一章 森での出会い。

 森の上空を龍が飛ぶ。

 私の目に飛び込んできたのは、龍の腹。


「いました! ブリザードドラゴンです!」


 私は龍を見逃すまいと走りだすけど、そのスピードに並走するほど足は速くない。木の根に足を引っ掻けて、盛大にこけた。


「いったあ~!」


 むくりと起き上がり空を見上げると、龍のお尻が遠くの空に見えた。


「あーあ、見逃しちゃった……」


 私はがっくり肩を落とす。駆けよってきた仲間のトニーが私に向かって吠えた。


「M2! 勝手に先行するな!

今回は運が良かったものの、攻撃されたらどうする!」


 私は口を尖らせて言う。

「攻撃なんてされませんよー。見たのは龍のへそだけだったし、ちょうど真下にいたんで龍も気づかなかったと思いますぅ」


「だとしてもだ。俺たちは勇者でも狩人でもねぇ。ただの調査団モブなんだ!

攻撃されたら一発アウトだぞ!」


「そんときはそんときですよ。携帯してる魔道具使って、バリアでも張ればなんとかなるんじゃないですかあ?」


 土を払いながら立ち上がると、ぴりりと膝が痛んだ。見ると、膝から血が滲んでいる。

 顔をしかめる私を見て、トニーはこめかみをとんとんと叩き、苦虫を潰したような顔で私を睨んだ。


「M2。それでうまくいくなら、俺ら調査団モブは護衛なんてつけないんだよ、ばぁか! 俺らはなんのために、ここにいる?」


「龍の絵を描くため」


「違う! モンスターの討伐手配書を作成するためだ! 勇者や冒険者、狩人らに、モンスターを討伐してもらう為に下調べするのが、俺たちの仕事!

 お前は絵を描く、俺は巣穴を探す!

 そんでもって、雇った冒険者たちはそんな俺らの護衛をする!

 要するに俺たちはモブなの、主人公じゃなくて脇役なの!

 最初に約束したよなあ? 独断先行しないって!」


 私はうっと言葉につまる。

「一応、ブリザードドラゴンがいるぞ~って、私は声はかけましたよ」


「そこからフォーメーション組んで進むのがセオリーだろうが。まあ、お前がドジ踏んですっころんだから、それもすべてパーになっちゃったんだけどね!」


「うう、すみません。せめて魔法印マーカーだけでもつけとけばよかったですね。そうすれば離れていても場所が特定できますし」


「確かにな。でもまあ、起こったことはもうどうしようもねえだろう。

 どれ、足を見せてみろ。怪我したんだろ?」


 トニーが身を屈め、私の膝を覗き込んだ。

 それを見て、私は一歩下がった。


「いいです、これくらいかすり傷ですから」

「遠慮するなよ、勢いよくずっこけてたくせに。」


 私は膝を隠すように手で覆った。

「そうやって善人ぶって、乙女の柔肌をさわろうとする魂胆が嫌らしいです!」


 トニーが勢いよく立ち上がると吠えた。

「てめぇ、俺をそんな目で見てたのか!!」


「アラサーのおじさんに、うら若き女子高生の足を委ねるわけにはいきません。

 事案案件です、自分でどうにかします」


「女子こーせーだかなんだか知らねーが、そうやってすぐ強がる癖、直した方がいいぞ」


「ほっといてください、トニー。あなたは少々お節介が過ぎます。私が異世界から来た人間だからって、あまりに構いすぎると通報しますよ、憲兵に」


「あーそーかい、そりゃー悪ぅございましたね!」

 下唇をつきだして毒づくトニーを見て、私は眉間にシワを寄せる。


「あまりお人好しすぎると、早死にしますよ。私みたいなどこの誰かもわからないやつとバディを組む時点で、相当リスキーなんですから」


「別にそれはいいだろ、俺が決めたことだ!

