第2話 どっきり
俺がその芸能事務所に連絡をしたら、あちらも喜んでいて連絡先を聞かれた。そして、すぐに折り返し電話が掛かって来たと思ったら、対面するところをテレビで放映したいということだった。俺は一般人で普通のサラリーマンだから、テレビにでるのはちょっとと言っていたら、顔にモザイクを掛けます言うので、それだったらいいかなと承諾した。出演料が出るかどうかは聞き忘れた。多分、出ないだろうと思ったが、彼女に会えるならいいやと諦めた。
俺はなぜその子に会ったのか、自分でもうまく説明できない。再会してワンチャン、その子と付き合うとか、芸能界に伝手が欲しかったではない。なぜか突き動かされたのだ。これが過ちの始まりだったのかもしれない。
実母は亡くなってるし、従兄弟たちの連絡先も知らないから、親戚筋には一切連絡することもなくテレビに出演することにした。
俺たちの対面はやらせなしのガチで、彼女にドッキリを仕掛けることになった。喫茶店で打ち合わせをしている時、俺が店員として飲み物を運んだりするのだが、何故か何度もテーブルまで来て、妙に話に割り込んで来るというものだった。
堀川美緒ちゃんは女性のマネージャーと2人でやって来て、4人掛けの席に着いた。俺は店員としてメニューと水を持って行った。前にバイトでウエイターをやっていたから、自然にできた。
その後、仕掛け人の偽プロデューサーともう1人の女性がやって来る。偽の旅番組の打ち合わせということだった。俺はまた、指図通りに水を持って行った。
次にオーダーを取りに行ったが、偽プロデューサーが俺に向かって「君、かっこいいね。マスク外してみて」と言うのだ。俺ははっきり言って見た目は普通だから、ここはちょっと笑いを取るための演出だろうという気がする。
「いえ、仕事中なので」俺は断った。
そして、次に飲み物を運ぶ時は、マスクを外して行くという展開だ。一般人のアラサー男がすました顔をしてプロデューサーにアピールしている。ここは笑うところのはず。
「君、いい顔してるね」
プロデューサーが煽る。
「いえ、とんでもない・・・」
俺は謙遜してその場を立ち去る。
「あの人、まんざらでもないみたいね」
女性のマネージャーが笑いながら言った。
「イケメンじゃない?」
モニターを見てると、堀川さんが口元を隠しながら笑っている。シミひとつない美肌で、超美人。普通に歩いてたらすごく目立ちそうだった。さすがテレビに出ている人は違うなと思った。俺は再びテーブルに向かい、緊張しながら追加の飲み物を配置した。誰が何を頼んだか忘れかけていた。
「君、いくつ?」
偽プロデューサーが俺に尋ねる。
「はい?29です」
「あ、そう。美緒ちゃんは?28かなぁ?君、かっこいいから、 ちょっと番組出てもらえない?」
美緒ちゃんは動揺しているように見えた。
「君、バイト?芸能界に興味ある?独身?」
その男が俺に色々な質問をし始める。
「出身どこ?」
「〇〇です」
「あ、同じ」
美緒ちゃんが驚く。
「名前は?」
「江田聡史です・・・」
「え!うそ・・・」
目には涙が浮かんでいた。
「どうして?私の初恋の人です」
そこへ、どっきり番組の看板を持ったADらしき人が現れる。
「えー。夢見てるみたい」
美緒ちゃんが泣き崩れ、俺は傍でニコニコしながら立っているという、感動の展開だ。
「堀川さん、どうですか?」
ADが尋ねる。
「全然、わからなかった。すごい、ノリノリな店員さんだなと思ったら・・・」
「顔見てどうですか?」
「いや・・・素敵だけど、面影ない」
俺は苦笑いする。
「どうですか?」
ADの人が俺にも感想を尋ねた。
「いや・・・すごいきれいになって、見違えました」
「ありがとうございます」
美緒ちゃんがティッシュで目を抑えながら言った。
カメラが回っている前で、俺たちはちょっと喋ってみたけど、今まで会ったことがある人とは思えなかった。例えば同窓会などで、小学校の時の同級生と会った時、何となく懐かしい感じがしたものだけど、彼女にはそれが全くなかった。あの地味な女の子がこんなにきれいになるわけないよな。絶対整形だな。俺は確信した。
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