第6話 博士「博士、満身創痍なんですけど」
「見えてきたぞ。あれがサルバドの街だ」
リーダーである大剣の男が指さしながら博士の方を向く。
「あれが……!」
博士が目を輝かせながら街を見る。その瞬間、博士が膝から崩れ落ちた。みんなが慌てて博士に近寄る。
「おい!大丈夫か!?」
「うん、大丈夫だよ。おそらく損傷率が30%を超えたから活動限界のタイムリミットだと思う」
「何言ってんのかわかんねえ!」
博士自身、こんなに損傷したのは久しぶりすぎて焦っていたのはあるが、街についた安心もあるのか気張っていた緊張の糸が切れたのだ。
博士がうっかり日本語で答えてしまい、言語が理解できなかった大剣の男に助手が片言の言語で博士の代わりに答えた。
「あ~……カレ、ハラヘル、コウナル」
「お腹空くとこうなっちゃうんですか!?」
「助手?嘘つくの止めて?」
地面に倒れた博士の説明がだるかったのかお腹が空いたことにする助手。白いローブの女の子が信じてしまい博士が助手に恨みがましく顔を向けるが、助手は知らんぷりしながら博士から距離を取る。
「パンツ見えるからこっち見ないでくれるっすか?」
「そのネタ擦りすぎだよ助手!?」
「ネタも何も、女の子にとっては
「もう……頼むから博士を担いでくれよ。博士の足側から行けばスカートの中見えないでしょ」
博士重いんだから、と助手に懇願する博士にため息をついて彼女は両足を持って歩き始めた。
「あだだだだだっ!助手!?引きずってるから!あなたの上司の後頭部がガリガリ地面掘っちゃってるからあああ!」
「イク、マチ」
「お、おう……大丈夫か、こいつ?」
「ダイジョウブ、ナイ」
「ダイジョウブ」
「ダイジョウブ、ナイ!」
助けてくれえええ……と情けない声を上げてずるずる引きずられる博士。ダイジョウブ、ナイ!と片言で周りに助けを求めるも助手に引きずられてサルバドの街に誘拐されていく姿を、4人は見ることしか出来なかったのであった。
「おう、モンド!!いつもより遅ぇから、ついにくたばったかと思ったぜ!」
「ディル……俺はそんな
サルバドの街に入ると、すぐに衛兵の姿をした男が肩を組みつつ大剣の男に話しかける。モンドと呼ばれた彼は衛兵に苦笑いをしながらもそう返した。
「ところでモンド……あれ、なんだ?」
「あー……迷子?」
体から白い煙を上げて引きずられる博士と、引きずりながらモンドのパーティーの女の子達と楽しくお喋りをしている助手を指さしてディルはモンドにそう問いかける。若干疑問符を付けながらモンドはディルに博士が遭難者であることを言った。
「いや迷子って……」
「魔物に襲われていたから助けたんだが……」
「あの引きずられている男、最初からあんな感じだったのか?」
「……なんか引きずられている今の方が更にボロボロになっている気がするな」
土埃で汚くなりながら最早助けてもらおうとしていることを諦めたのか普通に引きずられながら物珍しそうに周りを見ている白衣の男を見て、モンドとディルは同時にため息をついたのであった。
「あー、とりあえず何はともあれ身分の確認だなぁ……今日の仕事は終わりかと思ったのに残業だぜチクショウ」
「まあそう腐るんじゃねえよディル。終わったらいつもんとこな、あいつらのことも聞きてえし」
そういって助手と博士をディルに引き渡し、4人はサルバドの大通りへと歩いていく。
「アリガトウ!」
「タスカッタ」
助手と博士は(1人引きずられたままだが)頭を下げてモンド達にお礼を言ってからディルによって兵舎へと案内されたのであった。
「はい博士。質問っす」
「いいよ助手」
「なんで私たち、牢屋に入れられてるんすか?」
「まあ、身分証も無ければ言葉も通じない博士達を野放しには出来ないからだろうねえ」
そう、博士と助手は兵舎の地下にある牢屋へ入れられていた。……何故か博士だけ厳重に縄でグルグル巻きにされて。
「なんで博士だけそんな厳重に縛られてるんすか」
「ほら……博士重いから」
「あー、そうでもしないと運べなかったんすね」
「そゆことー」
そゆことーじゃないっすよ……と助手がため息をついてグルグル巻きにされている博士を椅子にして座る。皮肉にも、冷たい牢屋の中では博士の体から出る排気熱は暖房の役割を果たしていた。
「まあ、色々心配事はあるっすけど……やっと落ち着いてこの世界について整理出来ると考えれば悪く無いっすね」
「博士ナチュラルに椅子にしないで?一応君の上司よ博士」
「動けないんだからせめて椅子として役立って下さいっす」
「ぴえん」
「若者言葉使ったところでJKになれないっすよ」
「体が欠損した今ならJKに改造することも可能では……?」
「いやっすよ?明日目が覚めたら博士がいきなりJKになってるの。どうやって接すれば良いんすか」
あーだこーだ牢の中で二人が言い合ってると、ディルと先ほど呼ばれていた衛兵が食事を持ってやってきた。
「あー……飯、やる。食え」
「アリガトウ」
「一応身分証作ればここから解放出来るんだが……金もねえし言葉も通じないからなぁ。領主様にお
ブツブツ独り言言いながら牢から出て行くディル。そんな独り言を尻目に博士達は渡された食事を見る。
「固い黒パンに水っすか……」
「流石に牢屋に入ってる人に食わせる物は、地球基準で考えちゃダメだね」
「さすがに地球レベルの物を求めたらそれこそ贅沢ってもんっすよね」
「ま、これも現地調査の一貫と考えれば良いさ。というわけで助手」
食べさせて、と滅茶苦茶ハートが付きそうなぐらい甘えた声で博士が助手におねだりする。なんなら上目使いもセットだ。まあ、椅子にされてるから助手の方見るときは必然的にそうなるのだが。
助手はそんな博士をゴミを見るような目で見下しながら無言で黒パンをかじる。
「ねぇそんなゴミを見るような目で博士を見ないで!?」
「喋るゴミがなんか言ってるっすね」
「この子博士のことゴミって言ったよ!?目だけならまだしも直接ゴミって!?」
「ふむ……ライ麦を天然発酵させる前に水と混ぜて焼いたって感じっすか。黒パンというより、最早クッキーに近いっすねこれ。この世界には天然酵母であるサワー種がないのか、それとも発酵方法が地球と違って特殊な方法が必要なのか……そんなところっすかね」
「しまいには無視!?あともう一個可能性としては菌という概念が浸透してない文化圏かって感じじゃない?」
なんだかんだ言って博士の血が騒ぐのか助手と様々な意見を交わす。まあ、椅子になったままだが。
食事の質、大気、先ほど経験した『魔物』という存在の脅威。研究者として興味は尽きない。二人は夜が更けるまで牢屋の中で楽しく意見を交えるのであった……
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