第31話

竹島近海


魔王様より警戒度を上げろという命を受けてから3日。

ついに韓国海軍が竹島近海に姿を現した。

まさか、本当に竹島を狙ってくるとは…

わざわざそんな危険な真似はしないと踏んでいたのに…当てが外れた。


「現在の状況は?」

「再三の警告をしたが、彼等は聞く耳を持たない。不味いですよ。このままでは威嚇射撃をしなければならなくなります」

「チッ……もう一度…もう一度だ。最後の警告をしろ。これで相手に反応が見られなければ―――」


最後まで言わなかったが、司令室に居る誰もが続く言葉を理解している。

最後の警告を行うよう命令を出し、固唾を呑みながら相手の出方を伺う。

緊迫した空気が司令室を漂っている。


「………警告、無視されました」

「………はぁ」


大きな溜息をつき、頭を抱える。

司令室は失意に満ち、誰もが絶望的な表情をしている。

そんな中、威嚇射撃の命令が出された。


「…近海に居る〈シモベ〉を向かわせる。私の命令一つで、奴らを海の藻屑に変えてくれよう」

「出来れば…そうなって欲しくはないですね」

「そうだな…」


命令は発令された後は相手の動きを待つのみ。

さて…どうする?

現場からの通信を待つこと数分。

ついに吉報が届いた。


「韓国船団。進路を変更し、撤退を始めたそうです!」

「そうか!よくやった!!」


このまま撤退してくれれば、戦争には発展しない。

魔王様の企みも潰える。

少しは…平和を長続きさせることができる。


「引き続き警戒を続けろ!連中に妙な真似をさせるな!」


魔王様、私はアナタの計画をほんの少しでも延期させます。

戦争には発展させませんよ。


胸をなでおろし、重苦しい空気が吹き飛んだ司令室の椅子に座っていると――


「……なに?ドラゴンだと?」

「……は?」


聞き捨てならない単語が聞こえてきた。

私は急いで通信を受けた者の元に駆け寄る。


「ドラゴンとはどういう事だ?私は〈シモベ〉を動かしていないぞ?」

「しかし、現場の隊員の多くが空を飛ぶドラゴンらしきモノの影をいくつも見たと…」

「…まさか!」


付近の〈シモベ〉に指示を出して海上に顔をのぞかせ、〈支配者の目〉を使って視界を共有する。

すると、そこには確かにドラゴンらしき影があった。

それなりに高い場所を飛んでいるらしく、影は小さいがあの形は間違いなくドラゴン――或いはワイバーンだ。


「くそっ!」


私は司令室を飛び出すと、人気のない場所に移動して魔王様に念話を繋ぐ。


「魔王様!アレはどういう事ですか!?」

『なんだ長谷川?言っている事の意味が分からないんだが…』

「ドラゴン、もしくはワイバーンの群れです!撤退していく韓国海軍の方向へ向かう群れが確認されたんですよ!」


あの船団を沈めるには、あの数のワイバーンが居れば充分。

確実にアレを沈めに行っている。


『……ああ、あれか。懲りずに日本の排他的経済水域内で漁をしようとする不審船を沈めるためのモノだ。心配するな、アレには手を出さない』

「……かしこまりました」


排他的経済水域内で不審な動きを見せる船が確認されたという報告は受けていないが…常に海全体を監視できるわけでもない。

見落としの一つや二つはある。

……だが、やはり魔王様がそれを知っているというのは腑に落ちない。

一応、〈シモベ〉を監視用に貼り付けておくか。


元からちゃんと撤退しているかを確認するために配置する予定だった〈シモベ〉に指示を出し、様子をうかがう。

すると、突如として船団に大量の炎の玉が飛来し、次々と爆破していく。

もちろん、その程度でイージス艦が沈むはずがないのだが……コレを見れば、何が起こったかなど一目瞭然。

やはり、あのワイバーンはこの船団を攻撃するためのモノだった。


(私が見ていることは知っているはずなのに……隠す気はないと?)


もう一度魔王様に念話を繋ごうかとも思ったが、何を言われるかなど簡単に想像できる。

聞くだけ無駄だろう。

そう考えて、念話を繋ぐのはやめ、監視用に付けていた〈シモベ〉も回収する。

そして、司令室の人間や実際に現場に居た隊員に箝口令を敷き、今回の件がマスコミに流れないように隠蔽に動く。


どうせ、韓国側で大いに騒がれるだろうから、事態は正直すぐに明るみになるだろう。

当然、魔王様もその事は考慮しているはずだから、マスコミの対応も基本東さんや魔王様に丸投げでいいだろう。

もうここまで来ると後戻りは出来ない。

私も腹をくくる必要がありそうね。


「一度、私の管理する全シモベを対象とした強化訓練でもしようかしら?」


農地や石油の開発でDCエネルギーが不足しているそうだ。

そのせいで軍備拡張のに割くエネルギー量が減り、私の要望が中々叶えられていないのが現状だ。

シーサーペント120体はいつになったら送られてくるんだろう?

『本当にこれほど必要なのか?』と3度も聞いてきたんだから、早く用意してほしい。


他には、敵船及び海岸基地強襲用のマーマンをおよそ20万体、対潜水艦用のタイガージョーズを2000匹、対空戦力としてガーゴイルを2000体、ワイバーンを200体請求しているんだけど…まったく届かない。

ワイバーンは10体届いたけど、他は多少マーマンが増えたといったところだろうか?

人海戦術で軍港や湾岸を落とすつもりだから、マーマンは20万体は必要だろう。

開戦までに、20万体揃えられるんだろうか?


「……海軍への予算増加を要請するべきか」


少しでも多くのシモベを手元に置いておくためにも、やっぱり請求すべきだろう。

日本は何処とも地続きで国境を接していない海洋国。

海の守りは大事なはずなんだけど……いや、魔王様もそれくらいは分かっておられるはず。

それ程、今は内政に力を入れるべき時期なんだ。

……その割には、韓国海軍の船団を全滅させていたけれど。


「この広い海を護る。その大変さを理解しておられますか?魔王様」


現状のシモベの数では韓国方面の警戒度を上げるだけで精一杯。

日本全体を護る警戒網を張るにはあまりにも頭数が足りない。

一度魔王様の元まで行って、現場の状況を伝えるべきか?


「…今回の件の始末をつけてから魔王城に行くか」


箝口令の発令や、装備の補充。

沈没した船の回収に、流れ出した油の処理。

後は出来る限りの揉み消し。

やることは山積み。

これでも東さんや魔王様に丸投げした分を除いていると考えると、やはりこの仕事は大変だ。

海軍大将なんて、請け負うべきじゃなかった。


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