第4話
4
フレッシュムーンというお菓子は美味しかった。
貴重な砂糖がふんだんに使われてる。
食べ物や嗜好品が高度に発達してる、ある意味恐ろしい世界だ。
あ、いや。
とにかく、ビクトールとの話は途中で終了。
「さっきのはお芝居みたいなもんと思ってくれたまえ、気がのったら参加でいいのでな」
ビクトールはえらく甘い条件であった。
*
「ところで、剣持も何かの一族なのか?」
ぼくは気になった事を聞いてみた。
学校の昼休み。
相沢、剣持と一緒に昼食である。
見た目は二人とも可愛いのだが、魔物じゃなければなぁ。
「牙の一族だよ」
「なんだ、ワーウルフか」
「こら、あっさり答えを言うんじゃない」
剣持はダラッとした表情で言った。
「ワーウルフもぼくの世界から来たのか?」
「さあ?」
「剣持、頭使うの得意じゃないっぽいよねー」
相沢が小バカにした顔で言う。
「うるさいな、コウモリ」
「コウモリじゃないもん、貴族だもん」
「ケンカはよせ」
ぼくは遮って、
「そっちの一族は自分たちの歴史とか調べてないのか?」
「うーん、あんま興味ないかなぁ、あたしらバトルばっかやってるし」
「バトルジャンキーかよ」
「そんな誉めんなよ」
「誉めてねーよ」
そんなやり取りをしてると、
すっ
誰かがぼくの前に立った。
「ワーウルフの成り立ちに興味があるようね」
見上げると、そこには魔女の帽子を頭にのせた女の子がいた。
黒髪、三つ編み、眼鏡、背は低い方。
…胸は普通か。
「お、如月じゃん、めっずらしー」
「珍すィー」
剣持と相沢が驚いた顔をする。
「人を珍獣みたいに言わないでくれる?」
如月は眼鏡をクイッと直して、
「ワーウルフは、元を辿ればスラブ民族の戦士団に由来している。戦士は獣の皮を被ってその獣に変身して戦ったと言われている。狼、熊などの獣になりきって狂暴な戦士として戦ったという」
「バーサーカーの事か」
「そう、バーは熊、サーカーは着る、という意味らしい」
「それがワーウルフと関係あるのか?」
「多くの歴史的事象は他の模倣として行われる。バーサーカーが模倣だとしよう、そうすると元となった事象が存在するとは思わないか?」
「ああ、なるほど。変身して獣になる何かがいたってことか」
「ふん、理解が早いね、勇者くん」
如月の眼鏡がキラリと光る。
「ここからは秘密の知識だ。獣人はスラブの神の従士であり、北欧神話でいうエインヒャレルみたいなものだ」
「?」
「戦で死んだ戦士が神の軍団に迎い入れられる、そんな伝承だ」
「ふーん」
なんか聞いたことあるような?
「その生き残りが今でも人里離れた場所で暮らしている」
「異世界との関わりは?」
「異世界なんてちっぽけな話じゃない。本物の獣人はいわば神人だぞ? 多数の世界に行き来したりする存在だ」
「じゃあ、ぼくの世界にいるのも…」
「うん、生き残りだな。劣化してるが」
「劣化いうな」
剣持が不貞腐れてる。
まてよ、てことは…。
「じゃあ吸血鬼も何かの従士なのか?」
「ふむ、いい質問だね、勇者くん」
「ジュースを奢ってやれよ」
「9本でいいからすぁー」
剣持と相沢が茶々を入れるが、
「あーうるさい」
如月はさっと返して、
「吸血鬼は立ち位置的には同等だが、神族が違う。獣の神ではなく、別の存在だ」
な、なんだろう?
