第11話
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混乱に乗じて裏口へと向かう。
裏口に待ち伏せしていた敵はビクトールさんたちが倒したようだ。
何人も地面に転がっている。
人間だ。
正面から来たのと同じで、色んな装備のヤツらだ。
ぼくたちが洞窟の出口を出ると、森林になっていた。
『足跡感知』
タリサが呪文を唱える。
恐らくタリサの目にはビクトールさんたちの足跡が見えているはず。
……盗賊がいればな。
ぼくは一瞬、考えてしまった。
いや、いない者を宛てにしても仕方ない。
「タリサ案内頼む」
『うん』
タリサが皆を連れて森を進む。
森の中は日差しが強くない。
フードを被れば吸血鬼たちも大丈夫だろう。
『小屋がある』
タリサが足を止める。
森の中に小屋があった。
狩猟小屋だろうか。
『多分、ここに隠れてる』
「分った」
ぼくは小屋の扉をそっと開けて、
「ビクトールさん?」
声を掛けてみた。
「ご無事でしたか、勇者殿」
ビクトールさんの声が返ってくる。
「アイナも無事か」
「うん」
ぼくの返事を待たず、ビクトールさんと相沢は無事の確認をしている。
ぼくへの声かけは義務的なのね。
まあいいけどね。
「ガシズさんたちも無事ですね」
「ああ、平気さこのくらい」
ガシズは笑い顔をみせた。
強がりだなぁ。
「まだ追っ手は諦めないでしょう」
「でしょうな」
ぼくが言うと、ビクトールさんはうなずく。
ビクトールさんも予想済みのようだ。
敵は一時的に浮き足立っただけで、すぐに体勢を立て直してくる。
「数ではあちらの方が勝っています」
ぼくは言った。
『今度は魔法対策を立ててくるはず』
タリサも同調している。
ぼくとタリサは数々の戦いを経てきた。
次に敵がどう出てくるか、経験的に予想できる。
「先ほど銃を使わなくて良かったですな」
ビクトールさんは言った。
洞窟の中だったので、銃は使わなかったのだろう。
「小休止の後、出発しましょう」
「うへえ、お天道様の下を歩かにゃならんのか…」
ジョンがつぶやいた。
「久方ぶりだね」
トリートが冗談を飛ばした。
小屋を出て、歩き始める。
30分くらいで木々がなくなり、平地に出た。
「フードをしっかり被れ」
ガシズが他の4人に言った。
吸血鬼は日光に弱い。
異世界渡航した初代ヴラド・ビクトールは日光を克服していたようだ。
なので、ヴラド家の一族は皆、日光を恐れない。
「あんたらが羨ましいぜ」
レンが言った。
「その代わり、我々は魔法力をほとんど失ってますぞ」
ビクトールさんは肩をすくめる。
「マナが少ないからね、あっちの世界は」
ヤマブキがつぶやく。
「てか、マナって感じられるのか?」
ニードルが言った。
「オレは感じたことないな」
マウンテンは答える。
「んー、あんたらも大変なんだねぇ」
トリートがうんうんとうなずく。
「環境が変化をもたらす、興味深い」
スカラーが言った。
「おしゃべりはそこまで」
如月が周囲を見回した。
足音がする。
「追っ手か?」
ぼくは緊張した。
『追いついてきた』
タリサが身構えた。
それを合図に、皆が身構える。
全員、それなりに修羅場を潜ってきた者たちのようだ。
「来た」
剣持が森の方を見た。
「返り討ちだよ」
相沢がベキボキと拳を鳴らしている。
「侮らないようにね」
如月が釘を刺すように言う。
「分ってる」
「おk」
剣持と相沢がうなずく。
『撤退戦だよ』
タリサが言った途端、
「ホールド」
如月が魔法を使った。
追っ手の足音が止まる。
「怯むな!」
「進め!」
声がして、さらに足音が聞こえてきた。
「殿は任せて、おじいちゃん」
相沢が言った。
「気をつけるのじゃぞ?」
ビクトールさんが心配そうに声を掛けた。
「うん」
さっきと同じように足止めと逃げるのに分れるということだ。
ぼくたちは追っ手を食い止める。
なるべく殺さないように気をつけた。
如月とタリサは魔法を使ったが、今度は相手も魔法防御を上げる呪文を使ってきたらしい。
さっきとはまるで耐性が異なる。
「アイス・ジャベリンが完全に決まったのに!?」
『バフを掛けてるな』
如月とタリサは何やら言い合っている。
「構わねえ、こっちも魔法だ!」
「エナジー・ボルト」
火事にならないよう選んで使ってきた。
『ウォーター・スクリーン』
タリサが即座に水の膜を張って、それを防いだ。
魔法戦なら、ずっと魔王の軍勢と戦ってきたタリサの方が上だ。
そして白兵戦はぼく。
「剣よ、光を帯びよ!」
