第7話
7
「相沢」
剣持があたしの席のとなりに立つ。
「いいのか?」
「ああ?なにが?」
興味なさげに言うが、
「あいつ、ライバルとしてはすごく強力だぜ?」
「…な、なに言ってんだかワカンネ」
あたしの心臓が、その…鼓動が倍ぐらいに速くなる。
「ワカンネ訳ないだろ」
剣持はニタニタしている。
「あの魔法使いさぁ、こっちの世界まで勇者くんを追ってきたんだぞ? 勇者くんが負い目に感じないわけないじゃん」
ぐっ…。
剣持の言葉がグサリと刺さる。
「それに」
剣持は続ける。
「元々の仲間だし、気心も知れてれるじゃん。二人の心は急接近」
「うるしぇー!」
あたしはつぶやいて、
「あたしがどうこうできる筋合いじゃねっつの」
席を立つ。
「どこいくんだよ?」
「トイレだよ」
あたしは振り返らない。
「焦ってんな」
振り返らない。
「このままだと勇者くん、とられちまうぜ」
振り返らない!
「いいけどさ」
ふん!
あたしはドアを開けて廊下へ出る。
廊下から窓を通して教室を見ると、剣持はあたしの机に腰かけて外を眺めていた。
…なんか今日はやけに絡んでくるなぁ。
まあ、あたしにゃ関係なねーけどぉッ。
*
相沢は聞き逃していた。
私のつぶやきを。
「焦ってんの、お前だけじゃないんだぜ…」
私は校長に頼まれて、勇者くんを見張ってきた。
結構早くから。
だから、勇者くんが頑張ってきたのも知っている。
こちらの世界を理解し、馴染もうとしてきた。
魔法の練習もしてきた。
徒労に終わってたけど。
努力してきた。
私はその姿を見ている。
その姿が目に焼き付いて離れない。
私は、
勇者くんが、
好きなのかもしれない。
その姿を見続けてきたからこそ、手助けしてあげたい。
「……ま、望み薄だろうけどな」
*
ぼくは授業が終わった後、またビクトールさんのところへ向かった。
もちろん、相沢と剣持も一緒だ。
ビクトールさんの部屋には、如月とタリサが待っている。
うん?
なんか女の子ばかりなんだけど。
「もてもてですな、勇者殿」
ビクトールさんがニヤニヤしながら言った。
「いや、ないですって」
ぼくは慌てて否定した。
吸血鬼、狼人間、魔女、リッチ。全部、人外じゃないか。
ぼくの理想の女性はサラ王女だ。
……だったはず。
あまり自信なくなってきたな。
「やめてよ、おじーちゃん」
「スマン、スマン」
相沢とビクトールさんは、お約束のやり取りをしている。
『アルフレッド』
タリサがすっとぼくの傍らに近寄ってくる。
「ご先祖様、ずるい」
如月も近寄ってくる。
「あ、ふーん」
「……」
相沢と剣持も、ぼくに近寄ってきた。
……いや、みな可愛いから嬉しいんだけど。
でも、そんなことしてる場合じゃないよね。
「本題に入りましょう」
ぼくは言った。
「え、あ、はいはい」
ビクトールさんは、ニヤニヤしたまま。
「あーもー、真面目な雰囲気がぁ」
ぼくは頭を抱える。
『異世界に行くのはできる。問題はその後のプランだ』
タリサが口火を切った。
「あっちに行ったら、どこかの村にでも隠れよう」
ぼくは提案してみる。
「潜伏かー」
「なんか特産品の食べ物とかあんの?」
相沢と剣持は早速はしゃいでいる。
「んなもんない」
ぼくはきっぱりと言った。
「そもそも各地に特産とかがあるのは日本くらいのものだ」
「えー、ほーなの?」
「知らん」
『日本がおかしいんだ』
タリサはジト目っぽい視線を投げつけてくる。
「なんじゃー、日本には四季があんだおっ」
相沢がよく分らない事を言うが、
「他の国にもあるわい、四季くらい!」
なんかのツボに入ったのか、如月が叫んだ。
「脱線すんな」
剣持が冷静に指摘する。
『特産といえば、海鮮丼、あれは旨いな』
