第21話 さようなら。僕たちの大英雄

数日が過ぎた。

俺は相変わらずヒルダで遊んでいるが、魔王達から一向に人間軍陥落の知らせがない。


俺はそんな中新たなアイドルグループTKB72を立ち上げていた。

今日も彼女達の厳しい教育を終えてミーナを汚しサキュバスを孕ませていた頃だった。


突如遠くから激しい爆発音が聞こえた。


「なんだよ」


俺はダンジョンの外に出て上空から音の出る方向を見ると、魔王軍と人間達が本格的に戦っていた。

どうやら戦争が始まったらしい。


どちらかが倒れるまで終わらない戦争が。

それをイグノアを汚しながら見守る。


「おいおい、どうするんだよ。なんか始まってるぞ」

「き、貴様らがぁ……始めたのだろうがぁ……」

「綺麗なさくらんぼ美味しそうだなぁ」


さくらんぼをちゅぱちゅぱ舐める。


「っ!!」


力が抜けたように倒れるイグノアの背中に座る。

すっかり悪者みたいになってしまった俺。


たまに賢者モードに入ることがある。

王都に残してきたエルザちゃんが心配だな。


俺の予定ではそろそろ俺のペットになっている予定だったのだが、回収するのを忘れていた。


「なぁエルザって何処にいるんだよ」

「エルザならずっと部屋に閉じこもってるさ。今わかった。お前のせいであぁなったんだろうなって」


話を聞くと禁断症状みたいなのが出ているらしい。

やべぇな中毒性。


なんてことを思う。

ちなみにそもそもの争いの発端はクリスタルだ。

人間軍にとっては恵そのものだが。魔王軍にとってのあれは毒となる。


だから魔王軍は何がなんでもあれを破壊しようとしているらしい。

人間の俺にとってはあれが毒とかってよく分からないけど。


なんて事を話していたら


「くっ!」


ルゼルが瞬間移動してきた。

久しぶりに見たなこの子。


「た、大変です。ファランさん」


彼女が口を開く。


「ま、魔王軍が押し負けています」


えぇ……?

無能すぎない?

イグノアをやれって言われたから排除したのにまだ押し負けてんの?


