第2話

2


ぼくは相沢の後ろについてゆくだけだったが、信じられない光景ばかりだった。


鉄でできた乗り物。

固くて平らな道路。

堅固な石とガラスでできた塔。

豊富な食べ物。

溢れかえる品物。


すべてが驚愕。

王国の魔法使い全員が総力を結集しても実現できそうにない。

極めて高度な文明がそこにはあった。


「どうよ、外に出てよかったっしょ?」

「ああ、驚きの連続だ」

ぼくは正直な感想を述べるが、

「えー、どんだけ田舎なの、王国」

「いや、王国が田舎なんじゃなくて、日本が発達し過ぎてるだけ…」

「あ、アイス食おうぜィ」

相沢は全くぼくの話を聞かない。

「フォーティンアイス、うまいよ」

相沢は勝手に二人分のアイスを買ってしまう。

旨い。

しかも冷たい。

こんな冷たい菓子を庶民が食べれるなんて!

ぼくの故郷では、氷菓子なんて王侯貴族しか食べれないというのに!

なんて素晴らしい国なんだ。


一応、ぼくもこの世界のお金は持ってる。

校長が定期的に小遣い銭をくれるのだ。

てか、校長って何者?

なぜ王国から来たぼくの面倒を見てくれるんだろう?

そんな事を思いながら、相沢と並んで歩く。

相沢は、ずっとしゃべりまくっていて、まるで黙ると死ぬ呪いにでもかかってるみたいだ。


「ん、どったの?」

相沢がぼくの顔をのぞき込む。

ぼくは人生経験最大級の驚きで、固まっている最中だった。

わなわなと震えていたかもしれない。

「…と」

「えぁ?あんだって?」

「と、と…」

「と?」

「ととと…」

「あーもーじれったいっつーの!」

相沢がキレ気味で叫んだ。

「…まさか、これは大小の用を足す場所か!?」

「はぇ?なにいってんのアホか」

「ここも、ここも、これも、あれも、それも!!!」

ぼくは勢い余って身体全体で表現してしまった。

「はぁ?」

相沢は若干引いてしまったようだ。

「トイレが珍しいの?」

「そう、トイレ!」

「うわっ」

「トイレ!素晴らしい響きだ!」

ぼくは天を仰いだ。

「聞いてくれ相沢、ぼくの国にはトイレなんて王侯貴族の中でも身分の高い者しかもってない、個室ならまだ良い方で普通は便壺だけ、適当な部屋で用を足して、はい終了だ。便壺もってるだけまだマシ。庶民は桶とかだ!外ならその辺の茂みとか川で済ます!つまりトイレ設備などない!!!」

「え…どうすんのソレ?」

「どうする…か…ふふふ」

「流さないの?」

「水洗!?んなもなぁねえ!!!!」

「ひえぇ!?」

ぼくの叫びに相沢は怯えて逃げ出す。

「待てぃ!」

「ぎゃー!?」

「どうするのか聞いたなぁ!?」

「聞いたけど聞きたくないー!」

「捨てる、外に!二階に住んでるヤツは窓からな!」

「うげぇー」

「だから日傘やマントが普及した!香水を振りかけるのもそのせいだぁー!!!」


「あーうるさい」


ぼぐっ


「ぐえ?!」


ぼくは何かにぶつかってひっくり返った。


「天下の往来でなにトイレ談義ぶっこいてんだよ、ったく」


気だるげに言ったのはぼくらと同じ制服姿の女の子だった。

タレ目、セミロングの髪…毛先がギザギザしてる、身長はぼくと似たり寄ったりか、スリムでしなやかな獣を思わせる。


「剣持じゃん」

相沢が言った。

「なんでこんなとこに」

「お前らのお目付け役です」

「てことは校長か」

ぼくは率直に言った。

そう言えば、この剣持という女生徒は学校で見た事があるような気がする。


「まあね」

剣持はかったるそうに言った。

「内申良くしてくれるってゆーからさぁ、引き受けたわけ」

「ふーん、あんたそんなに素行悪かったのねぇ」

「ほっといて」

剣持はため息。

「で、あんたら結構仲良いのな」

剣持はニヤニヤしながら言う。

その途端、

「な、なにいうとるでぃすかー!」

相沢は真っ赤になって叫んだ。

「いやいや、照れるでない」

「おまっ、変なこというなし!」

「まあいいさ」

剣持はぼくに向き直る。

「とりあえず勇者君の身辺を守るのが、私の役目だしな」

「あっそ、まあせいぜい頑張れし」

剣持と相沢に挟まれ、ぼくは何だか居心地の悪い感じのまま歩き出す。


ぼく→土地勘なし

剣持→身辺警護


という訳で、主導権は相沢が握っている。

女の子だから買い物でもすんだろうと思ってたら、なんか裏道へ入って行く。

「ん、なんか暗がりに入ったぞ?」

「だいじょび、だいじょび」

相沢は薄暗い路地をずんずん進み、ある所でピタリと止まる。


建物の裏口のようなものがあり、ドアの脇に不思議な紋様のようなものが描かれている。

「なんだこれ?」

「あー、勇者君見えるんかぁ…」

剣持が言った。

なんだろう、もしかして魔力の籠ったもの?

勇者のスキルがあるから見えるってことか。

てことはこの二人…。


シャッ


ドアに設けてある覗き窓が開き、ぎょろりと特徴のある目が見える。


「我らの糧は?」

「赤色」

コテコテのやり取り。


ガチャッ


とドアが開く。

出迎えたのはガタイの良い男。

無愛想ではあるが、警戒されてる様子はない。

「お待ちしておりました」

「いつもご苦労様」

相沢は慣れた様子で中に入って行く。

「お連れ様方もどうぞお入りください」

男に促され、ぼくと剣持も中へ入って行った。

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