第13話

13


「おらあっ!」

相沢は体術を駆使して神聖騎士を倒していた。

足払いで転がし、投げ飛ばして、兜の上から踏みつけて気絶させる。

手間は掛かるが、なるべく傷つけないやり方をするとこうなってしまうのだった。

剣持も同じように倒している。

「ホールド!」

「バインド!」

タリサと如月は拘束魔法を使っていた。

動きを封じる。

その後、相沢と剣持が踏みつけて気絶させる。


ビクトールさんたちを追っていた神聖騎士は、急に現れた相沢たちには対応しきれなかった。

神聖騎士団はスペックこそ高いが、戦闘経験が少ないのである。

ぼくはそれを悟っていた。

消耗戦に持ち込もうとしているのはそのせいだ。


ビクトールさんたちも加勢してきた。

形成逆転だ。

ぼくたちは神聖騎士団を倒した。


「いやー、助かりましたぞ、勇者殿」

ビクトールさんは言った。

お世辞であることは分っていたが、嬉しかった。

ぼくは何のために戦ったのか。

それは誰かを助けるためなのかもしれない。

「アイナもな」

「任せて、こんなヤツらには負けないお」

相沢はガッツポーズ。


『ゲートが…』

タリサが慌てていた。

「どうした?」

ぼくが聞くと、

『閉じてしまっている』

タリサは頭を抱えた。

『あー、書がないからゲート開けない……』

「前に開いた時のは?」

『持ってきてない、というか魔力を使い切ってしまったんだ』

タリサはうなだれている。

ズーン。

という効果音が聞こえてきそうだった。


「ゲートを開くには書がいるんだ」

沈み込んでいるタリサに変わって、如月が言った。

「書っていうのは、例の魔道書のことか」

ぼくは分りやすく言い換える。

「そう、そんな物は王国の図書館くらいにしかない」

「ゲッ、また戻らないといけないの?」

相沢は青くなっている。

「いや、そんな危険は犯せない」

ぼくは頭を振る。

それにエドワードの犠牲が無駄になってしまう。

エドワードは、恐らく故意にぼくたちを逃がした事で罪に問われているだろう。

「じゃあ、どうすんだ?」

剣持が聞いた。

「魔道書なら、どこかの迷宮に残っているはずだ」

スカラーが言った。

『……確か、レグル迷宮にあったハズだよ』

タリサも記憶を探っていた。

そう言われると、レグル迷宮に潜った時、見かけた気がする。

その時はもう一つの宝物であるキーアイテムを取るしかなかったので、魔道書は諦めたのだった。

「へー、迷宮に入るのかー」

相沢が驚いている。

「怖いか?」

剣持がからかった。

「んなことあるかいー」

相沢が強がっている。

「すぐに出発ましょう」

ビクトールさんが言った。

「王国の追っ手が来る前に」

「そうだった、追っ手が来るんだった」

ぼくは気付いて言った。

すっかり忘れていたが、追われている身なのだった。

「どうせ隠れる場所が必要だし、ちょうどいいんじゃない?」

如月が肩をすくめる。

「そうだな」

ぼくはため息をついた。



それから、ぼくたちはレグル迷宮に潜った。

1回クリアした迷宮なので、前に通った経路を辿るだけだ。

モンスターたちは例によって、襲ってくることはない。

わざわざ自分たちよりレベルの高い冒険者や種族に攻撃するなど、あり得ないのだ。

ぼくたちはドンドン先へ進み、最後のギミックまで到達した。

つまり、2つのアイテムの内どちらかを選ぶというものだ。

「まさか、前に諦めた方のアイテムを回収することになるとはなぁ…」

『これも運命だよ』

ぼくがブツブツ言っていると、タリサが反応した。

「だとしたら、随分と数奇な運命だよな」

『かもね』

ぼくとタリサは顔を見合わせた。

フフと笑っている。

「こらあっ! 何、良い雰囲気になっとるすかっ!?」

「そこおっ! 風紀が乱れる! 離れろぉっ!」

相沢と剣持が目聡く気付いて、邪魔しに来る。


魔道書は手に入った。

レグル迷宮は、ゲートから離れたところにある。

日数的には2日というところか。