 たまたま偶然、お前さんが空から降ってきた時に俺が居合わせて、そこから繋がった腐れ縁だ。

 M2こそ、俺がこんな仕事してるばっかりに危険なことに首を突っ込むことになって、大変だって思わねーのか?」


 私はきっぱりと断言した。

「スリリングな仕事は天職です!」

「あーそーかい! 心配して損した!」


 ふんっとそっぽを向く私たちのもとに、護衛の冒険者たちが駆け寄ってくる。仲間と合流した私たちは、一度、体制を立て直すために頭を付き合わせて話し合いをすることにした。


 森のなかで仲間と合流した私は、円になって地面に座り話すことにした。

 最初に口を開いたのはトニーだ。


「で、何から決める?

 龍の巣穴見つけるにも、もう先へ行っちゃったからなあ。

 魔法印マーカーもつけてないし、餌をとりに行ったと仮定してここで待つか、それとも、逆に巣穴へ戻ったと仮定して先へ進むか。

 M2、お前、何かヒントは見てなかったか?」


「ヒント……ですか?」


消毒液を膝につけていた私は手を止めて、トニーを見る。


「例えばどんなものです?」


「口になんかくわえてたとか、怪我してたとか、なんか先に繋がりそうなもんだよ!

 何か見てねーか?

 一番近くにいたの、M2だろ?」


 私は少し考えたあと、口を開いた。


「残念ながら、龍のへそしか見てませんでした。動体視力もそんなに良いわけではないですし、絵を描くしか脳のない、平凡なスペックの私に何かを求めるのは愚の骨頂かと」


 トニーは地面を叩いた。

「くそっ、この役立たず!

 本当にスッ転んだだけか!」

悔やむトニーに、私は毒づいた。

「身体能力が平凡で、すいませんでしたね」


「まったくだよあーもう、今日これからどーするよ、なあ!

 半日かけて探した結果がこれって、俺たちもついてねーよなあ」

 目を覆い、嘆くトニー。


 そんな彼を無視して、治療を終えた私は、背負っていたリュックからスケッチブックを取り出す。


「私が覚えてるのは、これぐらい……」


 しゃっしゃっと音をたてて、スケッチブックに鉛筆を滑らす私。

 みるみるうちに、ブリザードドラゴンのへそが浮かび上がってくる。


「あ、ここ!

 なにかヒントになりませんかね?」

 護衛の一人マッカスが、龍の足元を指差した。

 言われた通り、龍の足元をよく見てみると、足に矢が刺さっている。

 それを見たとたん、トニーの顔が明るくなった。


「怪我……?

 これ怪我してるじゃねーか!

 よく見つけたぞ、マッカス!

 早速周囲を探索して、龍の血の跡がないか探すぞ!」

 マッカスの背中に手をまわし、肩を組んで喜ぶトニー。それに対して、私は嫌そうな顔をしてみせた。


「どんだけ地道な作業を、今からするんですか?

 血の跡を見つけられなかったらどうするつもりです。無駄骨になりますよ」


それを聞いたトニーは固まった。

睨む私に怯み、肩を組むのをやめる。


「うっ、そうは言ってもだな……。

 他に何か方法が見つからねぇことには、草の根作戦するしか道はないわけで……」


 言い淀むトニーに、私は提案した。


「まずはこの矢じりの主に会いませんか?

 私たちと同じ、調査団どうぎょうしゃかもしれませんし」


「それはダメだ!

 調査団どうぎょうしゃだったら取り分減るだろうが!」


「そうだとしても、今のままならなんの情報もなく手詰まりになってしまいます。初期費用コミコミでマイナスになりますよ?

 背に腹は代えられません、手を組みましょう!

 それに相手も調査団どうぎょうしゃだけとは限りません。

 弓矢でドラゴンの足を狙える腕を持った人間が、果たして調査団どうぎょうしゃでいるでしょうか?

