼんやりと聴きながら意識朦朧として気を失って眠る。


朝は体が鉛のように重く頭痛が酷かった。高校を卒業して欲しいと言われ

わざわざ学校の近くで借りたアパートなのに学校に行くのもままにならなかった。行けたとしても一日中寝てるような感じだった。


『昨日また夜遅くまで遊んでたんでしょー?!』


友人がケラケラと私に言う。

私は言う。


『あっバレた?!』


言えない。

幻聴が酷くてO Dしたから怠いんだ、なんて。


笑え、笑え私。

話す勇気なんてないんだから。


隠し通せ。

辛いんだ、って泣く勇気もないんだから。



母は相変わらずでなんで私が一人暮らしなんてしてるのかわかってない様子で父もなんて伝えていたのかも分からない。

私が居なくなり、矛先が妹と弟に向かう事が心苦しかったが

私はもう逃げ出すことで精一杯だった。


私の本当の心の中にある深い闇を知ってくれ理解してくれていたのは颯太だけだった。そんな私を見兼ね颯太の両親も食事に誘ってくれたり泊めてくれたり家具をくれたりした。


本当に優しくて温かい人だった。

颯太と一緒になれたら幸せだな、そんな事を思う様になった。


お茶目なところも子供っぱいところも全部が大好きだった。

彼が私の全ての救いであり生きる糧だった。


一緒にファーストフード店でバイトも始めた。私もアパート代や光熱費を払わなければならなかったし釣り道具屋と掛け持ちし少しずつ生活を立て直していった。もちろん幻聴が消え失せた訳ではなかったけどいつかこの幻聴も消えていくって、一緒にいれば前向きになれた。演じない自分で居ることが出来た。


颯太との時間は本当に、幸せだった。











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