異世界勇者くん

@OGANAO

第1話

1


やった!

遂に魔王を倒したぞ!

ぼくは思わず歓声を上げた。

長かった冒険もこれで終わる。

魔王を倒した英雄として皆に称えられるんだろうなぁ。

王国では姫がぼくの帰りを待ってるだろうし、これで人生ウハウハ。

これまでの苦労を考えたらそれくらい望んだとしてもバチは当たらないよな?

よな?


『よくもやってくれたなー勇者よー』

滅びゆく最中というのに魔王がぼくの回想を遮ってきた。

まさか、これ最後っ屁フラグ?


『屁とか言うなー』

どーでもいいだろ、んな細かい所。


『我だけ滅びるなど許さぬー』

魔王はマイペースな性質のようだった。


『我が最後の力で、お前に嫌がらせをしてやるー』

「やめろよ、魔王!」

ぼくは叫んだが、

『そりゃー!』

魔王はお構いなしに最後の力を行使。


うわっ!?

魔王から光が放たれて、ぼくを撃ち抜いた。

かと思うと、撃ち抜かれた所から光が広がり出し、その光に辺りが飲み込まれる。

一瞬の出来事だった。


気がつくと、ぼくは見知らぬ場所にいた。



キーン コーン カーン コーン


聞きなれないベルの音がする。

白い石の建物。

その中にぼくはいた。


回りには、ぼくと同じくらいの年齢の少年少女達がいる。

皆、制服を着ていて、そのデザインは軍服を思い起こさせる。

多分、士官学校なのだろう。


女生徒達がぼくを見て、驚いた顔をして、

「ナニアレ?コスプレってヤツ?」

「シッ、聞こえるよ!」

ヒソヒソ話ながら歩き去る。


……なんだろう、ぼくの服装はそんなに場違いなのだろうか?


数人の生徒が通りすがって行くが、全員同じように眉を潜めて歩き去る。


なんだよ、聞きづらいじゃないか。

ここはどこだ?…って。


「君!なんだその格好は!?」

そこへいつの間に現れたのか、見慣れない服装の男が問いただすように話しかけてくる。

眼鏡を掛けており、神経質そうな顔付き。

「制服で登校しないとダメじゃないか!どこのクラスの生徒だ!?」

「いえ、ぼくはここの生徒じゃなくて…」

「なんだと!?」

眼鏡の男は声を荒げる。

む、答えを間違えたか?いやしかし、ぼくはここの生徒じゃないのは確かで…。

もしかして間者かなんかと間違えられてる?

「転校生か!?」

「はい?」

ぼくの目が点になる。

「それなら早く言え」

眼鏡の男はそう言ってぼくの手を取る。

「いや、あの…」

「校長が待ってる、行くぞ!」

眼鏡の男は強引にぼくを連れ出した。


「待ってたよ、転校生君」

校長はぼくと眼鏡の男が入ってゆくと、ニコりとした。

だが、目は笑ってない。

なんというか敵意に似た視線である。

校長は女性だった。

年齢は30代前半くらいだろうか、細い眼鏡を掛けていて、ぼくを連れてきた眼鏡の男と似たような服装。

いや、眼鏡の男より派手な服装である。


「では私はこれで」

「ご苦労様です」

眼鏡の男が退出すると、校長は労いの言葉をかけ、すぐにぼくに向き直る。

「君の制服は用意してある、着てみたまえ!」

「いや、ぼくは…」

「遠慮は無用だ!」

「遠慮なんかしてな…」

「さあさあ、とにかく着てみたまえ!」

「いや、あの、その…」


着てしまった…。

『似合うじゃないか!」

「はあ…」

「では君の教室に案内しよう!」

「いや、ぼくの話を…」

「善は急げ、だ!もたもたするな!」

「ひえー!」


という訳で、校長に教室とやらに放り込まれた。



「お、来たな」

出迎えたのはさっきの眼鏡の男。

「転校生を紹介する」

眼鏡の男は言って、ぼくを手招きする。

教壇の横へ来いということらしい。

なんでぼくが…。

と思ったが、なんかそういう雰囲気を作られてしまって、それを壊すのは躊躇われる。

「じゃあ自己紹介して」

え、ぼく?

