第10話

10


「では、異世界から来たと?」

吸血鬼は微妙な顔をしている。


この洞窟にいる吸血鬼は5人だ。

洞窟の中の広い空間を居住区にしてるようだった。

テーブルや椅子などが置いてある。

「ガシズ」

「ジョン」

「トリート」

「レン」

「スカラー」

彼らは自己紹介をした。

「改めてよろしく」


「話せば長いのですが、我らの先祖がこちらの世界出身のようなのです」

「ふむ、興味深いな」

スカラーがビクトールさんを見た。

興味を持ったようだった。

「時々、我らの中にも次元魔法を操る魔術師が現れる。そうした者が異世界へ行ったのかもしれない」

「彼は学者なんだ」

ガシズが笑いながら言った。

「オレたちは他の派閥とは無関係でな、要するにはみ出しもんだ」

「自由人さ」

ジョンがうそぶいた。

「穀潰しさ」

トリートが訂正する。

「なんだよ」

「ケンカはよせ」

レンが止める。

「「ふん」」

ジョンとトリートはお互いに顔を背け合う。


それから、ビクトールさんとガシズたちは話し合った。

「魔王が倒された今、オレたちは人間どもに狩られる立場さ」

「そうだ、私たちをあんたらの世界へ連れてってよ」

トリートが思いつきを口にした。

「おいおい、そう簡単にはいかぬだろ」

スカラーがたしなめる。

「……できぬことはありませんが、陽の光には?」

「ダメだ、あんたらが羨ましいよ」

ガシズは頭を振った。

「そうなるとずっと屋内だぬぇー」

相沢が何かをモグモグ食べながら言った。

酢昆布?

