第100話 道程ラブソング
近所に住むおじさんに、僕はギターを習っている。聞けば母さんと同級生らしい。
おじさんが学生時代に書いたラブソングはそこそこ売れて、母さんもCDを持っている。今でもよく母さんはあの歌を口ずさんでいた。
そこのことをおじさんに言うと照れくさそうにする。だけどどこか物憂げだ。
おじさんはバンドも解散して楽器店を営んでいる。かつての栄光を思い出して今と比べてしまうからだろうか。
おじさんのおかげで、僕はギターを何とか弾けるようになった。だけど歌詞がどうしても思いつかなくて。
おじさんは言う。恋をすれば自ずと歌詞はできると。
僕は長らくそれが分からなかった。だけどよく遊んでいる幼馴染の君が恋人ができたと言ったとき、初めて君に恋していたことに気づいた。
今更、伝えたところで。君にはもう彼がいて。
その事実を遠ざけたくて、僕はギターに没頭した。いつの間にか歌詞はできていた。
学園祭で思いの丈を歌った。彼の隣、君が僕のラブソングを口ずさんでいる。
呆然としながら帰って洗面台に立てば鏡にしみったれた顔の自分。おじさんと同じ顔をしていた。
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