Chapter.23 揺動


『彩花、帰ろ、皆で。』


亜純が続く沈黙の中から切り出す。


『……。』


わざわざ会いに来てくれた友人達、目の前にいきなり現れた颯太を目の前にして私は迷いが生まれてしまった。


でも戻ればあの家に帰らなくてはいけない。


『俺、父ちゃんと母ちゃんに今日言ってきたんだ。』


颯太がぎゅっと私の手を握った。


『必ず、彩花を取り戻してくるって。』



颯太のお母さんとお父さんは実の娘の様に私を可愛がってくれた。何日お世話になっていても事情を知ってか知らずか家に帰れと咎めるような事もしなかった。



『いやでも私は帰りたくない。

帰りたくないって事は…皆にまた迷惑掛けちゃうし。

また同じ事の繰り返しになっちゃうから…』




『明日、お前の親と話す予定なんだよ。


その場でちゃんと思ってる事話そう。俺の親も俺も行くんだよ。

捜索願も出されてるんだぞ、彩花


毎晩お前の母ちゃんから俺に電話くるよ。俺の親だって察してるよ。

だから迷惑なんて思ってない。帰ろう、彩花。』



何故うちの親が颯太の番号知ってるのか?

素朴な疑問だったがいきなり母から私が居なくなったあたりに掛かってきたという。恐らく家に居る間私が目を離してる隙にまた私の携帯を見たんだろうなと察した。


『てか、ダメだったんならまた戻ってくればいいべな!新宿に!

一回皆で帰ろうよ!彩花!』


亜純が言う。



『…うん』



今の状況の方が迷惑かかってると思った。

確かにダメならまた新宿に戻ればいいか。


これが 最後のチャンスだ。



『荷物とってくる。皆ここで待ってて。』


颯太が一緒に行くと言ったが本当の事を話せていなかったし待っててもらった。

事務所に戻り佐藤さんに事の経緯を話した。


『おう、そうか。ならよかったじゃない。

またなんかあったら帰っておいで。』


そう言ってくれた。


正直こんなあっさり良しと言ってくれると思っていなかったから

びっくりしたけど荷物をまとめて挨拶して後にした。


ちょっと慣れつつあったこの都会ともさよならだ。

いや、でもまた戻って来る事になるかもしれない。



山手線に乗り、やがて常磐線に乗り1人で来た道を5人で戻る。

心強かったような、複雑な気持ちだった。


今日は颯太の家に泊めてもらう事になった。

亜純達が降りる駅が少し手前で降りる前に私の目を真っ直ぐに見て


『もう勝手にどっか行かないでよ、次はちゃんと話してよ?』


と言われた。


『うん、もうしない。ありがとうね…。』


そう、言うしかなかった。

あんな目をされたら。


やがて亜純達が降りて行ってしまった。

騒がしい3人がいきなり居なくなって何となく気まずい雰囲気が流れる。


『よかった。彩花が戻ってきてくれて』


悲しい笑顔をして 彼はそう言った。

この時になっても私は自分の価値が分からなかった。

何でここまでこの人達は私の為にするんだろう、と。


この世の中で一番無駄な時間なのに。

私のような社会不適合者の端くれの様なやつに使う時間なんて。


駅を降りて地下駐輪場でヘルメットを渡された。


『絶対取り戻すって決めたからちゃんとお前のヘルメットも

持ってきたんだかんな!!』


『でも…荷物どうしよ』


『俺、その空気読めないとこも本当好き』



そう言ってキスをされ抱きしめられた。



『彩花…本当にごめんな』



懐かしいブルガリのこの香水の匂い。

大好きだったなぁ、この匂い。


違うな、今も本当は好き。


本当の事を話したら楽になるんだろうか。

それは私の事しか考えてない証拠なんだろうか。


『颯太、私ね』


『いい、何も言わないで、今はこれでいい。』



察して居たのかな。

それともこんな事実とは思っていなかったのかな。




今ではもう知る事はできないけれど







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