風呂に入れない日々が続いている。

相当臭くなっているだろう。

男のぼくとビクトールさんたちは大丈夫だが、相沢たち女子の心情を考えるとちょっと同情してしまう。

川があれば水浴びなどをして若干マシにはなるが、それでも風呂の効果には及ばない。

王国の手の者に見つからないよう行動するしかないので、どうしようもないのだが。


「勇者殿」

移動途中で、ビクトールさんが話しかけてきた。

「実は、銃弾がほとんど底をついております」

神聖騎士団との戦いが思ったより長引いてしまったのが原因らしい。

まさか銃弾を受けても、回復魔法で持ちこたえるとは思っていなかったのだ。

「じゃあ、白兵戦が主になる訳ですね」

「ええ、我らは接近戦でも力を発揮できますので」

ビクトールさんが言う。

「相沢の働きを見てたらよく分ります」

ぼくはうなずいた。

「ふふ、アイナはよく働いているでしょう?」

ビクトールさんは笑った。

少し身内びいきなところがあるようだ。

「そりゃあ、もう十分に」

ぼくは肯定した。

「勇者殿、私たちに何かあったら、アイナを頼みますぞ」

「やめてくださいよ、そういうの」

ぼくは言った。

「そういうのは、そちらの世界ではフラグというそうですね」

「おや、これは私としたことが…」

ビクトールさんは笑って誤魔化した。


ゲートの場所に戻ってきた。

が、案の定、王国の兵士が待ち構えていた。

100人ほどいるだろうか。

その中にはトラビスと神聖騎士団も含まれている。

無目的に捜索をするより、ゲート跡を見張った方が良いと思ったのだろう。

それは妥当な線だ。

ぼくたちはゲートを潜るしか帰る手段がない。


ぼくたちは茂みに隠れて様子を伺った。

「やはり、ここに張っていたか……」

「倒すのは一苦労ですな」

ぼくとビクトールさんは小声で話している。

「固まっている敵は分散させるに限ります」

ぼくは提案した。

「具体的にはどうします?」

ビクトールさんは聞いた。

「……囮を使いましょう」

「ですが、こちらも分散されてしまいませんか?」

「如月に魔法を使ってもらいます」

「では、お手並み拝見といきましょう」

ビクトールさんは、うなずいて見せた。



「頼んだぞ、如月」

「おk」

如月はうなずいて、荷物の中から取りだした「牙」を地面に放った。

たちまち竜牙兵が10体、生えてきて、カシャリ、カシャリと動き出す。

茂みから出ずに迂回して、反対側から兵士たちの方へ出て行く。


「うわっ!?」

「りゅ…竜牙兵だ!」

兵士たちが気付いて慌て出す。

「押えろ!」

20人くらいの兵士が竜牙兵の相手をするために殺到した。


「これで20人」

ぼくは言った。


さらに、ビクトールさんたちの吸血鬼チームには、また別の方向から攻撃してもらうように頼んでいた。

サッ。

と、ビクトールさんたちが茂みから現れる。

さすが吸血鬼、音もなく動く。

さっと展開して兵士たちに襲いかかった。

「……うわ!?」

「なんだ!?」

「敵だ!!」

兵士たちは浮き足だった。

そこへ攻撃を加えてゆく。

たちまち数人の兵士が倒れた。


「これで、20人」

ぼくは言った。

残り60人。


そしてもう1チーム。

タリサが魔法を唱えた。

『土の塊よ、我が意に応え、敵を倒せ!』

地面の土が盛り上がって人型になり、動き出す。

アース・ゴーレムである。

最初はアンデッドを使おうと思ったのだが、神聖騎士団がいるのですぐにターン・アンデッドで追い払われてしまうのが予想された。

なので、ゴーレムだ。

ゴーレムはあちらの世界でいうロボットだ。

いわゆる機械だから、ターンアンデッドは効かない。

耐久力もある。

相手を引きつけるにはうってつけだ。


『いけ!』

マッシ。

ゴーレムは兵士たちへ向かって行った。

「うわ!?」

「ゴーレムだ!」

兵士たちは騒いだものの、すぐにゴーレムに対応した。


「これで、20人」

ぼくは言った。

