第106話 仮面
俺は誰に対しても優しく接していた。女子とも会話があったし、印象も悪くなかったと思う。
だが俺は異性としては見られていなかった。そのことを実感したのは女子たちが男子俺一人だけが参加している会話の中で恋バナを始めたときだった。
正直、意味がわからなかった。自分がなぜその場にいるのか、そこにいるのになぜ恋バナを始めたのか。
〇〇だったら別にいいかなって。君はそんなことを平然という。
俺はポカンとしたまま恋バナを聞かされていた。ただ呆然と俺の恋は実らないことを悟った。
彼女たちが口にする名前はあいつだけはないだろと言いたくなるメンツばかりだった。見る目がないなと顔に出さずに失笑する。
いや俺にいう資格はないか。横目に君の顔を見る。
異性として見てないと断言されたのに俺の目に映る君は、いつもと変わらず可愛くて魅力的だ。怒っていいはずなのについ許してしまう。
俺は人畜無害だ。だがそう振る舞っているだけで、俺にだって欲はあるし下心がないわけじゃない。
大抵の人には表面上の顔と本当の顔がある。彼女たちがいいよねと口にするあいつは乱暴者で加減知らずだ。
みんな見た目に騙されている。本性を知らずに迂闊に心を開いている。
本当に親切なら本性を教えてやるべきだ。そう振る舞えば人畜無害ではなく一人の男としては見てもらえるのに。
俺は会話に混ざり薬にも毒にもならない無難なことを口にする。仮面の笑顔を外せずにいた。
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