「わ、私は四天王最弱なので最初に兵を失って脱落してしまいました」


そう言って俺に近寄ってくるルゼル。

先程から気になっていたけど既に身体中ボロボロだ。


この子まだレベル30とかだからなぁ、カイラやシエスタは60台なのに30もレベル差あるしなぁ。


トキノは努力家なのもあって70あるけと。

でも、あの3人いてまだ押し負ける?とも思うが。


「ゆ、勇者のえ、エルザが鬼神のように暴れ回っているのです」


俺の疑問に答えてくれるルゼル。

どうやらエルザが覚醒したようだな。


要らないけどそんな覚醒イベント。


「そ、その上人間の数が多すぎて、処理が追いつかないのです」


そういえば思い出したな。

ゲームでも雑魚の数が多すぎてボス戦よりもきつい、みたいな展開。


仕方ない。


「俺が援護射せ……援護射撃を行う。対象は殆どが女になるだろうがないよりはマシだろう」


そう言って俺はヒルダとか何人かの女を連れてこの近くで1番高いダンジョンの屋上へとあがった。

ボロン。


俺は大砲を取り出す。

俺のマグナムはアサルトライフルになったり大砲になったりするスグレモノだ。

これ一丁で何にだって対応出来る。


「この場面で何を出している」


イグノアが軽蔑するような目で見てくるが


「おいおい、お前を虜にした俺のガトリング砲を舐めてもらっちゃ困るな」


はっはっはと笑って魔法を唱える。


「巨大化、巨大化、巨大化、巨大化、巨大化」


俺は巨大化の魔法を使いマグナムを巨大化していく。


やがて、俺のマグナムだったものは。

ズゥゥゥンと1メートルを優に超える巨大な大砲になる。


「な、何をふざけておるのだお前は」


イグノアが聞いてきたがお構い無しに続ける。


「くっ!」


俺一人の手じゃ引き金を引けなかった。

感度が足りていないようだが、感度を上げる分に回す魔力はもうない。


何よりおそらくそれに回した瞬間俺は大砲を維持出来なくなる。

それにこの後オートエイムと弾丸強化に魔法を使う必要がある。無駄なことに魔法は使えない。


ふっ。こういうこともあろうかとルゼル達を連れてきていてよかった。


「お前らも引き金を引け!優しくな!」

「「「はい!」」」


ルゼルとヒルダ、それからミーナが俺の大砲に手を添える。


「わ、私は反逆など……できない……」


イグノアは言い淀む。

しかしその手は俺の大砲に伸びようとしていた。


「く、くそ……こ、こんなもの!触りたくない……のに」


体は正直なようだ。

俺の大砲に手を伸ばそうとしている。


「みんな大砲は持ったな!!イくぞォォォォォ!!!!」


ビュゥゥゥゥゥン!!!!!

みんなの力によって俺の……いや、俺たちの大砲は火を噴いた。

ビュルルルルルルルル!!!!!!


情けない音を垂れ流しながら俺の弾丸は飛んでいく。

発射する瞬間にいつもの様に弾丸強化の魔法を使っている。


そして敵陣の真上まで砲弾が移動した時、巨大なウォーターボールの中から小さな弾丸が飛び出ていく。


オートエイムだ。

後は勝手に始末してくれるだろう。


「メスブタァ!ヒールしろ!もう1発かましとくぞ!!!」

「はい!ご主人様!」


実はと言うと一発目でかなり痛いと相棒が叫んでいた。

次放てば相棒チンスタンティヌスはその生涯を終えるかもしれない。

だが俺に出来ることはこれしかないんだ!!


それに一発目は女しか狙えない。

男の方も少しは削っておきたいからな。


「楽しかったぜ相棒」


俺はそうやって相棒に声をかけてやる。


「こっちもだよファラン。また会えたなら1杯付き合えよ」


脳内に住む妖精である相棒チンスタンティヌスの声が脳内に響く。

俺はそんな相棒と約束して


ドォォォォォォォォォン!!!!!!!

と相棒を犠牲に渾身の一撃を戦地に送り込む。


ブシャッ!

相棒から血が吹き出す。

バタリと後ろに倒れる俺。

それと同時に俺の大砲は消えた。


「そ、そんな!チンスタンティヌス様が!!!」


そんな俺ではなく相棒を心配してみんなが相棒にヒールをかけ始めた。


「た、倒れないでください!チンスタンティヌス様!」


イグノアまでもが俺の相棒に声をかける。


「暴帝チンスタンティヌス……憎いやつだったが、お前は私の記憶に残ってこれから消えないだろう」


ルゼルが聞いてくる。


「し、しかし何故チンスタンティヌス様が犠牲に?!」


それに応えたのは俺でなくヒルダだった。


「通常サイズのマグナムですら発射時には管に負担がかかると言います。今の大砲は大きさが何百倍にもなっていてその弾薬の量も同じくです」


つまりと続ける彼女。

その目からは涙が溢れる。


それはそうだ。

俺とチンスタンティヌスをこの世で最も愛したのはヒルダだったのだから。


「今の2発は通常の何百倍もの負担で放たれたのです。命と引き換えに放たれた最期の弾丸だったのです」


ヒルダの解説が終わりルゼルも泣き出した。


「暴帝が崩御し性都チンスタンティノープルの陥落が始まるのですね」


みんな俺の相棒の死を悼んでくれていた。

そしてルゼルは俺の相棒の亡骸を包帯で包み隠す。


「チンスタンティヌス様。あなたのくれた笑顔や優しさ、快楽を私は忘れません」


ルゼルがそう言うとヒルダも口を開く。


「ご主人様。私はチンスタンティヌス様をこんな目に遭わせた人間を許しません」


俺たちもその人間だけどな。

そう思っていたら続けるヒルダ。


「暴帝様の仇を討ちましょう。私たちが!この戦いを終わらせるのです!人間たちに自分たちの罪深さを認識させるのです!全ては私たちを愛してくれた暴帝様のために!」


後から知ったことだが。俺の相棒が命と引き換えに放ったこの一撃は戦果を大きく分ける一因となっていた。

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