残り40人。

「いくぞ!」

ぼくは言って、剣と盾を構えた。

「おし!」

「よっしゃ!」

「はいはい」

『ふん』

相沢、剣持、如月、タリサがその後に続いた。


ぼくたちが突撃する頃には、兵士たちは防御態勢を整えていた。

列を作って迎え討つ。

「ライデン!」

ぼくは魔法を使った。

MPを惜しんでいてはゲートを奪取することはできない。

「拡散!」

一発目でなるべくダメージを与える。

弓矢などと同じようなイメージだ。

「ぐわ!」

「ほげぇ!」

何人かが電撃を受けて倒れる。

「おりゃあ!」

ぼくはそのまま剣を構えて突っ込んだ。

「それ!」

「ほい!」

相沢、剣持もその両脇に着いてくる。

3人で押してゆく。

『エナジー・ボルト! シャワー!』

タリサが魔法を使った。

タリサの掌にエネルギー球が現れ、そこから魔法の矢が次々と飛び出した。

魔法の矢はぼくたちの頭上を越えて兵士たちに降り注ぐ。

金属鎧が凹み、裂けてゆく。

「ブリザード! シャワー!」

続いて、如月が魔法を使った。

同じように掌にエネルギー球が出現し、そこから冷気が吹き荒れる。

冷気はぼくたちの頭上を越えて、兵士たちに降り注いだ。

ビシビシビシ。

鎧が凍り付いて、動きを阻害する。

先ほどの魔法の矢でできた隙間から冷気が入って、身体を冷やしてゆく。

このままずっと冷気を浴びていると凍傷を起こす可能性もある。

動きを阻害することで、相手の足を引っ張る。


「うおおおっ! エンチャント・ウェポン!」

ぼくはエンチャントの魔法を使った。

剣に魔法のオーラがまとわりつき、威力が増大する。

剣を振るって、兵士たちをなぎ倒す。


「チッ…」

舌打ちする声。

トラビスだ。

「ディスペル・マジック! 持続!」

トラビスは魔法を唱えた。

神聖魔法の光が周囲に飛び、魔法がキャンセルされてゆく。

本来は一瞬で効果が終わるディスペル・マジックだが、オプションで持続させることが可能だ。

その代わり、術者は動けず、精神集中をし続ける必要がある。

「クソッ…トラビスのヤツ!」

ぼくは歯がみした。

竜牙兵、ゴーレムの魔法が解除され、元の姿に戻った。

兵士約40人がこちらへ戻ってくる訳だ。

「来るぞ!」

ぼくが言うと、

「任せて!」

「やるぜ!」

相沢と剣持はやってくる兵士たちを迎え討った。

しかし、ディスペル・マジックの影響は、相沢と剣持にも及んでいた。

「チッ…」

「力が出ない」

兵士たちの剣がかすると、皮膚が切り裂かれてゆく。

魔力の流れが停止しているためだろう。

「相沢、剣持、下がれ!」

ぼくは盾を構えて言った。

「くそー」

「面目ない…」

相沢と剣持は後ろに下がった。

横目で見ると、ビクトールさんたちも似たように苦戦している。

「魔法が封じられると打つ手がないよ」

『トラビスのヤツ~!』

如月とタリサも悔しそうに言っていた。

タリサは魔法的な存在ではあるが、その身体は強固な術で縛られている。

解除魔法程度ではビクともしない。

ちなみにターン・アンデッドも効かないようだ。


ぼくたちは徐々に押されていった。

後退に後退を重ねて、ビクトールさんたちと一つにまとめられてしまう。

「ふん、魔法が使えないお前らなど敵ではない」

トラビスはグワハハと笑った。

感情の起伏が激しいようだった。

「降参すれば命だけは助けなくもないぞ?」

「降参だと?」

ぼくは言った。

「断る!」

「なら、死ねよ!」

トラビスは言った。

それが合図になったのだろう、兵士たちは防御を固めて詰め寄ってくる。

喰らう気で来る戦士はなかなか倒せない。

攻撃を受けても反撃をしてくる。


クソ、ここまでか…。

ぼくは内心、諦めかけていた。


必至に剣を振るが、兵士たちはドンドン迫ってくる。

もうダメだ。


その時。

まばゆい光が発生した。

ゲートだ。

開いている。

ディスペル・マジックの効果は効いてないようだ。


なんだ?!


