第7話 助手「激動の1日だったっす」
博士と助手が楽しく異世界について語り合っていた同時刻、酒場ではモンド達のパーティーが酒を呑んでテーブルを囲んでいた。
「今日もおつかれー!カンパーイ!」
「「カンパーイ!」」
酒を掲げてジョッキをぶつけて乾杯するモンド達。グビグビと一気飲みしたモンドがプハーッ!と一息つく。
「おかわり!」
「モンド飛ばすねー」
「今日は人助けをしたんだ、こんな善行を積んだんなら飲み過ぎてもバチは当たらんだろ!ガーッハッハッハ!」
「お前の善行のせいで今ディルが残業してるけどな……」
横で酒をちびちび飲みながら、もう1人の男である大盾を持っていた者が嘆く。モンドは彼と肩を組んでそう固いこと言うんじゃねぇよ!と言いながら、彼の持っていた半分ほど酒が残ったジョッキに自分のジョッキから酒を移す。
「おい、汚いぞモンド」
「そう言うなよマックス!俺の酒が飲めねえってのかぁ?」
「お前の酒は飲めるけどお前の口をつけた酒は飲みたくねえってだけだよ……ったく」
マックスと呼ばれた大盾を持っていた男がため息をつく。ジョッキを空けねえと新しい酒頼めねえじゃねえか……と注がれた酒をまたちびちびと飲み始めていた。
「一緒に居たジョシュ?って子、可愛かったねぇ~!」
「服も可愛かった。多分、平民とか言ってたけど貴族」
女の子二人はそんな男同士の会話には一切目もくれず、助手のことで盛り上がっていた。彼らのパーティーは、必然的に博士達が何者なのかという話題になる。
「結局あいつらって何なんだ?」
「背中から煙噴いてた男が、なんか異世界から来たーみたいな話をしていたが」
「もしかして、勇者様なのでしょうか!?」
「『異界より勇者、世界の危機と共に現れる』……500年前の史実」
「いやー、流石にワイルドボア1体で死にかけてるような奴らだぜ?勇者にしちゃ弱すぎる」
「じゃあ、やっぱり貴族?」
貴族だったら謝礼の一つでも貰えたら良いなぁ……と言いながら酒を飲んでいると、入口からディルが疲れた顔をして入ってきた。
「おーい!こっちだディルー!」
「モンド……てめぇなんてめんどくせえもん連れてきてやがるんだてめぇ!」
「ど、どうしたよディル……」
ドカッとテーブルの空いた椅子に座ったディルがマックスの飲んでいた酒を奪い取って一気にあおる。マックスは悲しそうな目で空になったジョッキを眺めていた。
「プハーッ!ったくよぉ……二人とも身分証はねえし、男の方に至っては自分で動けないからロープで引きずって牢屋に入れたんだが重いのなんの!今日はもう遅いから領主様に先に手紙だけ書いといてから明日直接お伺いだよ全く!お前にゃ分かるか?明日の仕事が既に確定してる俺の気持ちが!」
「お、おう……取りあえず飲め?な?明日の活力のために酒を入れるんだディル!」
「くそう!今日はもう飲む!こんな面倒い案件持ってきやがったモンドに全部払ってもらうからな!」
「お、おい!そりゃあ無いだろう!?」
「ありがとうモンド」
「ありがとうございますモンドさん!」
「モンド、感謝」
「お前らも!?」
勘弁してくれよぉ……と嘆くモンドを見て笑うみんな。サルバドの夜はこうして更けていくのであった。
さて、そんな話題の中心である博士と助手はというと。
「博士ー、そろそろ動けるようにはならないんすかー?」
「せめて博士から降りてから言ってくれない助手?まあ良いか……博士のターボって地球じゃ滅多に使わなかったから、排熱関係の改良サボってたんだよねぇ~」
「つまり博士の怠慢のせいで、今私の椅子になってるという事っすね」
「うっ……!そう言われると言い返せない!」
相変わらず助手の椅子になっていた博士。夜の牢屋の床は冷たく、背中に付けられたターボエンジンの排熱の役に立ってはいるが、それはそれとして
「取りあえず明日までには動けるっすよね?結局今日は牢屋で寝るしかなさそうっすし、さっさと動けるようになってくださいっす」
「後24分41秒で動けるんだからな!?博士が動けるようになったら絶対に『博士凄いっす!』って言われるような偉業を見せてやるからな!」
「カバン取られて風呂も入れず汚い場所で眠るはめになった時点で、私の博士に対する心証は最悪っすよ?」
「がはぁっ!」
女の子ってー、身体を綺麗にすることがー、命の次に大事なことなんすけどー?とゲシゲシ床に転がっている博士を蹴る助手。もはや扱いにリスペクトを感じられない。
じゃあ、先に寝るっすねー、と博士のロープも外さずに備え付けの藁ベッドに寝転がる助手。博士はこれ以上何を言っても助手の機嫌を損ねると判断し、床に転がったまま待機状態に移行した。
静かになる牢屋の中、暇な博士はさきほど食べた黒パンの成分を分析する。
(カロリーは272キロカロリー、タンパク質は2.26グラム……うーん、地球上に存在する黒パンと同じだね。ライ麦自体に何か変な所は無いってこと?いや、そんなはずはない)
博士は巨大なイノシシを思い出して考えを改め直す。ライ麦が地球上と同じものだった場合、農作物は基本的に全て、地球上と同じものであると考えられる。その時、土壌や空気といったものも全て地球基準であれば……生物学上、巨大なイノシシは存在できないのだ。
(巨大な生物が生き残る為に必要なカロリーは相当なものだ。あの森の規模だと、すぐに食べるものが無くなって絶滅するだろう……だから、生きて強大な力を持つようになった理由があるはず)
博士の搭載されていた成分分析装置では見つからない成分が、この世界には存在していると『ライ麦から地球上と同じ成分しか出なかった』ことで確信する博士。それが何なのかは分からない、だがその未知である異世界の物質に博士の血が騒ぐ。
「ふ、ふふふふふ……」
「うーん……博士ぇ、キモいっすぅ……」
「夢でも博士を罵倒してるんだね助手……」
博士は静かに泣いた。
ヨサクの異世界研究日誌(自重はするが、出来てるとは言ってない) 夏歌 沙流 @saru0
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ヨサクの異世界研究日誌(自重はするが、出来てるとは言ってない)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます