第3話 かみ合わない証言

 撮影が終わった後、俺は美緒ちゃんに話しかけた。

「美緒ちゃん」

 元親戚だから、俺はそう呼んだ。

「今日はありがとうございました」

 彼女は他人行儀に頭を下げて言った。急にそっけなくなっている。さきほどと同じ人物とはとても思えないほどの変わりようだった。

 

「ちょっと話したいんだけどいい?」

 横でマネージャーが隣で怪訝そうな顔をしていた。

「二人だけで話したいんですけどいいですか?僕たちは親戚なので・・・僕の親のことも伝えたいし」

「わかりました。三時から次の現場があるので・・・三十分くらいでしたら」


 俺たちは、撮影に使った喫茶店の隅っこで話すことにした。

「美緒ちゃん、心配してたよ。君、小学校五年生の時に行方不明になってたから。君の家出だって言われてたけど、実際はどうだったの?」

「実際って・・・お父さんとお母さんが私を施設に戻しただけですよ」

「え?」

「私がかわいくないから、施設に戻れって言われて・・・戻っただけです」

「え、そうなの?ひどいね」

「でも、かわいくなかったんでしょ。私愛想がなくて。お父さんとお母さんに嫌われてしまって・・・だから捨てられたの」

「そんなことないと思うけど・・・叔母さんは僕の母に、失踪してるから、警察に捜索願出したって言ってたのに」

 美緒ちゃんはものすごく冷めた目をして、鼻で笑った。一度引き取った子どもを愛想がない返品するなんて、まともな人間のすることではない。結局、二人は偽善者だったのだろう。

「二人がどうなったか知ってますか?」

「知らない。俺は親戚付き合いがまるでないから。でも、親戚に聞いてみるよ。そしたら、どうしたい?会いたい?」

「まさか。死んでたらいいなってずっと思いながら生きてましたから」

「気持ちはわかるよ。それだけのことしてると思うしね」

 最後に俺たちはラインを交換して別れた。何となく、これ以上関わらない方がいいような気がした。


 俺はその親せきに連絡をすることにした。もう何年も会っていないが、その人たちは日本料理のお店をやっていて、インターネットで検索したら簡単にホームページが出て来た。店はお座敷があって、法事の後の食事会なんかができるところだった。美緒ちゃんをもらう前に母に連れられて遊びに行ったが、建物は純和風で庭も手入れされてて、裕福そうだった。こういう業態がどのくらい儲かるかは想像がつかないが、それにしても、跡継ぎにするなら最初から男の子にしたらよかったのに・・・なぜ、女の子を選んだのだろう。緊張しながら電話を掛けると、5コール後に年配の女の人が出た。


「すみません。江田聡史と申しますが、江田真一さんはそちらにいますでしょうか」

「聡史君!私、久子だよ」

 嬉しそうな声だった。年を取ると尋ねてくれるだけで嬉しいものだろう。

「あ、おばさん。ご無沙汰しています。お元気ですか?」

「うん。まあ、何とかやってるけど、年だからね。あっちこっち、傷んでるわ」

「そうですか・・・でも、今もお店に?」

「うん。レジとかそういうのをやってる。もう立ったままっていうのが難しくて」

「お店立ちっぱなしですもんね。おじさんはお元気ですか?」

「まあ、あの人の方が元気だね。まだ、調理場にいるからね」

「へぇ。すごいですね」

「まあ、働いてるから元気なんでしょ。仕事好きだからね。今日はどうしたの?」

「実は・・・昔、そちらで養子に迎えた女の子がいたじゃないですか」

「未央子のこと?」

「はい。その子に最近会ったんです」

「まさか!だって、行方不明のままなんだよ」

「それが、その子は施設に帰されたって言ってるんですけど・・・どちらが本当なんですか」

「いや。施設に帰してないよ。自分からいなくなったんだ」

「女優の堀川美緒って子が自分がそうだって言ってるんです。昔どんな顔だったか覚えてないんですけど・・・すごくきれいになってて、とても本人とは思えなくて」


 俺は動揺していた。おばさんが嘘を言ってる気もするし、美緒が何かたくらんでいる気もする。

「女優ったって、そんなにきれいな子じゃなかったわよねぇ。ポルノとかじゃないの?」

「違いますよ。ちゃんとした映画に出てる人です」

 やっぱりそうだったんだ。整形して芸能界デビュー。全国ネットで初恋の人に告白。もしかしてネタ作りか?俺は美緒ちゃんと全然喋ったこともないのに。何かがおかしい。

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