ぼくの剣をオーラが包む。
白刃が相手の盾や鎧に叩き込まれる。
一撃で相手が吹っ飛んだ。
剣をエンチャントする魔法だ。
物理的威力もそうだが、魔力でダメージを与える効果もある。
「そりゃあっ!」
ぼくは剣を左右に振って、敵を切り伏せてゆく。
敵は魔法で防御力を高めているので、致命傷にはなっていないようだ。
ちょうどよく気絶させる程度の威力になっている。
ぼくとタリサは魔族に囲まれて戦うなどということは日常茶飯事だった。
もちろん、そこには戦士や僧侶、盗賊もいた。
一瞬、懐かしさに囚われる。
ぼくは力の限り剣を振るって、敵を倒してゆく。
「くそっ!」
「なんてヤツだ!?」
敵は徐々に怯みだしてきた。
いいぞ。
「ダメだ、コイツ強すぎる!」
「退け、退け!」
このまま剣を振るっていくと、敵は後退し始めた。
所詮、弱い物イジメしかできない連中だ。
一旦心が折れると。だーっと雪崩のように逃げ始めた。
「ふん」
ぼくは鼻を鳴らした。
*
「このままじゃ、ジリ貧だ」
ぼくはため息をついた。
「一度、あちらの世界へ戻るべきです」
「……そうかも知れませんな」
ビクトールさんは、ちょっと考えて答えた。
『ガシズさんたちを連れて帰ることで、ヴラド家の人々とこちらの世界の吸血鬼との違いを検証できる』
タリサが言った。
「こちらは早めに避難できるとありがたい」
ガシズは同意した。
「そうだな」
スカラーもうなずく。
「でしたら、すぐにでもゲートに戻りましょう」
ビクトールさんは決断したようだった。
ぼくたちは、こちらの世界の探索を打ち切って、ゲートへ帰ることにした。
エドワードに挨拶したかったが、街に行くと敵に見つかる危険性があるので諦めた。
……複雑な心境だな。
ぼくは思った。
今回の事で王国から睨まれるのは確実だ。
ぼくは魔族の手助けをしている。
だが、そうせずには居られなかった。
……ぼくはどうすればいいのだろう?
「勇者くん」
気付くと、剣持がぼくを見ていた。
「どうしたん、上の空って感じィ」
相沢もジッとぼくを見ている。
「いや、何でもない」
ぼくは2人から視線を外した。
何だがまともに2人を見てられない気分だった。
そろそろゲートの場所のはずだ。
「帰ったらラーメン」
「いやチャーハンだろ」
「ケーキじゃん」
如月、剣持、相沢は帰ったら何を食べるかで盛り上がっている。
向こうの世界のメンバーは、元の世界に帰れるのでほっとしているようだ。
「やっと魔族狩りから逃げられる」
「どんな世界なんだろうな」
「興味深い」
「ま、狩人から逃げられるならなんでも良いよ」
「んだんだ」
ガシズたち吸血鬼もしゃべくり合っている。
新たな世界に期待しているようである。
ぼくたちの間には、そんな緩んだ空気が流れていた。
しかし。
「ハアッ!」
ザシュッ
鋭い呼吸とともに斬撃音。
ガシズが袈裟斬りに胴体を切られた。
血が噴き出し、上半身が斜めに切り落とされ、地面に落ちる。
「あ…」
「ガシズ!?」
吸血鬼たちが声を上げる。
さらにジョン、トリート、レンが斬られた。
一瞬の出来事であった。
「うわ!?」
「な、なにが!?」
一体、何が起こったのか。
見ると大剣を持った戦士が目の間にいた。
「エドワード…!?」
ぼくは驚いて叫んだ。
「悪く思うな、アルフレッド」
エドワードは目を伏せて言った。
「王国の命令だ、貴様ら魔族を討伐する!」
そしてしっかりとぼくたちを見据えて、叫んだ。
エドワードは部下の兵士たちを従えていた。
皆、キチンと訓練を受けた正規兵というヤツだ。
既に抜剣しており、戦闘態勢にある。
エクセルライド王国の正規兵は、今まで相手にしていた連中とは異なり、そう簡単には逃げたりしない。
強さも段違いだ。
戦えばどちらも無事では済まないということだ。
「もちろん、魔族に組みする者も同様だ」
エドワードは付け加えた。
その表情は苦悶にあえいでいるように見えた。
「エドワード、なぜだ!?」
ぼくは叫んでいた。
「運が悪かったな、アルフレッド」
エドワードはぼくから視線を外した。
「奴隷商人たちが王国にお前らのことを報告したんだ」
「……」
ぼくは何も返せなかった。
「ぼくには勇者としての功績があるだろ!」
やっと言ったが、自分でも何を言ってるのか分らないという有様だ。
「……だからといって魔族を手助けするのが許される訳がない」
「しかし!」
「もう問答は無用だ」
エドワードは大剣を構え直した。
両手持ちの剣、グレートソードである。
この大剣で魔族の精鋭を叩き切ってきたのだ。
