第4話 つれないメイドさんと、『ナイブズ・アウト』
「
「どうなさいました、
「最近、お母さんが情緒不安定気味なんだよね」
なんでも、継母は親戚じゅうから「遺産目当てで結婚した」と思われているらしい。
父は継母を愛しているし、わたしも継母から愛情は受けている。別に差別されたりなんかシない。新しい命も継母に宿っているし、産まれたら目一杯愛するつもりだ。
しかし、親戚はそう思っていないらしい。ただでさえウワサ好きだし、悪いニュースも好きだ。
同じ金持ちなのに、相手の揚げ足を取ることばかり考えていた。同じ金持ちだからなのか?
「血がつながっていないから、いいたい放題なの」
「家族なんて、そんなものですよ。心から心配していようと、やっかみだろうと、口を挟みたくなるものなんです」
映子さんもそんな関係性が嫌になって、故郷を離れてこの地で仕事を探しに来たのだそう。
「そもそも、お継母様はお父様とどこで知り合ったのです?」
「母の介護士だったの」
弱りきった母を気遣っていた様は、わたし以上かもしれない。
その姿に引かれて、半年後に父はプロポーズした。
「はあ。『ナイブズ・アウト』のようなお話ですね」
『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』は、金持ちの作家殺害容疑がかかっているヘルパーさんを、探偵が助ける話である。
主人公のヘルパーに遺産すべてを渡すと遺言に書かれていて、作家の家族がどうにか主人公に相続放棄させてネコババしようと奔走するのだ。
「ゲロインなんだね」
主人公のヘルパーは、嘘をつくと吐くクセがある。
全部見終わって、なんとなく今の継母がこんな感じかなって思えた。
「この家に限らずとも、そんなミステリアスめいたトラブルなど普通の家では起きないでしょう。『おとなの事情』のような、小さいウソからトラブルに発展することはあっても。ただのやっかみですよ」
いつものつれない態度で、映子さんは意に介さない。
「ここはあなたの家ですよ、とお伝えなさっては? もしくは、態度で示すとか。例えば、そうですね。お料理を振る舞うとか。お教えします」
「ありがとう。継母は日本食が好きなの」
「ならば、肉じゃがですね」
エプロンを締め直して、映子さんがわたしを厨房へと連れて行く。
「奥様、今日のお夕飯は泰菜お嬢様たっての希望で、肉じゃがとなりました。お嬢様が一から全部お作りになったのですよ。奥様のためと」
映子さんの説明を聞きながら、継母はハンカチで目元を拭っていた。
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