第3話
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建物に入るとそこは何もない殺風景な小部屋になっており、門番の男が奥の方へと案内する。
門番の男はこの世界の文化でいうスーツという服装をしていて、体格もよく筋肉が発達している。
何かしらの戦闘スキルを保有してそうだ。
「最近どーよ?」
「はあ、いつも通りです」
相沢と門番は世間話をしながら歩いてゆく。
いわゆる顔というヤツか。
相沢って一体何者?
ぼくは黙ってついてゆくしかなかった。
剣持も何も言わないし。
奥の通路の先にはリビングと思われる部屋があった。
で、そこには白髪長身の老人が待っていた。
顔はいわゆるこの世界でいう白人。
服装は、ぼくの世界にかなり近い外見で、貴族っぽい。
「お爺ちゃん!」
相沢が老人に駆け寄り飛び付いた。
「元気だったか、アイナ」
お爺ちゃん、表情がデレデレしてる。
「あ、これ、ウチのお爺ちゃん」
相沢は老人を紹介。
「ブラド・ビクトールと申します。よしなに」
「アルフレッド・ライトニングです。どうぞよろしく」
「剣持加美香です」
「おお、みなさん、よく来られた。歓迎しますぞ」
ビクトールはそう言って紅茶を用意する。
ちなみにブラドが姓、ビクトールが名らしい。
日本人と同じ並びだ。
王国では、名、姓が普通なので、ぼくはアルフレッドが名、ライトニングが姓だ。
「スリランカ産のお茶です、どうぞお試しあれ」
ビクトールが勧めるので一口飲んでみる。
お茶ってのは、王国ではほとんど普及してないが、薬湯に相当するものらしい。
日常的にそんなものを飲めるとか、どんだけ裕福なんだ。
「アルフレッド君と言ったね」
ビクトールは話を向けてきた。
「はい」
「私はね、私達一族の歴史を調べている」
「はあ」
「既に分かっているだろうが、私達は普通の人間ではない」
「はあ、そうですよね」
…吸血鬼。
ぼくの故郷にも存在する血を吸う魔物。不死の怪物。
血を吸い尽くされて死んだ者はやがて同じように吸血鬼となる。
吸血鬼が現れると時折爆発的に数を増やすので、忌み嫌われている。
「君はここではないどこか別の所から来たそうだね」
「ええ、不本意ながら何かの術で飛ばされてきたようです」
ぼくは正直に答える。
今、ウソをついてもデメリットしかない。
「ふむ、興味深い」
ビクトールは紅茶を一口すすり、
「アイナから聞いたが、エクセルライドという国から来たとか?」
「そうです」
ぼくは肯定した。
「エクセルライド王国はこことは違う世界のようです」
「単刀直入に聞きますが」
ビクトールが言う。
「私達と同じ種族はいましたかな?」
「…いましたよ。ぼくの見立てが間違いでなければ」
「ふむ、私はね。我が一族がどこから来たのかを探っているのですよ」
「……まさか、ぼくの世界から来たというんじゃありませんよね?」
「あり得なくはない、と思いますがな」
ビクトールはそう言って古めかしいノートを広げる。
何語か分からないがビッシリ文字が書き込まれていた。
「我が一族が歴史舞台に現れた記録を追って見ますと、18世紀までは生ける死体として記録されている」
18世紀…。
確か、この世界の歴史はある聖人の生誕からカウントするのがメジャーになってるんだったな。
1世紀が100年だから、単純に1800年か。
恐ろしく長い歴史だな。
エクセルライド王国はまだ200年程度の歴史しかない。
定期的に魔王の軍勢が襲ってくるからか、戦乱で滅ぶ頻度が高い。
となるとこの世界は魔物が少ないというのが大きいんだろう。
「ところが、19世紀に入るとイメージが一変する。……つまり私のような容姿になる」
ビクトールはちょっと気取ってポーズを決めて見せる。
「19世紀に異世界渡航した者がいるという事でしょうか」
「うむ、そう考えると辻褄が合う」
なるほど。
まあ、だからと言って、ぼくには関係ない話だ。
魔物だとしても無闇に人を襲わなければ、危険ではない。
戦う意思のない魔物は放って置くのが勇者としての嗜みなのだ。
「興味深いお話ですが、それを確認するためにぼくを呼んだのですか?」
「うむ、その通り」
ビクトールはうなずく。
「我々と、その他の同胞が有志を募っておって、異世界探索部隊を結成しておるのです」
チラッと剣持を見やる。
剣持も普通の人間ではない何かの種族なのだろうか。
「そこに、あなたが加わって頂けたら…と思う次第です。勇者殿?」
「……」
ぼくは少しの間、沈黙した。
元の世界に帰る。
願ってもない事だが、こいつらを連れて行くことはあまり良いとはいえないかも。
この世界の兵器は恐ろしく発達してる。
戦争も巨大規模で行ってきたそうだ。
王国も魔王の軍勢も勝てない気がする。
「それは、断らせてもらう」
「おや、いいのですかな?」
ビクトールは片方の眉を上げて見せる。
器用だな。
「勇者殿が参加せずとも我々は異世界渡航に着手する。勇者殿が欲しいのはあちらの世界に詳しいから。まあ居なくとも効率が悪くなるってだけの事で」
「むう…」
ぼくは唸った。
そういう事か。
それでぼくの面倒を見てる訳だな。
こいつらが何をするか分からない以上、あちらの世界への水先案内はできない。
学校生活を捨てる事になるが仕方な…
「ちょっとお爺ちゃん!」
相沢が割って入ってきた。
「いきなりこんな話しして失礼だよ!」
「え?」
「こんな内容だってしってたら連れて来なかったよ!」
相沢は怒り心頭ってな感じで怒り出す。
「ああ、すまん、すまん、アイナ」
ビクトールは急に声色を和らげる。
「少し、からかってみたくなっただけなんじゃ」
「ふん!」
相沢はそっぽを向き、
「いこ、アル君」
「ま、待て待て、そう急がんでも」
ビクトールの顔に焦りが浮かぶ。
「そうだ、ケーキ!ケーキがあるぞぉッ」
「ケーキくらいで…」
「フレッシュムーンだぞ?」
「食べる」
即答だった。
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