第10話 ユーミ、勇者を撃退する

10.ユーミ、勇者を撃退する


「ギャッ!?」

「グワーッ!!!」

警備兵たちは初手で切り伏せられてしまった。

出番これだけ、である。

カワイソウ。


勇者、男、イケメン。剣と盾。

戦士、男、ガチムチ。剣と盾。

魔法使い、女、気の強そうな美人。杖。

僧侶、女、おっとりしてそうな美人。杖。

勇者、戦士、僧侶は鎧を着込んでおり、魔法使いは厚手の布の服といった装備だ。


「小癪な人間どもめ!」

「魔王様が手を下すまでもない!」

月並みな事を言って、前衛役のチェン・シェン・ロンとゴンザレスが立ちはだかった。

チェン・シェン・ロンは手槍と盾、ゴンザレスは剣と盾を装備している。

その後ろに3人の息子がスタンバイ。

息子たちは全員、剣を装備。


オキュペディウス、デンドロニウムは魔王たるロドリゲスの両脇を固めている。

どちらも魔法使い系らしく、杖を手にしている。


ユーミはロドリゲスの後ろに。


前衛は皆、鎧を着込んでおり、後衛は厚手の布の服。

ユーミだけが場違いにも普段着である。

戦闘職ではないユーミの装備が薄いのは仕方ないことだが……。


「マフージ!」

いきなり、魔法使いが呪文を飛ばしてきた。

ピカッと閃光が走ったかと思うと、魔王勢力の全員が魔法の泡のようなものに包まれた。

「マフージは敵グループの魔法を封じてしまう呪文です」

なぜか僧侶が説明をする。

「魔法使いさんのマフージは特別仕様、グループの認識をいじって敵全員にかけてしまえるチート仕様です」


「なに!?」

ゴンザレスが叫んだ。

このおっさん、大概付き合いがいい。


「ファイア・ウォール!」

デンドロニウムが呪文を唱えたが、


スカッ


呪文は空振りして発動せず。


「くっ…」

デンドロニウムは歯がみした。


「しかもMPは普通に消費するという、まるで罰ゲームのような効果」

僧侶はクケケと笑った。

趣味が悪いようだ。


「クソッ、なんてヤツらだ!?」

チェン・シェン・ロンが叫んだ。

「そうか、このやり方で次々に我が軍の精鋭を……」

ロドリゲスが超速理解を発揮して、勇者たちの手口を看破した。

「ハハハ、分かったところでどうする?」

勇者は嘲笑した。

ゲスな性格らしい。


「そりゃあ!」

戦士が剣を振るった。

相手が魔法を使えないと、単なる肉弾戦になる。

戦闘職はチェン・シェン・ロンとゴンザレス、それに魔王のロドリゲスくらいだ。

カイナスは武芸を習ってはいるが実戦経験がない。

他は研究職と管理職、要するに事務屋。

ユーミとグラナドスに至ってはニートだ。


城内の兵士や戦闘職はあらかたこの手口に引っかかって戦闘不能に追い込まれたらしい。

誰も応援に駆けつけてこない。


「いきなりピンチかよ!」

ユーミはパニックを起こしかけている。


その間にも、戦士と勇者が奮う剣をチェン・シェン・ロンとゴンザレスが防いでいる。

勢いづいた相手を押えるのに精一杯らしい。


「ほれほれ、こっちは魔法使えるんだよ。ウインド・スラッシャー!」

魔法使いは上級呪文っぽい魔法をかましてきた。

「しかも、回復魔法も完備です」

僧侶が言った。

チェン・シェン・ロンとゴンザレスが戦士と勇者に一太刀負わせても、すぐに回復されてしまう。

こちらは一切、回復できない。


「ぐえ!?」

「うごっ!?」

チェン・シェン・ロンとゴンザレスは戦士と勇者の剣を受けて倒れ込んだ。

まだ息はある。

「クソッ!」

「やるしかない!」

カイナスとオルドスがすぐにカバーに入り、剣を振るった。

フォボス家の者は獣人なので、本来なら獣化することで力が増大するが、魔法を封じられた状態だとそれができないようだった。

剣技の勝負になる。

「オレも!」

遅れてグラナドスが剣を振るうが、

「なんだ、そのへっぴり腰は?」

戦士に嘲笑されてしまう。

「剣ってのはこう使うんだ!」


ガキンッ


金属音が響き、グラナドスの剣が弾き飛ばされた。

剣は、くるくると宙を舞って部屋の壁まで吹っ飛び、床に落ちる。


「く…」

グラナドスは痺れる手を押えて、後ずさる。


「エンチャント・ウェポン!」

勇者は己の剣に魔力を付与した。

青白い光が剣刃に宿る。

攻撃力を上げる呪文だった。

「うおぉぉりゃあぁッ!」

勇者の剣が翻り、カイナスとオルドスの剣を弾き飛ばし、2人の剣身をポッキリ折ってしまった。

「くそっ!」

「なんだ、この不公平さは!?」

カイナスとオルドスは地団駄踏みそうな勢い。


「ザコには用はない!」

勇者は盾でカイナスとオルドスを押し飛ばして、魔王の所へ突進する。

その勢いで、カイナスとオルドスは転倒し、壁にぶつかった。

地面に転がって呻いてしまう。


「やるな勇者よ」

ロドリゲスは魔王の威厳を損なわないよう、佇んでいた。

だが、実際に勇者との戦いは初めてである。

勇者たちは魔王の軍勢と戦い続けていて、戦闘のプロとも言えるくらいに成長しているのに、だ。

(なんか不公平だよな!)

