部屋でくつろぐ二人
響は僕の部屋に飛び込んで来るとそのまま僕のベッドにダイブした。ベッドの上でバタバタと悶えながら暴れている。
「ああん、癒してよ、琢磨!」
「やり直し!言葉遣いが悪いよ」
「わかりました。琢磨君、癒してください」
学校では女生徒達から王子として崇め奉られているのに、この部屋ではとんだポンコツだ。とてもじゃないが信者どもには見せられる姿ではない。
「それで、今日は何があったの?」
「親衛隊の子がね、また琢磨君の悪口を言ったんだよ!響には似合わないからさっさと幼馴染の縁を切るべきだって言うんだよ。酷いと思わない?こんなに琢磨の事、大好きなのに」
言いながらベッドから起き上がり飛びついてくる響を牽制し引き離しに掛かる。
「毎度、毎度、ワンパターンなんだよ」
「クンクン、いい匂い。琢磨の匂いだぁ!クンクン、ぐりぐり。幸せ――」
抱きついて来て、そのまま捻りを加えられて、僕は仕方なくそのままベッドの上に倒れ込んだ。下手に抵抗して響を怪我をさせるのは避けたかった。
そのまま響に覆いかぶさられて胸に顔を埋められた。
「ずっと嗅いでいたいな」
「毎日毎日、そろそろ飽きないのか?」
「飽きるわけないよ。このベッドも持って帰りたいもの」
幼い頃の約束とはいえ、結婚を約束した相手を無碍にも出来ない。響の気の済むまで背中に腕を回して抱きしめておく。響の柔らかな感触が腕に伝わる。
これくらいは役得だ。羨ましがられる意味がわからないよ。
「そうそう、今日、僕も親衛隊から呼び出し食らったよ」
「えっ?あの子たち、琢磨に何か変な事言わなかったでしょうね?」
「いつも『別れろ、離れろ、近寄るな』って呪文の様に繰り返してるからね。今日は別の要件だったよ。響がお前なんて相手にするわけないから『直接告白して見事にフラれろ』とさ。それで『綺麗さっぱりと諦めて響に近付くな』って」
「な、な、な、なんて事をあの子たちは――」
「いやいや、丁度良いじゃないか!告白して振られたことにして、学校で距離を取る様にすれば、うるさく言われる事もなくなる――」
「やだ、絶対に嫌だよ!」
「学校だけのお芝居だからさ、家に戻れば普段通りで良いじゃないか?響だって、学校だと宝塚よろしく、男役にハマってるじゃないか?」
「それはそうだけど、学校で琢磨に近寄れないって嫌だよ」
「うーん、それでも響が学校で女生徒達の王子様役をこなしている限りは仕方ない事だよ。僕も毎度毎度親衛隊に呼び出されるのは迷惑だしね。ここはきちんと振られて、距離を取る形が一番面倒事がないと思うんだ。そうじゃないかな?」
「――わかった。きちんと問題解決する」
響が素直に頷いた。顔からはすっかりと色が抜けていた。
「なら良かった。呼び出しの手紙は明日の朝、下駄箱に入れておくよ。放課後に中庭で待ってるね」
顔色を白くした響がゆらっと立ち上がると無口のまま部屋を出て行った。
思い詰めなきゃいいけど。気持ちを翌日に持ち越さないのが響の単細胞、もとい、良い所だから、明日には立ち直っているだろう。
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