第6話 つれないメイドさんと、『ラストアクションヒーロー』と『刑事物語』

 とっ捕まりました。


 というか、召使いさんたちを鍛える防犯訓練の演技なんだけど。


 全員が武装していて、ヘルメットや目出し帽をかぶっている。本格的だ。


「おいたわしや、泰菜やすなお嬢様、 防犯訓練とはいえ、真剣になさいませんと」


 助けに来たヒーロー役の映子えいこさん、なんか楽しそう。


 でも、百人を超えるメイドさんや執事さんたちに対抗できるの?


「よりにもよって、お嬢様をさらおうなんて。ビッグ・ミステイクですね」


 シュワちゃんのセリフだね、それは。『ラストアクションヒーロー』の。あれも、フィクションの世界に迷い込んだ少年の話だ。


 武装した相手に対し、映子さんは素手である。まさか本物のシュワちゃんみたいに、腕っぷしだけで突破なんてしないよね?


「お嬢様、ハンガーッ!」


「は、はい!」


 クローゼットに閉じ込められている身だが、手足は自由が効く。ハンガーを適当にチョイスして、映子さんに放り投げた。


 同時に、悪党役のメイドさんが飛びかかる。頭にメットを被っていた。


「ホワタ!」


 映子さんのハンガーが、野盗のメットに炸裂する。


 哀れ滑り止め機能付きのハンガーは、くの字に曲がった。


「お嬢様違います。木のやつ!」


「はい!」


 わかっています。『刑事物語』ですよね? ハンガーとかゴルフクラブで戦う、フォークシンガが主人公役をやってる刑事モノですねわかります。全五本、見させられましたから。


 木製ハンガーを手に入れた映子さんが、メイドさんたちに情け容赦ない攻撃を浴びせる。


「はいい! てええ!」


 ハンガーを持ったら人格が変わるのか、映子さんは鬼の形相で悪党役の人たちに立ち向かう。


「待て! このガキがどうなってもいいのか!?」


 野盗役の執事さんに、わたしは屋上まで連れてこられた。


 映子さんの足が止まる。もうほかは全て倒してしまっている。あとは、わたしを盾にしている執事だけだ。


「少しでも動いたら、こいつを落とす!」

 

 野盗は、わたしを屋上から放り投げるつもりだ。


「自分を信じなさい、映子さん!」


「そのつもりです」


 なんのためらいもなく、映子さんがハンガーを投げ飛ばした。


 わたしは、屋上から突き落とされる。その下には、バラ園を覆う柵が。


 だが、落ちていったのは野盗の方だった。地面に転落して、悶絶している。


 わたしはどうにか、天井の端っこにしがみついて無事だった。


 すべてが終わると、もう死屍累々って感じ。


 救急車どころか、パトカーまで来ちゃったよ。


「少し、本格的過ぎでは?」


「お嬢様。この件に付きまして、ご報告があります」


「なんです?」


「こちらの賊は、本物です。全員が、メイドになりすましていました」


 マジですか。


 父が出張で出払っているのをいいことに、我が家を乗っ取ろうとしていたらしい。


「『パラサイト』みたいな展開だね」


「笑っている場合ですか」

 



 

 数年後、わたしは大学に進んで家を出た。

 映子さんとも、ここでサヨナラする。

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