響との一夜

 脚のシビレで目を覚ましたのは30分後だった。慌てて響を揺り起こすが起きなかった。

 仕方ないので響を抱き抱えてベッドに移動させた。

 心配させない様に響の母親に連絡を入れておく。

 電話に出たおばさんの声はいつも以上に明るかった。


「あら、琢磨くん!どうかしたの?」

「あ、おばさん。響が疲れて部屋で寝てしまったのでそのまま寝かせておきます。起きたら送り届けるので心配しないでいでください」

「ふふふ、やっと琢磨くんと恋人になれたって喜んでいたもの、頑張りすぎたのかしら?頑張るのもいいけど程々にね。私まだ、おばあちゃんになりたくないもの」

「おばさん!」

「ふふふ、冗談よ。琢磨くんにそんな度胸があるならもっと早く響と恋人になっていたものね。響が起きたら『今日はもう帰ってこなくてもいいから』って伝えておいてね。それじゃあ、おやすみなさい」

「あ、はい。おやすみなさい」


 実に響の母親らしいあっけらかんとした対応だった。"あの親にしてこの子あり"という言葉を体現していた。

 晴れて親公認の恋人になったとはいえ、幼馴染として何度も一緒に寝ているとはいえ、流石に本人に無許可で隣で寝るわけにはいかない。僕はすぐ横の床に横たわった。

 決してヘタレってわけじゃないぞ。紳士的だと言ってくれ。



 朝、ベッドで目を覚ました時には響の準備は済んでいた。

 夜中に響に起こされて『床で寝るなんて駄目だよ、ほらベッドにおいで』と言われるままにベッドに潜り込んだのまでは覚えている。すぐ眠りに落ちたのでその後の事は覚えていない。響に抱き枕よろしく抱き付かれる感触があったけど睡魔には勝てなかった。


「おはよう!よく寝れたかい?ボクはぐっすりだよ」


 一度帰宅したのか響の身支度は済んでいた。男装していても響は可愛い。その笑顔を独り占めできるなんて僕はなんて果報者なんだろう。


「おはよう!今朝も響は可愛いね」

「ありがとう。それじゃあ、時間もないから早速支度をしようか」


 僕は響の言葉にうなづくと、そのまま身を任せのだった。

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