「くっ…」
ぼくは唸って、剣と盾を構えた。
「いくぞ!」
エドワードは叫んで、大剣を振るった。
それが合図になり、後ろに控えていた正規兵が突っ込んでくる。
「ビクトールさん、ここはぼくに任せてゲートへ!」
ぼくはエドワードの大剣を防ぎながら、叫んだ。
「分かり申した!」
ビクトールさんはうなずいた。
スカラー、ヤマブキ、ニードル、マウンテンはすぐにゲートを目指して走り出す。
『私も戦う』
「お供しますよ、ご先祖様」
タリサと如月は魔法で援護し始めた。
正直助かる。
「相沢、剣持、逃げるんだ!」
ぼくは叫んだ。
「いやだ!」
「あたしらも戦う!」
「来るんだ、アイナ!」
ビクトールさんが立ち止まって叫んだ。
しかし、兵士たちが相沢と剣持を取り囲んで退路を断つ。
残りの兵士が、ビクトールさんたちを追い始めた。
「クソッ」
ビクトールさんは毒づいて、
「死ぬなよ、アイナ!」
さっと踵を返す。
状況判断というヤツだ。
ぼくはエドワードにかかりきりなので、相沢、剣持、タリサ、如月が兵士たちを相手取った。
相沢と剣持が壁になり、その後ろでタリサと如月が魔法を使う。
魔法使いとは言え、タリサ、如月はそれなりに体術も使える。
タリサは魔族との戦いで必要に駆られ体術を身につけた。
如月はその技術を受け継いでいる。
兵士たちの攻撃を躱しながら、魔法をぶっ放している。
相沢と剣持は種族の特性を発揮していた。
相手の剣を躱さず、正面から受け止めている。
攻撃の瞬間は、裏を返すと最大の隙でもある。
その瞬間を捉えて一撃を食らわす。
「ぐわっ!?」
「ぎゃあぁぁッ!」
兵士たちは叩き込まれた衝撃で失神した。
鎧の上からなのに、恐ろしい威力だ。
「クソッ、この化け物め!」
「神よ、御加護を!」
兵士たちは口々に叫んでいる。
「無駄口叩いてるなんて余裕じゃん!」
「それっ!」
相沢と剣持はドンドン兵士たちを倒してゆく。
「エナジー・ボルト!」
『ファイア・ボール!』
如月とタリサが魔法を撃ち込む。
兵士たちは魔法を喰らって怯んだ。
そこへ相沢と剣持が狙い澄ました攻撃を叩き込む。
パーティー戦の黄金パターンである。
「ヒール!」
しかし、敵兵もさるもので、回復をしてきた。
神聖魔法の使い手がいたようだ。
傷を治し、気絶状態から回復させてゆく。
兵士たちはドンドン起き上がってくる。
消耗戦である。
こうなると、相沢、剣持は不利になる。
吸血鬼や獣人は回復が可能だが、永遠に回復はできない。
一定時間しか持たないのだ。
時間が経つにつれて、体力の問題になってくる。
相沢と剣持はともかく、タリサと如月は戦士レベルの体力は持っていない。
魔法使い組が先に疲弊して使い物にならなくなる。
ぼくはエドワードの攻撃を捌き続けている。
エドワードレベルの戦士が相手では防戦が精一杯だ。
他の者を援護することなど不可能だ。
「クソッ!」
ぼくは毒づいた。
「降参しろ、そうすれば命までは取らない」
エドワードは攻撃をしつつ、言った。
どこか悲痛な声でもあった。
実際、懇願なのだろう。
もう攻撃したくない。
そんな気勢が伝わってくる。
「それは、ムリだ!」
ぼくは隙をみて剣を振るった。
エドワードは、瞬時に身体を動かし、鎧の厚い部分でそれを受けた。
高位の戦士が見せる特殊ムーブである。
その瞬間、エドワードの大剣がぼくの盾に打ち込まれた。
ガァン
盾が吹き飛ばされる。
「くっ…」
ぼくは呻いて、体勢を整えるために一歩退いた。
「ふん、そのクセは直すように言っていただろう?」
エドワードは間合いを詰めて攻撃を続けてくる。
意味なく退くのは相手に間合いを選ばせることにつながる。
ぼくは次第に劣勢になってきた。
「ハッ!」
エドワードの大剣がぼくの剣を跳ね飛ばした。
ディザームというヤツだ。
大剣がぼくの鼻先に突きつけられる。
「動くな!」
エドワードが言った。
「皆、投降しろ! さもなくばアルフレッドの命はない!」
「チッ…」
「あー」
『分った』
「ふん」
相沢、剣持、タリサ、如月は思い思いのセリフを言って、戦闘を止めた。
「コイツら、ふざけやがって!」
兵士の1人が詰め寄ろうとしたが、
「やめろ! この者たちは投降したのだ。不要な暴力を振るったら処罰する」
エドワードが言ったので、
「……はい」
兵士たちは大人しくなった。
エドワードの力をみな熟知しているのである。
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