 私ならば勇者の一団ではないかと、まずは考えます。

 勇者の一団だったならば、パーティーに加えて協力しあった方が建設的です。

 私たちだって、別に死に急ぎたいわけではないですし、合理的な道を選ぶべきです」


トニーは困ったように首をかく。


「そーは言っても、この矢じりの主がどこにいるか、探すのにも骨が折れるぜ。

 そんでもって、俺らに協力してくれるかどうかも怪しい。

 仮に勇者の一団だったとしても、友好的とは限らないからな。あいつら俺らをハエかなんかだと思ってやがるからな、言うだけ無駄だと思うぞ~」


私はため息をついた。

「へっぴり腰ですね。」

「ああん?」

 トニーは私に凄んだ。マッカスはそれを必死でなだめて止めている。

 私は我関せずと言った感じで、淡々と話し出した。


「このまま草の根作戦で、この広い森の中から龍の血の跡を探すより、私たちをハエかなんかだと思っている腕のたつ人間を探しだして、媚びへつらってでも協力して情報なり、労力なりもらう方が建設的だと言ってるんです。このままだと赤字一直線ですよ!」


「うっ、それを言われるとぐうの音もでない……!」


自分自身を抱き締めるトニー。

私はその場から立ち上がり、握りこぶしを作った。


「マッカスたちの給料も先払いしてるんです。

 何としてでも巣穴を見つけて、手配書を作れるよう算段を取らないといけません。

 赤字はどうにか免れないと!」


 私のこの一言が決め手となり、矢じりの主を探すことに決まった。


「とはいえどうやってこの森の中、矢じりの主を探すんだ?

 ドラゴンの血の跡を探すよりかは楽かもしれねーが、骨が折れる仕事だぞ」


トニーは深いため息をついた。


「それなら簡単な方法があります」

「なんだ!?」


 私を見て目を輝かせ、次を促すトニーに若干引きつつ、私は提案した。


「まずは発想の転換です」


「発想の転換?」


「そうです、トニー。まずは私たちが矢じりの主を探すと言う発想を捨ててください」


 トニーの頭の上に?マークが浮かぶ。


「えっとですね、要するに私たちが探すのではなく、矢じりの主に私たちを見つけてもらう算段を立てるんです」


 トニーとマッカスの頭の上に?マークが浮かんだ。


「どうやってこの森の中、顔も知らない見知らぬ相手を探したいと思うようにさせるんですか? 相手はこっちのこと、認知してませんよね?」


 マッカスが言うことはもっともだ。

 普通ならあり得ない事だけど、私には策があった。


「まずは遠目でもわかるぐらい、大きな爆発をここで起こします」


「な、何いってるんですかM2さん!

 そんなことしたら山火事に……あ。」


 どうやらマッカスは気づいたようだ。


「そう、山火事になるから、近くにいるなら火が大きくなる前に鎮火しに来るはずですよね、普通は。」


「そうか!

 そこで出会った相手と交渉って……おいいいい!

 山火事を意図的に起こすなんて犯罪じゃねーか、M2! 許可できねーぞ!」


 食いぎみにトニーに却下され、私は肩を落とした。しかし提案はする。


「山火事が無理なら、閃光弾でも良いです。

 緊急用の目眩ましに買った閃光弾を、空高くに打ち上げて、矢じりの主の気をひくのはどうでしょう?」


「それだと緊急時に龍の目眩ましができないですけど、いいんですか?」


 マッカスがもっともな意見をのべる。


「緊急時には矢じりの主にお願いして、龍の目元を射てもらえれば良いかと」


 トニーがため息をつく。


「いくらなんでも出来るわけねーだろ、人間にそんな芸当。もっと実現可能な案を出せよ、M2。

 それにまだ矢じりの主が仲間になる保証もねーだろ、却下だ、却下!」


 私は少しムッとしながら、やけくそになった。

「だったら、矢じりの主を囮にして逃げる!」

 トニーが指をならす。

「それだ!」

「それだ! じゃないですよ!