ぼくが驚いていると、


ゲートから、長身の女が出てきた。


……ミリア!?


それから、山高帽を被った女が1、2、3、4、5、6……11人。

睦月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、葉月、長月、神無月、霜月、師走だろう、多分。

……魔女がこんなに。


「はあー、疲れたぁ」(皐月)

「酔ったぁー」(水無月)

「うげー、アタシもぉ」(文月)

「あたしは酔わないよ?」(葉月)

「異世界だぁ」(長月)

「異世界だねぇ」(神無月)

「……」(霜月)

「うるっさい」(弥生)

「ゲート抜けた先に何があるか分らないんだからね」(卯月)

「皆、黙って」(睦月)

一番落ち着いた感じの魔女が言った。

皆、さっと黙りこくってしまう。


トラビスと兵士たちは、ポカンとそいつらを見ている。

「あ、ご先祖様、やっほー!」(文月)

魔女のうちの1人が手を振った。

状況を理解してないのか、暢気である。


その合間を縫って、ミリアが動いた。

盗賊だけあって素早い。

腰のナイフを抜いて、トラビスに詰め寄る。

喉元に切っ先を突きつけている。

「トラビス、仲間を攻撃するとはどういうことだ?」

ミリアはドスの効いた声で言った。

「ま、待て、話せば分る!」

トラビスは途端に日和ったようだった。

「おまえら、攻撃するなよ!?」

トラビスは慌てて叫んだ。

その保身振りは見ていて悲しくなるくらい、滑稽だ。

「……トラビス殿」

神聖騎士、ゴルドーが言った。

「御身の犠牲は痛ましいですが、だからと言って神殿の命を覆すことはできませぬ」

「な、なんだと!? ぼくの命が使い捨てだとでも言うのか!!」

「ええ、その通り」

ゴルドーは冷徹に言い放った。

「安心なされよ、トラビス殿の尊い犠牲は長く語り継がれることでしょう。いわば、物語の中で生き続けるのです」

「うるっせえ! んな、お話の中で語られても嬉しくも何ともねーんだよ!」

トラビスはブチ切れた。

そのせいでディスペル・マジックの持続が切れた。

「ぼくは、これまで神殿に従ってきたんだ! 嫌なことも我慢した! 殺しもやった! 上納金も出した! 神官たちに女もあてがった! それなのになぜ!?」

トラビスは激高していた。

「なんで簡単に捨てられる!?」

「ふ…愚かな……」

ゴルドーは一笑に伏した。

「所詮は下級貴族出身ですな、そのような事は誰でもやってる当たり前の事ですぞ」

「……!!」

トラビスはメイスを構えた。

殺意に満ちている。

「トラビス殿、なにを…!?」

「よくも、よくも!」

トラビスはメイスを振りかざした。

「やめろ」

ミリアは言って、トラビスの足を払った。

トラビスは転倒してしまう。

「そんな連中に流されるな」

「……」

トラビスは地面に這いつくばったまま、起き上がらない。

「ふん、この者は反逆者だ、一緒に倒してしまえ!」

ゴルドーが叫んだ。

その声に、兵士たちは我に返ったようだった。

防御陣形を組んで、迫ってくる。


『ふん、ディスペル・マジックがないお前らに勝ち目はない』

タリサがズイと前に出た。

『ウィンドー!』

タリサが呪文を唱えると、突風が発生し、兵士たちに吹き付けた。

「うわ?!」

「目が!?」

兵士たちは突風で目を閉じる。

「皆、ホールドを!」

その間に如月が姉妹の方へ合流する。

「おk」(11人)

「ホールド! 範囲!」(12人)

一斉に呪文を唱える12人の魔女。

その威力は100人規模の兵士たちを全員動けなくするほどだった。


兵士たちは全員捕縛状態になった。

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