第5話 つれないメイドさんと、『女神は二度微笑む』

「ねえ映子えいこさん、インド映画のおすすめって――」


「『きっと、うまくいく』です。泰菜やすなお嬢様」


 割りと意地悪な質問かな、とわたしも思う。だが、即答が返ってきた。口調はそっけないけど。


「率直に申し上げて、日本人こそ『きっと、うまくいく』を見るべきです。自己肯定感の低い日本人は、本作に出てくるランチョーの生き方を参考にすべきかと。ほとんどの成功者が、この映画を見て勇気をもらったと感想を、ネットでアップしています」


 ホントだ。それも、どの人も人生が充実している人ばかりじゃないか。


「他に面白いと言えば、やはり『バーフバリ』シリーズです。しかしあれは前後編と分かれていて、見るのは大変です」


 見てしまうと、時間を忘れるくらいヤバイらしいけど。


「とはいえ、あなたは模範解答など、望んでらっしゃらないでしょ?」


 ややいたずらっ子っぽく、映子さんは答えた。


 たしかに、わたしも結構映画はここ一年で見てきたと思う。


「そんな泰菜お嬢様には、こちらをオススメいたします。どうぞ」


「『女神は二度微笑む』? この映画の特徴は?」


「はい。ミステリです」


 インド映画で、ミステリって?


「失踪した夫を、身重の主婦が孤独に探し回るミステリです」


「すごいおもしろそう」


「面白いです。わたしも、インド映画だからミュージカル仕立てかなと敬遠していたのですが」


 出張先でテロ事件に巻き込まれたかもしれないと、妻は夫を探す。


 しかし、夫はテロリストリーダーとうり二つだった。


 国際警察は、夫を容疑者と睨んで捜査に当たる。


 映画は最後まで、オチがわからない内容だった。実に見ごたえのある映画である。インド映画って初めて見たけど、こんなに面白いんだ。


「どうしてオススメインド映画をご覧になろうと?」


「インド映画のミュージカルBGMに合わせて踊ろうって、体育祭の実行委員から言われたの」


 それで参考になる映画を紹介してもらおうと思ったのだ。


「では、ミュージカル仕立てではない『女神は二度微笑む』は、まったく参考にならないじゃないですか」


「……あっ」


 あちゃー。


「でも、ご安心ください。『きっと、うまくいく』ですよ。ほら、泰菜お嬢様も胸を手のひらでとんとん叩いて。はい『うまーくいくー』。さんはい」


「う、うまーくいくー」


「はい。うまくいくおなじないです」


『バーフバリ』もいいが、長すぎるからちょっと参考になるかなという。


 で、『きっと、うまくいく』をクラスのみんなで見ることにした。


 こっちも、三時間もあるやんけ……。

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