第6話 質問

「あなたと、あのおじさんは何者ですか?」


「そういえば、まだ私たちの名前すら紹介してなかったな。私は鬼塚おにづか勇治ゆうじ。そして、あのじいさんが木暮こぐれ銀蔵ぎんぞうだ。私たちは世界の平和を守るため戦っている」


「世界の平和を守るため……」


「ふっ。改めて聞くとなんて青臭い言葉だろうな」


「いや、素敵な言葉です! 少なくとも俺はそう思います」


「そうか。ところで、君たちのことについても少し聞かせてもらえないか?」


「はい。俺は火燈ひとぼし竜晴りゅうせいで、彼女は雫草しずくさ玲奈れなって言います」


「なるほど。ちなみに君たちは……どういう関係なんだ?」


「クラスメイトで友達です。同じ中学に通っていたこともあり、いつの間にかよく喋るようになってました」


「ふむ、よくわかった。さて、竜晴。他に聞いておきたいことはあるか?」


 ひとまず彼らの名前などを知ることができた。となれば次に聞くべきは……。


「あの宝玉について教えて下さい」


「いいだろう。まず、実際にはあの宝玉は『ライオブカラム』と呼ばれている」


「ライオブカラム……」


「どうやら『ライ・・オットオブ・・カラ・・ー』と『ジェ』を掛け合わせて出来た言葉のようだ」


「ライオットオブカラー? ジェム? 何が何やら、です」


「そうか。はじめに、ライオットオブカラーは、多彩な色という意味の言葉だ」


「なるほど」


「そして、ジェムは宝玉という意味だ」


「つまり、多彩な色の宝玉ってことですか?」


「その通りだ。例えば、君に授けたライオブカラムは赤色だったが、私のライオブカラムは灰色のような色をしている」


「そうなんですね」


「さて、宝玉についてはひとまずこのくらいだ。他に聞いておきたいことはあるか?」


 他に聞きたいこと……。もちろんある。


「鬼塚さんが音楽室で戦っていた、あの魔物は何ですか?」


「あれはゴブリンだ」


「やっぱり、ゴブリンなんですね」


「そして、奴は私たちが戦うべき相手の1種に過ぎない」


「ということは、他にも敵がいるということですか?」


「ああ。ゴブリン以外にも植物のような魔物や、人魂みたいな魔物など、様々な種類の魔物が存在する」


「なるほど。でも、どうして魔物がこの世界にいるんですか?」


「ふむ。それについてはまた後で話すとして、ひとまず別の質問に移ろう。ただ、そろそろ話し疲れてきたので、次で最後だ。何か聞きたいことはあるか?」


 次が最後の質問か。聞くべきことといえば……。


「戦いの時に持っていたあの剣は何ですか? 戦いが終わった後に消えていきましたけど」


「あれは、ライオブカラムの力の1つだ。それぞれのライオブカラムは固有の武器を宿主に授け、宿主はその武器を自在に出し入れすることができる。ただし、すべてのライオブカラムがそうとは限らない。武器を授けないものもある」


「ということは、武器を授けないタイプのライオブカラムは、その身に宿しても意味がないってことですか?」


「そうでもない。ライオブカラムには他にも力がある。特殊な能力を宿主に授けるという力だ」


「特殊な能力! それって、目からビームを出したり、全身から電気を発生させたりとかですか!?」


「ま、まあ、そんな感じだ。後は、肉体が強化され敵の攻撃にひるみにくくなったり、治癒力が向上し傷の治りを早くなったり、そういう能力を授かる場合もある」


「面白い力ですね!」


「嬉しそうでなによりだ。――さて、質問はここまでだ」


「色々と説明ありがとうございました。少し理解が進みました」


「それはよかった。では、一通り説明が終わったところで早速実戦といこう。話を聞いただけでは知識は身につかないからな」


「えっ? どういうことですか?」


「つまり、これから君に魔物と戦ってもらう」


「……」


 予想外の展開に身体と思考が停止する。


「おい。大丈夫か?」


「……」


「どうやらフリーズしてしまったようだな。……やれやれ、あのときの情熱はどこへいってしまったのだ」


「――ぷはぁ! げほげほ」


「む、動いたぞ」


「これから戦うだって!? 急すぎますよ! まだ心の準備が――」


「なに呑気なこと言っている。さっさとくぞ! 覚悟はモーメント。一瞬は一生の価値だ」


「そっちこそ何言ってるんですか! 意味ありげなこと言って、丸め込もうとしてるでしょ!」


 言葉の勢いとは裏腹に、俺の身体はソファーに根が生えたようにくっついて動かない。


「ふっ。まあ、そう言うな。さあ、さあ……」


 鬼塚さんは「さあ、さあ、さあ」と言葉を繰り返して俺の隣までやってくると、俺をソファーから引き剥がし肩に担いだ。


 俺の身体は、くの字に曲がり、目の前に彼のごつい背中が迫る。


「うわぁー、乱暴者ー!」


 肩の上でジタバタとしてみるが、まるで意味がなかった。鬼塚さんは平然とした様子でカフェの出口へと向かっていった。


「じいさん。少し行ってくる」


「ああ、気をつけてな」


「あっ、竜晴くん、出かけるんだね。いってらっしゃーい」と玲奈の呑気な声が聞こえる。


 俺が担がれているこの状況に対する驚きとか疑問はないのか?


 そう思いはしたものの、発言する気力はすでになく、地面に対して平行になるくらいまで腕を上げて返事をするのが俺の精一杯だった。


「よし、行くぞ」


 鬼塚さんは俺を担いだまま店を出て、走り出した。


 その後しばらくの……記憶はない。


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