第22話 【エルザ視点】エルザの覚悟


ガチャりとエルザが待機する部屋に入るセイレーン。

そのままエルザに声をかけた。


「エルザ。行こう。魔王を討ち取りに」

「あぁ。ヒルダの奪還も兼ねる」


エルザは誓っていた。

魔王軍になんて負けないことを。

この日のために特訓してきた。


「全てはヒルダのために……。我々は修行してきたのだ」


そう言って新たな剣を取り立ち上がる彼女。

勇者の装備をファランに取られた彼女は武具屋で2番手の装備を買った。

しかし、それがより彼女の心を引き締めさせた。


2番手の装備しか使えないのならば己が強くなるしかない、装備には頼れない、と認識することでより自己研鑽ができた。

つまり強くなったのだ前よりも。


「私があの時しっかりと見張っていればあの子はヒルダは汚れなかった。心を魔王軍になんて落とさなかった」


そう言って剣を杖代わりにして立ち上がるエルザ。

エルザは知っていた。常々ファランがエロい目で聖女を見ていたことを。


しかしあの男は何も出来ない小心者の童帝だと決めつけていたことで起きた不幸だった。


「ファランを殺す。魔王軍を殺す。そしてあの子を奪還するのだ」

「行きましょうエルザ」


その姿にセイレーンは心を打たれ片膝を着いて我らの勇者パーティの勇者の出陣を見送る。


「ファランを殺りにいく。そしてこの戦いに終止符を」


覚悟を決めたエルザは強かった。

初めは優勢だった魔王軍を1人で鬼神のように動いて蹴散らしていく。


「皆の者!怯むな!我々にはクリスタルの加護がある!!!臆するな!!突撃せよ!!!」

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


エルザの声を皮切りに突撃を始める兵士達。

勇者の一声だけで戦況は大きく変わる。


「目指すは魔王討伐のみ!行くぞぉぉぉ!!!!」

「い、行かせません!!こ、ここで私が止めます!!!」


そうして立ちはだかるのはルゼルだった。

ルゼルはモンスター達を向かわせたが


「遅い!」


エルザに全てなぎ払われた。


「ひ、ひぃぃぃぃ!!!!」


逃げるルゼルを追いかけるエルザ。

2人の走力の差は圧倒的にエルザに分があった。


「死ね、魔王軍のクズが」


首を跳ね飛ばすラインで横に剣を振ろうとしたエルザ。

だったが


「し、瞬間移動!ファランさん助けてください!」


魔王軍のみが使える瞬間移動で消えるルゼル。

ブン!!!

エルザの剣は宙を切った。


「ちっ、逃げられたか。まぁいい。四天王などという連中も大したことないことが分かった」


そう呟いたところでまた先陣を切ろうとしたエルザを止めるのはカイラだった。


「あの子は四天王最弱だ。ここは私が通さんよ」


エルザはカイラに目をやった。

その瞬間には


「絶対零度」


カイラのフィールド魔法が既に発動していた。

フィールドをカイラが凍てついた場所に変える。

だが、


「火炎!」


エルザの放った火炎魔法でフィールドを包んでいた魔法はかき消される。

そして数時間後。


「がっ!!!」


エルザの力によってカイラが吹き飛ばされた。

数時間、この2人は戦闘を続けていたのだが。


「終わりだ。四天王カイラ」


そうやってカイラに近付いてこようとしたエルザ。

その時だった。


天空を覆う白い影。

それは


「あ、あれは……ファランの……」


その時ファランの援護射せ……援護射撃が飛んできていた。


「勇者。また会おう」


そう言ってカイラは瞬間移動で姿を消した。

残されたのは人間軍のみ。


その人間軍を襲うのはファランの援護射撃。

ドピュっ!!と白い塊から無数に飛んでくる射撃。


「みんな避けろ!岩があればそれに隠れるんだ!何も無ければモンスターの死体でも盾にしろ!」


エルザはと言うと飛んでくる弾丸を全て叩ききっていた。

これが彼女の修行の成果。


「ふぁ、ファランなんかには負けないんだからな……」


あの時のトラウマが蘇り足をブルブルと震わせながらも誓った彼女の覚悟。


だったのだが一般の兵士にそんな大それたことができる訳もなく。


「がはっ!」

「きゃぁぁぁ!!!!」


女の兵士だけが綺麗に弾丸で撃ち抜かれていく。

彼女も先程から気になっていた。


自分たち女の方にばかり弾丸が飛んでくることを。

男の周りには全然飛んでいかないことを。


そんな中に1人アサシンの回避が得意な女の子がずっと避けているのが見えたが。


「ま、曲がった……がはぁ!」


ダァン!と弾丸に腹部を撃ち抜かれるし


「ひ、ひぃぃぃぃ!!!!」


岩陰というかあの白い塊の下にある石の祠に隠れていた女の子ですら


「ごほっ!」


あの弾丸はそんな場所を見つけ出して有り得ない曲がり方をしながら攻撃していた。


「まさか!自動で我々を追尾しているのか!あの弾丸は!」


それだとしたら隠れても裂けてもいずれ追いつかれる。

ならば


「女は撤退しろ!あの弾丸は危険だ!男はどちらでも構わない!!」


エルザの撤退指示を受け人間側は即座に撤退を始めたが。

そこに続く2回目の援護射撃。


「はっ!どうせ女しか狙わないんだろあれ……!」


そう言った男の脳天は弾丸に貫かれバタリと倒れる。

今までのものとは変わってこれは


「何かで身を守れ!」


エルザが叫んだが


「あぐっ!」


エルザの周りには何も無かった。

今までのようにあの弾丸を斬り続けて耐えるしかない。


ピュンピュンと飛んでくる弾丸を切り落とし続けるエルザ。

やがて射撃は数十分も続き


「はぁ……はぁ……」


最後に立っていたのは全身傷だらけのエルザとセイレーンだけという状況だった。


最初の一発目のオートエイム弾で腹を貫かれた女は戦闘不能になり2回目の無差別射撃で男が全滅した。


「ふぁ、ファラン……なんという男だ。これだけで戦況を大きく変えてしまうなど」

「エルザ。撤退しよう」


セイレーンの言葉に頷くエルザ。


「それしかないようだな。今の数十分の戦闘でこちらが圧倒的に人数不利になった」


チンスタンティヌスが命をかけて放った最後の砲弾はこうして甚大な被害を人間に及ぼしていたのだった。


数字で表すならば元々いた戦闘可能な人間の数をあの2発で1/10まで減らすことが出来たという。


後にこの戦いは【メスマン帝国の陥落】と呼ばれることになるのをこの時誰も知らなかった。


そしてあの大きく戦況を変えた最後の一撃は【チンバン砲】と呼ばれることになるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る