 しっかりしてください、トニーさん!」


 常識人のマッカスは私の予想通り、案を却下しようとした。

 ので、私は先に自分のリュックから閃光弾を取り出すと、それを勢いよく空に放った。


 パァンと大きな音をたてて、空高く白光りする閃光弾。


 その場にいた私以外の人間の目が・になっていた。そして、空を見上げる。


「あっ、目がああ! 目がああ!」


 マッカスとトニーが閃光弾の光で目をやられているなか、私はサングラスをかけ、空を見上げた。

 これほどの閃光ならば、矢じりの主も今ごろ、目がああ!ってなっているだろう。

 後は待つだけである。


「トニー。

 矢じりの主との交渉、よろしくお願いしますね?」


 両手で目を覆い、涙を流しながらもがいているトニーはそれどころではなかったらしい。虚空に向かって叫ぶ。


「これ、絶対交渉、失敗するやつううう!」


 私はその言葉を聞かなかったことにして、一人優雅に水筒の水を飲んだ。


 30分後。目が復活したトニーたちに怒られたのは言うまでもない。


「解せません! どーして怒るんですかぁ!」


「お前はあの目がやられる感じを体験してねぇからそう言えるんだ!

 めっちゃくちゃ目がしぱしぱするんだぞ!

 少しは反省しろ!

 あと、また独断先行しただろ、閃光弾だけに!」


 トニーは私のこめかみに拳を引っ付け、グリグリと動かした。

「いーたーいー! さーむーい!」

 半泣きになる私。

 マッカスに助けを求めたけど、マッカスもトニーと同意見でうんうんと頷くばかりで助けてくれそうにない。


 そんな空気の中、近くの茂みが揺れる。


 なんだろうと目をやると、いかにも勇者です! といった姿の一団が、私たちの目の前に現れた。

 みんな目元が赤く腫れていて、泣いていたのがわかる。

 一団のなかに弓矢を持った人がいるのを確認した私は、彼らに声をかけた。


「もしかしてブリザードドラゴン、追ってますか?」

 私はトニーが一団に気をとられているのをいいことに、するりと猫のように腕の中から抜け出した。


 勇者らしき一団の、リーダーらしき大剣使いが、目を細めて言った。


「そうだが、龍を追いかけている途中に、まばゆい閃光に目がやられてしまった。

 何事かと駆けつけてみたんだが、あの閃光について、何か知っているか?」


 大剣使いが目尻に涙をためて、私に尋ねる。

 目のダメージがまだ残っているみたいだ。


「それなら、モゴゴ」

 私が真実をのべようとすると、マッカスに口を塞がれ阻止された。


「いやあ、すごい閃光でしたね!

 我々も巻き込まれたところで、大変な目に遭いました。

 あなた方、見たところ旅の勇者様とお見受けいたしますが、どうしてこちらへ?」


 マッカスが愛想笑いをしつつ、大剣使いに聞いた。

 私はマッカスの足を踏み、怯んだ隙に彼の手を払い除けると、顔を突きつけて耳元でヒソヒソと話し始めた。


「マッカス、なんで口を塞いだんですか。真実を言った方が、後々後腐れないですよ?」


 同じくマッカスもヒソヒソ声で返す。

「あとで慰謝料とか請求されたらどうするんですか。見たところ勇者っぽいですよ?

 後々こじれる要素があるなら隠蔽した方がいいですって。」


「むう、納得はしてないけど、マッカスの顔をたてて様子見してあげます」


「懸命な判断です。」


 私たちがヒソヒソ話していると、大剣使いが咳払いをした。


「取り込み中悪いが、我々も急いでいる。

 さっきの閃光について、何か知ってることがあれば、教えてくれないか?」


 緊張が走るなか、トニーが一歩、大剣使いの方に歩み寄った。


「閃光について、情報を得てどうする?」


「報復をするつもりだ。目がやられてしぱしぱして辛いからな。慰謝料がわりに何かぶんどってやろうかと思っている」


 意外とアグレッシブな返答を聞いて、私は怯んだ。どうやらマッカスの判断は正しかったようだ。


「それじゃあこっちのうまみがない。世の中、ギブアンドテイクだ。さっきブリザードドラゴンを追ってると言ったが、その情報と閃光についての情報を交換するなら話してもいいぜ?」


