祭りも喧嘩も大きく括ればどちらも大騒ぎ

 文披ふみひらき穂が実り月になると、暑さは先月よりも強くなった。

 しかし、国民はみんな、暑さに負けることなく、むしろその暑ささえ楽しむように、血湧き肉躍るような行動力に溢れ、笑顔に満ちている。

 なぜなら、この季節は国民が楽しみにしている祭りの季節だからだ。

 大国でも毎週のように宴や祭りがひらかれ、大人も子供も男も女も例外なく楽しむ月なのだ。

 今日は、そのたくさんの祭りの中でも、一番に大きく有名な祭りの日。

 今日ばかりは、庶民も貴族も無礼講。

 隣にいる人間の身分など関係なく酒をともに呑み、ともにやぐらや舞台で舞踊り、ともに神が御座おわすという車を担ぐ。

 いつもより盛大に飾り付けられ、大国のどこもかしこもが賑やかな街、エスとエムは、その中でも一際ひときわ賑やかな通りを歩いている。


「わぁー!エム!今年も盛況だねぇ!去年はここにイカ焼きの露店があったよね!今年は違う場所に出てるのかなぁ?ねぇ!ねぇ!あっちにはステーキ串もあるよ!これは絶対食べなきゃ損だよね!」


「はぁ……ただでさえどこもかしこも喧しいのに、何故なにゆえ、中でも一等いっとう喧しいお前のおりをしなきゃならんのだ……?」


 エスとエムは、賑やかな通りを歩いている、否、エムがいつものように、エスに引っ張り回されているのだ。

 この光景は城や城近くの街では度々見られる、特にこの祭りの日には、もはや恒例の風景だ。

 風物詩と言っても過言ではないほどに。


「ねぇねぇ、エム!この間、一緒に買った服さぁ」


「一緒に買った?俺が買い与えてやったのだから、エムに買い与えてもらったの間違いだろう?」


「この服、着心地抜群だね!」


「当たり前だ。お前なんか逆さになっても買えないほどの一級品だぞ。汚すなよ」


「あ!あっちにかき氷あるよ!」


「絶対こぼすだろ!お前!」


 はしゃぐエスに腕を引っ張られ、エムが至極面倒くさそうに歩き出した時。


 トントン……。


 背後から指先で小さく肩を叩かれ、エムは思わず振り返った。


「お前っ……!」


 小さく漏れるように呟いたエムの声を耳にした瞬間、エスは素早い動きで振り返り、エムの前に立つ。

 目の前にいたのは。


「ラスト……!」


 立ちはだかるようにエムの前に立ったエスの目の前にいた人影が、少し前に酒を交わした見知った人物であるとわかり、彼は表情を緩めた。


「久しぶり。お祭りだからまた来たよ」


「……なぁんだ、ラストかぁ!久しぶり!まったくエムが、お前っ……!!とか言うから何事かと思って、びっくりしたよ」


「ふふふ、相変わらず二人は仲良しだね」


「お前はまた迷子か?」


「……よくわかったね」


「……本気で言ってるのか?この間、案内してやったばかりだろう?」


「お祭りで、風景が全然違うから……」


 ラストの素直な言葉に項垂れるエムと、とても共感できると頷きながら納得するエス。

 エスとエムは、また迷子になっているラストを連れて、祭りで賑わう街を案内しつつ、お祭りを楽しむことにした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る