第5話 立て直し
【2025年6月】
(桜第一高校の屋上)
沙里奈「久々にここに来たけど、やっぱりここは難しいんじゃない?」
鏡花「んー、そんなことはないよ。十分可能性がある」
沙里奈「ふーん。やっぱり鏡花は変わってるね。ま、私はついてくだけだけど」
鏡花「じゃ、決まりで」
私の名前は、徳川沙里奈。
去年の冬に訳ありで転校して来た。
二卵性双生児の弟である、鏡花、も同じ。
転校して直ぐ大学受験で、残された学校行事なんて卒業式くらいだから、
結局最後まで友達っていう友達を作れずに、東京に行く予定だった。
私は、みんなが目指す名門私立J大学の文学部英文科への進学が決まってた。
弟の鏡花は、名門私立K大学の経済学部への進学が決まってた。
でもまあ、こんな世界になっちゃたから、もう学歴だの就職だのって話は、どうでもいいことになっちゃたっぽいんだけどね。
3月ごろを境にして、世界は変わっちゃた。
変わったの度合いが、全然桁違いなんだけどね。
いわゆる未知のウイルスかなんかでみんなの様子が変になっちゃって、それから町が、国が、世界が、ズタボロよ。
世界が今どうなってるかは、正直わかんない。
だって、テレビも付かない、スマホも通じない、ラジオも、ラジオはそもそも本体が全然見つかんない笑
あのドタバタを命辛々乗り切って、今日まで来た。
桜第一高校から最も近い商店街が、桜柳街(オウリュウガイ)。
ここで日々の物資を工面しながら今日まで生きて来た。だんだんと奴らの特性や動きを理解して来た私たちは、罠を仕掛けながら、時に戦いながら、徐々にこの世界に順応していった。
最初の1ヶ月は流石にしんどかったけど、今現在、よっぽどな集団に出くわさない限りは、ピンチにならないで戦える。
今私たちがこの学校で行動に移そうとしていること、それは、生活の拠点を本格的に整え、人類の安定的な発展を取り戻す為の作戦を練ることだ。
鏡花「姉ちゃん、もしもーし、呼ばれてるよ」
沙里奈「えっ?ごめんごめん、なんて?」
鏡花「だから、明梨が下で呼んでるってさ」
沙里奈「あっ、そうなの?じゃあ行ってくる」
鏡花「うーい」
初夏の暖かさが私たちの心を和ませてくれてる。
清らかな風を割れた窓ガラスの間から感じつつ、下の階である3階の中央の教室へと向かう。3-Bクラスだ。
沙里奈「ごめん、どしたの?」
明梨「あっ、お疲れ様です!航平が何かを見つけたようで」
沙里奈「何かを?」
明梨「はい!剛と二人で体育館にいるそうです」
沙里奈「わかったわ。伝達ありがとう。他のみんなも大丈夫かしら?」
明梨「はい。私以外は、念のため校内全体の安全を再度確認しに回っています。」
沙里奈「うん、ありがとう。念のため、とても大切なことだわ。よろしくね。あと、言うまでもないことだけど、常に3-Bには人が一人、残っている状態を維持してね。何かあったときの最終防衛拠点という意味でもあるから。」
明梨「はい!」
明梨はいつも信頼できる。私の左腕ね。なんちゃって。
さあ、体育館に行きますか。
この事件が、必ずしもウイルスが原因だと言い切れない理由がある。
それを解き明かすヒントだといいのだけれど。
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