「今と変わんねーな」

「それなw」

ジョンとトリートが笑っている。

「まあ、そう結論を急がなくてもいいさ」

剣持が言った。


ぼくは黙って聞いていた。

剣持、如月、タリサもそうだった。

が、


「勇者くん」

「うん、分ってる」

剣持が目配せしてきたので、ぼくはうなずく。

『なんだ?』

「敵かな?」

タリサと如月も気付いたようだ。

感知魔法を常時いくつも展開しているようなヤツらだ。

剣持は感覚が人より鋭い。

ぼくは冒険で培ってきた経験がある。

誰かが洞窟に入ってきた。

足音がする。

「お話中のところ悪いんだけど、邪魔が入りそうだ」

ぼくはビクトールさんたちに向かって言った。

「王国の兵士どもか?」

如月が言うと、

「いや、もっと質が悪い、奴隷商人だ」

ガシズが訂正した。

「我々魔族を捕まえて売り飛ばしている」

「かなり大人数でくるから消耗戦になっちまうんだ」

ジョンとレンが補足した。

「冒険者のパーティーは4~5人までがマナーだぞ」

ぼくは毒づいた。

「クズどもだからな」

トリートがつぶやく。

人海戦術かよ。

多分、魔術師も多いんだろうな。

「逃げ道は?」

如月が聞いた。

「こっちのドアから裏口へ抜けられる」

ガシズが答えるが、

「いや、多分、裏にも手が回ってるだろう。追い込み漁ってヤツだ」

スカラーが渋い顔をした。

「正面から派手に追い立てて、裏に待ち構えたヤツらが一網打尽」

「銃は使えないでしょうな」

ビクトールさんが言った。

「こんな狭い場所じゃ跳弾が怖いですね」

如月が眉をしかめる。

「ちなみに弾丸は?」

「ホローポイント弾です」

「確実に当ててゆけば大丈夫ですけどね」

「そんなに的確には当てられない」

今まで黙っていたヤマブキがポツリと言った。

「それに多勢に無勢だと弾丸が持たない」

ニードルが肩をすくめる。

「てか、悠長に話してる場合じゃない」

マウンテンが指摘した。

「そうだった」

ぼくは腰の剣を抜き、盾を構える。

校長に取られていた装備を返してもらっていた。

「前衛はぼく、相沢、剣持、後衛はタリサ、如月」

「我々はなにをすれば?」

ビクトールさんが一応聞いてくれる。

付き合いがいい。

「ビクトールさんたちは、ガシズさんたちを連れて裏口を突破してください」

「分りましたぞ」

ビクトールさんはうなずいた。

つまり、ぼくらは囮というか壁だ。

正面の敵、大勢を抑える。

「それって捨て石じゃないの?」

剣持が聞いたが、

「……いや、そういうニュアンスは含まれない」

ぼくはよく分らないことを言って誤魔化した。

「何言ってんだよ、モロ捨て石じゃん」

相沢が言った。

「アイナ、死ぬでないぞ」

ビクトールさんは真面目な表情である。

「ヴラド家の者はそう簡単には死なないよ、おじいちゃん」

「うむ」

相沢とビクトールさんは何やら通じたようだ。

「では、行きましょうぞ」

「了解」

ビクトールさんと護衛3人、吸血鬼5人はドアを開けて出て行った。


「じゃあ、こっちも」

「おk」

「腕がなるな」

前衛3人は身構える。

ドカドカと足音がして、広間に武装した男たちが入ってくる。

装備がチグハグだ。

雇われ戦士だな。

「お、なんだコイツら」

「女ばっかだな」

「何でも良いや、捕まえろ!」

「ぐへへ」

男たちは武器を手に近寄ってくる。


『闇の精霊よ、敵の目を奪え!』

タリサが呪文を詠唱した。

ブラインドネスだ。

相手の視力を一時的に奪うヤツ。

「うわっ!?」

「なんだ?」

「目がッ!?」

男たちはキョロキョロと周囲を見回す。

「ウォォォッ」

ぼくは盾を構えたまま突撃した。


ドゴッ


「うわっ!?」

男たちが盾の突撃を受けて転倒する。

殺すまではやりたくないので、盾で叩くに留めておく。

「おらー」

「ほい」

相沢と剣持は軽く男たちの頭をぶっている。

それだけで気絶させたようだった。

最前列の連中はだいたい気絶させた。

後方にまだまだ仲間が残っているが、洞窟の通路じゃ2~3人並ぶのが限度だ。

そいつらが押すな、押すな、とごった返している。

狭い洞窟で助かった。

「効率わりぃー」

「なー」

「殺してしまうと確定的に王国と敵対することになるからな」

ぼくは言った。

「別にいいじゃん、殺しても」

「だねぇ」

面倒くさいと思ってるな、コイツら。

「めんどくせ」

「ねえ」

「とにかく殺すなよ?」

「うぇーい」

「うぅーい」

『ライトニング・ボルト使っていい?』

タリサが聞いてくる。

「だから殺すなってば」

「ベギラ…」

「分っててやってるだろ!?」

ぼくは怒鳴った。

その間も、相沢と剣持が殺到する男たちを叩いて気絶させている。

「こら、てめーら、暢気に食っちゃべってんじゃねー!」

「もう王国の敵だよ、ボケェッ」

「オレらの邪魔した時点でなぁ!」

男たちは戦いながら言った。

器用なヤツらだ。

「え、じゃあ殺して構わないよね?」

「めんどくさいしなぁ」

相沢と剣持の目が輝く。

やっぱ魔族だなぁ。

「あ、できれば気絶の方がいいかなーって」

「あ、うんうんそう」

男たちは一瞬で日和った。

「ファイア・アロー!」

如月が魔法を飛ばした。

ぼくたちの頭上を越えて撃ち込まれる。

「ぐああ」

「ぎゃひー」

男たちは火だるまになって、のたうち回った。

「……うわー」

ぼくは顔をしかめた。

黒焦げだよ。

『こら、酸素がなくなるだろ』

「あ、そっかー」

タリサに言われて初めて気付いたのか、如月は舌を出した。

『だから、ライトニング・ボルトが良いんだって』

言いながら、ライトニング・ボルトを撃つ。

呪文詠唱なしかよ。

しかも、電撃が曲がりくねって、ぼくたちの頭上を通って男たちへ撃ち込まれる。

「ぐわーっ」

「シビビビビ」

古くさい擬音だ。

結局、黒焦げなんだけど。

「もう、こんなのやってられっか!」

「逃げるぞ、オレは!」

「あ、なんだよ、てめえら!」

「なにやってんだ!?」

「戻ってくんな!」

前列の男たちが軒並み黒焦げになったのを見て、男たちは背を向けて逃げ始める。

後ろから押し寄せる男たちと鉢合わせになった。

大混乱ってヤツだ。

「ほれほれ、逃げないとまる焼けだぞぉ」

如月がファイア・アローを放った。

また何人かの男たちが焼け焦げる。

悲鳴が洞窟内にこだました。

『熱いなら氷をくれてやる』

タリサがブリザードの魔法を放った。

男たちが何人か凍り付いて動かなくなる。


完全に流れを覆した。

「今のうちにビクトールさんたちを追いかけよう」

ぼくは剣を納めた。

「おk」

皆、洞窟の裏口を目指した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る