「おーい、魔術師様も乗ってきたよぉッ!」
「だから脱線ッ!」
相沢と剣持が叫んだ。
「でもぉ、牛タン弁当も捨てがたいんだよねぇ」
如月がこの話題を拾った。
「話しすすまないから、やめろし」
ぼくは眉をひそめるが、
「でも、勇者くんもなんかイチオシの特産とか名産品あんでしょ?」
如月はぼくに振ってきた。
「……強いていえば、アイスクリームかな」
「だよねー、フォーティンアイス、おいしかったよねぇー」
「……」
『……』
「……」
相沢が同調すると、如月、タリサ、剣持が無言になった。
「アイス…」
『アイス…』
「…私はまあいいや」
「剣持は後で食べたじゃん、いっそにィ」
……しまった、どうやら自爆したようだ。
「アイスなど後で一緒に食べればいいじゃろ」
ビクトールさんはため息まじりに言った。
「うん、そうだ、後でな」
ぼくはとりあえず言った。
早く本題に入りたい。
「約束だよ」
『約束…』
……う、呪縛が降りかかってきたみたいだ。
「潜伏しつつ、目立たないように調査をするということですな?」
ビクトールさんは少ししびれを切らしてきたようだった。
まあ、大概我慢強いよな、この人も。
「そうです。よく考えたらぼくも居ないことになってるので、隠れて行動するのが吉です」
『まー、帰ったら帰ったで邪魔者扱いされるからね』
タリサはストレートに言った。
「う…」
言葉に出されるとヘコむな…。
『ヘコんでる場合じゃない』
「魔王を倒した功労者なのに…」
「権力者ってそういうとこあるよね」
如月がすっと流した。
『あっちに行ったら、戦士と僧侶に助力を仰ぐ。てか、連絡は取ってる所だし』
タリサが説明する。
段取りがいい。
以前から、そうだったな。
この有能さで宮廷魔術師にまでなったのだろう。
ん?
あれ?
もう1人は?
「そういえば盗賊は?」
ぼくが聞くと、
『……』
タリサはドキッとした様子だった。
『それが、アルフレッドが異世界に飛ばされた時、一緒に吸い込まれたんだ』
口を尖らせて、ボソボソと答える。
「なんだと?!」
「えー、どこに飛ばされたんだろー?」
如月が棒読みっぽく言った。
……あ、コイツらもう調べてあるな。
ぼくは直感した。
『奇跡的にこの時間軸に来てるようだ』
タリサが厳かに述べた。
「みたいですねー、なんかその辺の路地に住み着いてるらしいよー」
如月が説明口調で言った。
「ホームレスかよ」
「路上生活者かよ」
相沢と剣持が突っ込んだ。
「そういや、少し自堕落な所があったな…」
「納得すんのかいッ」
ぼくがつぶやくと、相沢が突っ込む。
「てか、そいつ必要なの?」
剣持が言った。
……ああ、言ってしまったか。
あんまり厳しい事を言う気はないんだが、実際、それほど役に立ってないしなぁ。
最後の方は、戦闘で道具を使ったりする役回りになっちゃってたし。
罠の解除とかもできるのだが、ぼくたちのレベルになるとそんじょそこらの罠では効かなくなるからな。
そもそも器用貧乏なんだよな。
そこそこ戦闘もできて、そこそこ魔法も使えて、技術系や感知系もあって……と便利なんだけどね。
魔王を倒すくらいの強さになってくると、もっと専門的なスキルに特化しないと役に立たなくなるんだよな。
『…あの、どーせ使えないし、放って置いてもいいし』
「おい、言って良い事と悪い事があるぞ」
ぼくはタリサをたしなめた。
『でも、本当のことだ』
「そうかもしれないけど、そうハッキリ言っちゃダメだろ」
「ぽまいら、何気にひどくね?」
相沢が時と目でぼくらを見た。
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