Chapter.9 絶望
結局付き合っていた彼氏とは気まずい雰囲気のまま時が過ぎていった。返って笑ってくれたら楽だったかもしれない。私は一生こうやって母に築こうとしたもの全て破壊されてゆくんだろうか。もう築く事すら怖かった。私と関わると不幸になる。そんな考えに囚われた。実際そうだったからだ。孤独だった。腕の傷が日に日に増してゆく。
そんな中ほぼ同時期に父が会社でくも膜下出血で倒れ、渡米していたグランマが胃がんと診断を受け帰国し懸命な治療を受けるも急逝する。母は益々心のバランスを崩し私達がストレスの捌け口と化する。当然のように父は入院しているし誰も助けてくれない。母もいっぱいっぱいだったのだろうとも思えるが私もほぼ毎日と日常化した暴力も唯一私の心に気付き動いてくれたグランマの逝去は本当に辛かった。
それこそ生前数回しか会う事ができなかったけどとても華やかな人だった。クリスチャンだった為お線香などは一切なく生前好きだったという綺麗にトゲ抜きがなされた真っ赤な薔薇が献花だったのだが本当に眠っている様だった。信じられなかった。だから献花の際そっと頬に触れた。冷たい皮膚。今まで一度も触れたことのない様なその独特な感触は今も忘れる事が出来ない。そしてそれと同時に本当に死んでしまったんだと、そしてこれが死なんだと知った。
子供の様に泣きじゃくる母を見て 何もしてあげたらいいのか分からなかった。私に出来る事など私がかけてあげられる言葉なんか一つもないのだから。こういった時の慰め方だったりの手立てが今もまいちわからないのだ。
グランマの葬儀からしばらくして奇跡的に父は回復し、障害等も残らず退院を迎えられた。だが不幸はまだここで止まない。山形の祖父までもが心臓発作で亡くなったのだ。
私を救おうと助けようとしてくれた人達が皆この年に亡くなってしまった。私が彼等に助けて欲しいなどと願ってしまったが為に連れて行かれてしまったんだ、そう自分を責めた。今思えばそんな話はあり得ないが当時の私は真剣に懺悔した。皆私のせいだ。
この時父の涙を初めて見た。
何があっても私の前で泣いた事のない父が祖父の亡骸を見て泣いていた。
ふと『私が死んだらこうやって父はと母は泣いてくれるんだろうか』
私にも同じ位この命に価値があるんだろうかそんな事をずっと考えていた。
もう私を助け出そうとしてくれる人は1人といなくなってしまった。そしてこんな同時期に。幻聴や得体の知れない焦燥感、希死念慮といった症状の頻度がどんどん増していく。
誰も泣いてくれなんかしなくてもいい。
グランマと祖父の元に行きたい。暖かい生活がしたい。
また抱きしめて欲しい。
私の命に重さを見出してくれた2人に会いたい。
2人を失ってから自分の命の重みが零れ落ちていく感覚さえした。
誰か助けて。率直に言えばこの言葉だったけど誰にも打ち明けられなかった私には2人の死は絶望の新たな再出発の他なかったのだった。
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