ロドリゲスは思ったが、そういう仕様なので仕方ない。


「魔王! お前に恨みはないが、オレらの将来のために倒す!」

「主にオレのハーレムエンドのために!」

勇者と戦士はなんか口走っていたようだったが、

「よかろう、魔王の力、見せてやる!」

ロドリゲスは無視した。

古来からのお約束に従っているのだ。


ちなみに魔法使いと僧侶は後方に待機するつもりらしい。

舐めプというヤツだ。


ロドリゲスも素手では分が悪いので、槍を手にしている。

俗に「剣術三倍段」と言われるが、これは槍や薙刀などの長物に対しては剣では段位にして三倍以上の技量が必要だという意味である。

いわゆるセオリーに従って、槍を使っているワケだが、勇者たちも海千山千だ。


「槍は対策済みだ」

勇者はそう言うと盾を投げ捨てた。

「それ!」

懐から紐のようなものを取り出し、勇者はそれを投げ付ける。

紐の先に重りがついた武器だ。


クルクルッ


と、ロドリゲスの槍に紐が巻き付く。

「クソッ!」

槍の動きを封じられ、動きが悪くなる。

「ヨッシャア!」

そこへ戦士が突っ込んでいく。

連続して加撃してゆく。


カン。

カン。


なんとか槍を操って、ロドリゲスは凌いだが、形成は不利だ。


「オレを忘れてもらっちゃ困るぜ」

勇者は片手で紐を引っ張り、もう片方の手で剣を振るった。

勇者は器用な質らしい。


「うわ、ちょっと卑怯じゃないか、それ!」

ロドリゲスが言うと、

「るせぇ! 魔族を倒すのに卑怯もクソもあるかよ!」

「勝てば良かろうなのだ!」

戦士と勇者は口を揃えて言った。


一撃、また一撃と打ち込まれてゆく。

そろそろ凌ぎきれなくなる、といったところで、


「あのー、アーシを忘れてもらっちゃ困るんですけどぉ」

ユーミが勇者のすぐ横に現れる。

「うわ、なんだお前!?」

勇者はちょっとビックリして動きが止まる。

「ユーミ、下がれ、下がってろ!」

ロドリゲスは戦士との打ち合いに忙しくしつつも、ユーミに声を掛けた。

「お前、魔王の家族か何かか?」

「娘だよん」

ユーミは言って、


手にしたモノを向けた。


ピカッ


光が目に刺さる。


「うわ!?」

戦士が思わず目をつむった。


「む、チャンス!」

ロドリゲスは体当たりをかけ、戦士を押し飛ばした。

戦士は転倒して地面にしこたま頭をぶつける。


「な、なんだ!?」

勇者は見た事もない物品にたじろいだ。

「勇者ちゃんにも、ハイ!」

ユーミは言って、手の中の電気スタンドを正面から向ける。

スタンドにハメ込んでいるのは、デンドロニウム謹製の超強力指向性電球だ。

『魔具ライト』という商品名で売りだそうと開発した超強力懐中電灯用の電球である。

皆が戦ってる間に取り替えたのだった。

さらにご丁寧なことに傘の部分に銀色に光る反射シートを貼ってあった。


「ぐわ!? まぶしい!」

勇者も思わず片手で目を覆った。

紐を持つ手である。


「もらった!」

ロドリゲスは槍の柄を振るって勇者の側頭部へ一撃。

勇者は吹っ飛んで地面へ。


「あ!」

「なに!?」

魔法使いと僧侶が同時に叫んだ。

楽に倒せると踏んでいたらしく、予想外のことに対応が遅れている。


「ブリザー…」

「させるかぁー」

言って、電気スタンドをピカッとさせるユーミ。

「きゃ!?」

魔法使いは目をやられて、呪文を中断させてしまった。

「とりゃー」

ユーミはタタタと走って、膝裏カックンさせる。

「うわ!?」

魔法使いは転んでしまう。

そこへロドリゲスが紐を使って捕縛した。

勇者が使っていた紐だ。


「さあ、あとはアンタだけだよ?」

ユーミはジリジリと詰め寄りながら、言った。

「な、なんなの、それ!?」

僧侶は電気スタンドを指さして叫んだ。

言いながら、後ずさっている。

「魔族の秘密道具とだけ言っておこう」

「なによ、それ!」

ユーミが返すと、僧侶はまた叫んだ。

ちょっとヒステリーを起こし掛けているのかもしれない。


「……安息の地へ我らを誘い給え」

と、そこへ魔法使いが唱える呪文が聞こえてきた。

見れば、ロドリゲスは捕縛して満足したのか、口を封じていない。

「お父様! 魔法!」

ユーミは咄嗟に叫んだが、

「え? え?」

ロドリゲスはうろたえている。

「テレポート!」

魔法使いが呪文を唱え終わると、


シュミミン。


勇者たち4人の姿が消え去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る