第2話
まず、自己紹介をしましょう。
私の名前はラヴァンダ・ラ・ロシェル。一応、貴族の娘であります。しかも爵位は侯爵。私は世間一般的には侯爵令嬢。名家のお嬢様でございます。血筋だけは。
というのも、ロシェル侯爵家は没落寸前なのです。理由は相続税と借金のせいでございます。
私のお祖父様が亡くなった際、それはもう多大な税金を侯爵家にかけられました。具体的には、資産の七割が税として徴収されました。節税対策はしたものの、焼石に水です。お父様はこの件があって以降、お兄様と私に「雇った税理士のことは黒子の数を覚えるぐらい把握しておけ」と口酸っぱく忠告するようになりました。もうロシェル家には税理士を雇う余裕などなくなりましたが。
そして、焦ったお父様による事業の失敗。その失敗を立て直そうと借金をし、また事業が失敗する……という負の構造が出来上がってしまった結果、侯爵家は土地と屋敷を売り払い、王都郊外にある古びた家に住まうことになりました。私が七歳の頃の出来事です。
もうそれは没落しているも当然では? と私も思うのですが、両親はまだ侯爵家復興を諦めてございません。爵位も保持したままです。私は、復興を諦めず十年経った今でも侯爵家のため奔走しているお父様とお母様に敬意を示し、ロシェル家は没落したと口に出さないと決めているのです。代わりに、没落寸前と言わせてもらっているわけです。
ですが、プライドだけではお腹は膨れません。ついでに借金で首も回りません。
侯爵家の家計が火の車だというのに、私がお茶会だ舞踏会だなんだ贅沢できるわけありません。お兄様も同様です。私達二人は、働ける年齢になったら仕事先を見つけました。
お兄様は鍛治職人のもとで見習いを、私はお針子の仕事をさせてもらっています。
私達が平民のように労働することに対し、両親はあまり良い顔をしません。ですが、私達の稼ぎは家計の助けになっているので、無理に辞めさせることは致しません。それを良いことにお兄様と私はそこそこ楽しく働かせてもらっています。
二人には申し訳ないですが、私達兄妹は侯爵家の復興は無理だと考えています。なので、お父様がいつ爵位を手放しても困らないように、それぞれ手に職をつけようと決めていたのです。
幸運なことに、私はほんの少しだけ魔術が使えるので、職場では重宝されています。針子としての腕もまあ……そこそこです。
店主や先輩方は優しいですし、友人と呼べる同僚もいます。今の境遇に不満などありません。
侯爵家の娘という肩書きなどあってないようなもの。貴族から平民になったとしても、何も困りません。むしろ、分相応な身分から解放されて肩の荷が軽くなるというものです。
私は、華やかな世界でシャンデリアに照らされるよりも、ありふれた草原の中で春の日差しを浴びるのが性に合っているのです。
そうして、久々の休日、おやつの木の身を摘むため森を散歩していたとき。
ウィステリア様が、道のど真ん中で蹲っているのを発見したのです。
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