「あんたたちもブリザードドラゴンを追っているのか」

 大剣使いは険しい顔をして、トニーに聞いた。

「何者だ。」


「それはこっちのセリフだ。みたところ、俺らギルドお抱えの調査団でもなさそうだし、勇者かなんかの一団か?」


「確かに、俺たちは勇者だ。とあるルートからの依頼で、ブリザードドラゴンの討伐を命じられている。お前たち調査団ハエの出番はない。さっさと帰れ」


 ぞんざいなもの言いにカチンときた私は、つかつかと大剣使いのもとに行き、正面に立つと、仁王立ちになって腕を組んだ。


「私たちは正規ルートで、冒険者ギルドから依頼を受けてここに来ています!

 確かモンスター討伐には、冒険者ギルドから討伐手配書を受け取ってからでしか討伐に向かえなかったはず。

 ブリザードドラゴンの討伐手配書はまだできていないにも関わらず、それを狩ろうというなら、非正規のルートでの潜りの仕事ということになります。

 あなたたちこそ、帰った方がいいのでは?」


「おおー! よく言ったぞ、M2」

 トニーが嬉しそうに拍手をして賛同する。

 私は得意げに、片手をあげてそれに答えた。


 その様子を見て、大剣使いは開き直った。


「確かに我々は、非正規のルートでブリザードドラゴンを追っている。しかしこれも元はといえば、お前たち調査団ハエの仕事が遅いからだ! ドラゴン被害があちこちで起こっているなか、黙って見過ごせないのが勇者の勇者たる所だ!

 わかったなら、さっさとさっきの閃光がなんだったのか、知ってる範囲でいいから教えてもらおうか!」

 カッと目を見開き、啖呵を切る大剣使いに、トニーの目は鋭くなった。

「ーー閃光のことはさておき……いくらつまれた?」

 大剣使いは言葉につまった。そしてあちこちに目を泳がせながら、もごもごと歯切れの悪い返しをする。

「い……いくらでもいいだろう!

 必要経費をもらっただけだ!」

 さりげなく、後ずさる勇者一行。それをトニーは見逃さなかった。


「ーー動いたな!?

 たまーにいるんだよなぁー!

 お金で動く、潜りの自称・・勇者さまがよぉ!」


 大人げなく、にやにやとドヤ顔で論破するトニーに、大剣使いが食い下がる。

「潜りだなんて、そんな……!

 我々は正真正銘、勇者一行だ!

 ただちょっと路銀が足りなくてお金に困っているが、それだけだ!」


「漏れてるぞ~、本音」


「トニー、茶化したら悪いですよ。ほら、もう泣きそうな顔してるじゃないですか、すいません、自称・・勇者さん」


「泣いとらんわ!」

 大剣使いが全力で突っ込んだ。

「目尻に涙が……」

 ハンカチで目尻の涙を拭こうとした私の手を払い除け、大剣使いは吠えた。

「違います~!

 これはさっきの閃光が目にきて、チカチカするから泣いてるんですぅー!」

 悔し紛れに強がる大剣使いに、私は棒読みで返す。


「そうですか。いやー、悪い人も世の中にはいたもんですねー。

 龍用の目眩ましを人に使うなんて、ほんと酷い人がいたもんだー」

「M2さん、どの口がそんなこと言うんですか?」

 マッカスが信じられないといったような目でこちらを見ているけど、気にしない!


「やはりあの閃光は人為的なあれか。

 龍を倒したくない第3勢力的な組織が動いているのかもしれないな……」と、シリアスな雰囲気でつぶやく、大剣使い。

 ごめんなさい、あれ、私なんです! と言えない雰囲気だ。なので、全力でその案に乗っかってみる。


「そうなんです、第3勢力的な組織に私たちもやられてしまって……。龍を見逃しちゃったんです。龍についてなにか知ってることはありませんか!? 