キーンコーンカーンコーン
そこでチャイムがなった。
「時間だ、ではまた!」
シュタタタ。
如月はささっと教室を出ていった。
「途中で放置かよ!しかも違うクラスかい!」
「アル君って属性ツッコミだねぇー」
「これは貴重なツッコミ」
「いや、嬉しくねーよ」
ぼくはこの先、やってゆく自信はない。
*
放課後。
「続きだけど…」
如月がやってきた。
「うわっ!?」
ぼくはビックリして変な声を上げてしまう。
「いきなりくんなよ、ビックリすんだろ」
「心外な、私は知識をひけらかすのが好きなだけだ」
「きいてねーよ」
「さて、相沢と剣持も揃ったな」
「いやムリムリお前が連れてきたんだろがー」
「ねえ」
相沢と剣持はうんざりした表情であったが、大人しく座る。
ちなみに食堂を使っている。
「吸血鬼の話だったな」
「あー、そうだっけ?」
「吸血鬼は獣の神とは別系統の神族の従士だ」
「どうせまたそっから大分劣化してんだろ?」
「うむ、そうだ。劣化が激しいためにその本性がよく見えないので、コウモリに見られたり、アンデッドと混同されたりする」
「ターンアンデッドで撃退出来てたけどな」
「魔法は私の専門だけど、魔法には魔法レベルというものがあって低レベルの魔法の効果を兼ねて束ねてゆく場合が多い。ターンアンデッドはそれより先に使えるようになる『プロテクション・フロム・エビル』を下地にしているので吸血鬼にも効果がある」
「プロテクション・フロム・エビルの効果だってのか?」
「そう」
如月はうなずいた。
「僧侶が仕える神族が独断で決めた善悪だけどね」
「ふーん」
ぼくは唸った。
一応筋は通ってる気がする。…が、鵜呑みにはしないでおこう。
「そーいや勇者くんも勇者っつーくらいだから魔法つかえんでそー?」
相沢が余計な事を言い出す。
「ちゃんとしゃべれ」
ツッコミつつ、ぼくは思い出す。
アイアンスキンはまあいいとして、ライトニングやウィンドカッターなどの攻撃魔法は全く威力が出なかった。
隠れて使ってみたんだけどね。
「魔法は使えたけど、なんか威力が低かった」
ぼくは迷ったが正直に答えることにした。
使う機会が来たらバレるし。
あてにされても困るから。
「へーなにそれオッカスィー」
「でも魔法使えるんだ」
相沢と剣持は小バカにした顔。
くっそーコイツら覚えとけよ?
「それはね!」
如月の眼鏡がキラリと光る。
よもや眼鏡が本体じゃないだろうな?
「こっちの世界はマナが少ないのよ」
「な、なんだってー?」
「マナが少ないから、魔物も少ないし、魔法も実現しにくいわけ。魔力を要する種族も段々マナを必要としない身体に変化したのよね」
「なるほど、劣化にも理由があったってことか」
ぼくは納得。
だから魔法に頼らない文明が発達していった訳か。
「ところで、如月は魔女なのか?」
「魔女…ふふふ、そうとも言えるし、違うとも言えるね」
「ん、どういう意味だ?」
「魔女ってのは元をただせば異世界の人間なのよ、勇者くん。マナの少ないこの世界では、魔法使いは、もはや違う生き物と言える訳ね」
「てことは、如月の先祖は異世界人なのか」
「エクセルライド王国宮廷付きの魔法使いと言えば、分かるでしょ?」
「なに?」
「ここまで聞いたからには、もう逃げられない」
「そっちが勝手に話したんじゃないか!」
ぼくは一瞬怒りを覚えたが……。
いやまて、コイツ確か、ここからは「秘密の知識」とか言ったっけな。
こちらが踏み込んだのに気付かなかったのだ。
「まさか、ビクトールさんが言ってた部隊とかいうのと関係があるのか?」
「そりゃ関係ない訳ないよ、その部隊を組織したの私のご先祖様だしw」
「なに!?」
ぼくはあまりの驚きに目が点になった。
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