キョロキョロと見回すが、

「なに惚けてる、お前しかいないだろ」

眼鏡の男が当たり前のように言った。

「はあ、アルフレッド・ライトニングです」

「見ての通り外国人だが、皆、仲良くするように」

眼鏡の男はさっと切り上げて、

「じゃあ、相沢のとなりに座って。相沢、ライトニングの面倒見てやれよ」

「えー」

相沢と呼ばれた女生徒は、嫌そうに言ったが、

「はい、じゃあ座って。さっさと授業始めるぞ」

眼鏡の男は取り合わない。

ぼくは仕方なく、相沢の隣の席に座った。


「ねえねえ、アルフレッド君って教科書持ってる?」

「ないけど」

「じゃあ見せてあげる」

いや、それ以前に文字が読めない。


「ねえねえ、アルフレッド君ってどこの国の人ぉー?」

「エクセルライド王国」

「へー」

「知ってる?」

「しらなーい」

ガビーン、大陸一の強国なのに!?


「ねえねえ、アルフレッド君ってどんな娘が好みなのぉー?」

「サラ王女みたいな女の子かな」

「へー」

「知ってる?」

「しらなーい」

突っ込む気力が失せてきた…。


相沢は話好きらしく、数分おきに話しかけてくる。

しかし、ひたすら薄い内容だな。


相沢は茶色の髪をポニーテールにしていて、バカっぽい話し方をする女だった。

それでいて世話好きなのか、逐一フォローしてくれたので、非常に助かった。


「アルフレッド君さー、さっき廊下でコスプレしてたじゃん?」

「コスプレ?」

「なんかぁ、勇者みたいなカッコしてたっしょ?』

「あれはぼくの故郷では普通の格好だ」

「えー、なにそれー、変すぎー」

「失礼な、ぼくはれっきとした勇者の家系だ」

「勇者の家系って、うけるー」

プギャー。

という効果音を出して、ゲラゲラ笑う相沢。

このやり取りの後、ぼくは皆から勇者くんと呼ばれるようになる。


「じゃあ相沢はなんかそーゆーのあんのかよ!」

「え?」

相沢の全挙動がピタッと止まった。

「いや、アタシはなんっちゅーか、そのぉ…」

そして言い淀み始める。

「まあいいよ、言いたくないようだし。それに皆がぼくのように何かの家柄って訳じゃないからな」

「あー、なんだよその言い草ー」

相沢はなんか不満げである。

「言っとくけど、ウチは今は日本に住んでっけど、元々は由緒正しい貴族の出だかんね」

「これは失礼、ちなみに家名をお聞かせ願いたい」

「ヴラド・ビクトールを初代に11代、男爵の位を授かる家柄だぞ、恐れ入ったか、こんちくしょー!」

「ヴラド家と仰有るか。今後ともよしなに」

「ふん、今後ともよしなに!」

相沢はキレ気味なのに優雅に一礼して見せる。

人は見かけによらないとは言うが、まさか本物の貴族様とはな。


……いや、そうじゃなくて!

ぼくは頭を抱えた。

なんで皆、ぼくの話を聞いてくれないんだ!?



そして、ぼくの学校生活が始まった。

学生寮の部屋に寝泊まり。

朝晩は寮の食堂で食べ、昼食は校長から食券を貰って学校の食堂で食べる。

授業に必要な物は校長が取り寄せてくれるし、校内で暮らす分には全く問題ない。


「アル君さー、がっこの中だけにいんの不健康だろー」

「そーかな」

「アタシが外、案内してやっからさー、いこーよ」

「でも、ぼく、全く知らないから、この国の事…」

「いやいやいや、それはいくない」

相沢は頭を振る。

「未知なる世界を冒険するってのは勇者の使命だしょ?」

「なにが『だしょ?』だよ、日本語は正しく使えよ」

「やだねー、外国人に日本語の講釈たれられるとはねー」

「勇者なめんなよ、読み書きもマスターしたぜ」

「ま、いっかー。はよいこーぜ」

「あ、はい」


というやり取りがあって、ぼくは相沢に連れられて学校の外へ行くことになった。

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