 ーー話してくれたら、違反行為に目をつむりますよ?」


 勇者一行が、ごくりと唾を飲み込んだ。


「俺たちを……脅すつもりか……?」

 大剣使いが、神妙な面持ちで聞いた。

「脅すなんてとんでもない。平和的に交渉しようとしているだけです」

 私はにっこり微笑んだ。

「まあでも断ると言うなら、冒険者ギルドにチクって、違反者通報料もらうだけですけどね……!」

親指をたてて言う私に、勇者一行はうなだれた。



***



 森の中を移動する私たち。先頭を歩いているのは、大剣使いだ。その後ろに勇者一行その仲間が続き、調査団私たちはその後をついていく形で進んでいく。


「俺たちが知ってるのは龍の巣穴だ。

 たまたま運よく居合わせることができてな」

 前を向いて歩きながらも、事の経緯を教えてくれる大剣使い。

「随分とあっさり、案内してくれるもんだなあ。てっきりどこかで抵抗するもんだと思ったんだが」

 私の隣を歩くトニーがぼやくと、それを聞いた大剣使いが振り返る。


「抵抗されたかったのか?」

「そうなんですか?

 トニーがそういう趣味の人だとは思いませんでした。うう……」

 口許を押さえる私に、トニーが反論する。

「違うよばぁか!

 そうじゃなくて、罠くさいっつーか、なんと言うか……」


「信用に足る人物かどうかわからないのに、私たちがノコノコ後をついていっていることについて言ってるのですか?

 確かに、危機管理が足りないかもしれませんね」

 冷静に返す私に、トニーは顔を寄せて耳打ちした。

「だーろー?

 どうする? このまま行っちゃう?

 それとも逃げて、通報だけしちゃう?」

 声を殺して、私もそれに答える。

「なんでそれを私に聞くんですか。

 しっかりしてくださいよ、最年長者なんだから」

「いやー、若人の柔軟な発想と、どこにでも突っ走っていく野生の勘に頼ってみようかと」

 ニタニタ笑いながら揉み手をするトニーに、私は呆れた顔をする。

「無責任が過ぎますよ、保護者さま!」

 そんな私を無視して、トニーは後ろを歩くマッカスに話を振った。


「マッカスはどう思うよ?」

「クロだってわかった時点で、俺たち護衛が首尾よく動きます。とりあえず今は大人しく側を離れない形で、固まって歩いてくれると助かりますね。くれぐれも先行しないように」

私とトニーは声を殺して、親指をたててこう返した。

「ラジャー!」


 そんな私たちをみて、怪訝な視線を送る大剣使い。立ち止まり、聞いてくる。

「さっきから、こそこそ何を話している?」

 私は立ち止まると、大剣使いの方を向き、敬礼をした。

「はいっ! 嘘を言われたら捕縛して、冒険者ギルドに通報してやろうって話してました!」

「ばっか!  M2のばっか!」

慌ててトニーが私の口許を手でふさいだけど、後の祭り。


「ほう、巣穴よりも手合わせ希望か?

 うるさい調査団ハエどもが」

 大剣使いが背負っている大剣の柄に手をやった。


「交戦は希望しません。さっさと巣穴に連れてってください。あなたたちもその方が旨味があるはずです。

 今から調査団私たちを巣穴につれていって、ほんの3日間待つだけで、正規の手配書の作成が終わって、掲示板に張り出されるわけですから。張り出された直後に仕事を請け負えば、潜りの仕事とはならず、正規の仕事としてお金を二重取りできます。お互いにウィンウィンです。

 それとも私たちに通報されて、半年間冒険者ギルドの免許を停止させられる方がいいですか?」


「くっ……小娘がベラベラと。

 龍に食われてしまえばいいのに……」


「あっ、今の発言は問題発言ですよ。

 Sランク冒険者である勇者さまが言っていい発言じゃないです。新聞記者にネタ売りますよ?」

「ああ言えばこういう!」

 震える大剣使いの肩に、無言で手を置く弓使い。静かに首をふっている。やつれた顔で大剣使いが進行方向を指差した。


「巣穴はこの先にある、崖の上だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

④モンスター討伐手配書を作成する、簡単なお仕事です! だんち。 @danti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