第28話
「公開処刑の効果は絶大だな。疑いのある政治家が次々と媚びて来る」
「所詮奴等は人間です。当然の結果でしょう」
「ハハッ!クロは随分と辛口だな。まあ、間違いではないな」
公開処刑を実質して以来、汚職の疑いのある政治家達が次々と私に媚を売り始めた。
中には金で解決しようとしている奴も居たが、『その金を慈善活動にでも使え』と言って一蹴。
以降、政治家の間では身を削っての慈善活動がブームになっていたりする。
まあ、こぞってそんな事をし始めるものだから、メディアからはかなり批判されている。
しかし、そのメディア自体も私に対する発言についてはかなり控えめなモノにしている。
『人のことを言えない』と政治家達は批判しているが、世間はそれを面白がっている。
ネットを見漁れば、『政治家とメディアの醜い争い』という題で、彼らの闘争を嗤う声が散見される。
元々ネット上で活動する者達の間では、メディアも政治家もあまり好きではない存在なので、嫌いな者同士が争っている姿はさぞかしメシウマだろう。
「国内における反応は、メディアが控えめな事もあって大した事がない。しかし、国外の反応が問題だな」
「こぞとばかりに批判されていますからね。一部の国は擁護してくれているようですが…」
「東側諸国はそうだな。だが、そんなに私にが怖いか?確かに勢力拡大を狙ってはいるが…今は国内の問題の解決に尽力している最中だ。備える時間はあるはずなんだがな…」
表立っての動きはないが、西側諸国の間では対日包囲網が出来上がりつつある。
もしそれが完成し、我々に圧力をかけてくるのであれば…それこそ問題だ。
日本を失うという事が、どれほど痛手かしっかりと理解しているのだろうか?
「クロ。お前の部下も使って米軍撤退運動を強めるよう扇動しろ」
「はっ!」
「あくまで自然な形でだ。間違っても、米軍基地に直接ちょっかいをかけるような真似はするなよ?」
「了解しました、魔王様」
日本は第三次世界大戦が起こった際に、中国からの侵略を最初に受ける国。
現代の赤い津波を受け止める防波堤であり、高い壁だ。
さらに、東アジアにおける航空基地の役割も持ち、東南アジアへの中継地点としても利用可能。
戦略上重要拠点である日本を捨てるような行為を、西側諸国がしてくるのか?
私の予想では、批判はするだけして私が機嫌を損ねたらパタリと止める。
批判はするが、日本が東側諸国になってしまうことは避けたいはず。
きっと、あの手この手で日本の東側化を阻止しようとするだろう。
まあ、そんなのお構いなしに批判してくる国が一つ…
「またライブ中止か…不買運動も日に日に激しくなっている。一人だけ勢いが違い過ぎるな…」
他の国はある程度日本に忖度しているのに対し、一国だけ本気で批判し、経済制裁の勢いで色々としてくる国が居る。
あえて何処とまでは言わないが、その国では日本製品の不買運動が続き、また嗜好品や食品類の輸出が大きく制限されている。
また、人気アイドルグループの日本でのライブを制限し、グッズの販売も禁止しているそうだ。
「経済制裁のつもりかも知れないが、一国だけでしたところでたかが知れている。すぐに元に戻るだろう」
大して気にする必要もない。
勝手に自滅していくだろうし、そのうち苦しくなってなかった事にしてくれと言ってくるだろう。
……ただし、何もしないとは言っていない。
私はあらかじめ待機させておいたスライム隊に、破壊工作を命じる。
主に電線の破壊などでインフラを破壊し、経済的損失を出させる。
あまり立ち規模な事はするつもりはないので、大したダメージにはならないだろうが、塵も積もればなんとやら。
細々とした嫌がらせを行い続けて、少しずつダメージを蓄積させようじゃないか。
「水道管に潜り込ませて、破裂させるか?水が流れ出し、地面を侵食すれば崩落の可能性もある」
スライムに水道管を詰まらせるように命令し、様子を見る。
地面の侵食による崩落は起こらなくとも、破裂した水道管を直すのはそれなりに金がかかる上に、不自由な生活を強いられる。
もし大きな道路の下を流れる水道管が破裂すれば、交通網に問題が生じるだろう。
何処か壊れるかは賭けではあるが、やってみる価値はある。
「とりあえず、彼の国に対してはこんなものだろう。表向きは静観だな」
表向きな対応は政治家に任せ、私はシモベ達から上がってきた部隊編成に目を通す。
そして、その編成内容を見て軽く頭を抱えた。
「海軍の要求が凄いことになっているな。これは…足りるのか?」
全体の要求を満たす水準に達するには、数年かかる。
なにせ、これから大規模な〈迷宮〉の改装を行い、主に食料自給率の上昇という意味で農地の開発を行う必要がある。
また、食肉の生産量も上げていきたいとも思っている。
その費用を考えると、軍備増強に回せるエネルギーはかなり少なくなってくる。
限られたエネルギーをどのようにして使うか?
これが目下の私の頭を悩ませる問題だ。
「既に農地利用しているのが8。今整備中が12。予定が31か…まったく足りないな」
そこに石油生産もプラスすると…それだけで、これまでコツコツ貯めてきたエネルギーの三分の一を食われる。
圧倒的にエネルギーの量が足りない。
節約はもちろんの事、収入を増やさなければ…
「その為にも、やはり失業者を雇わなければな…ここは一つ、大きな批判を覚悟で強権を使って“あの法”を出すか?それと同時に石の回収をすれば良いんだからな」
とある法律を施行することで、失業者を雇う。
それをすれば、間違いなく失業者を減らせるが…あまりにも自由のない法だ。
やはり、無しにしよう。
「〈ダンジョン〉の一般公開を何時にするか…〈ダンジョン〉内で使う武器に関しても、法をいくつか変える必要があるな。これは、政治家どもに丸投げしよう」
わざわざ私がするまでもない。
これくらいなら、奴らも妙な真似はしないだろう。
後は、〈ダンジョン〉の一般公開についてだが…
十八歳以上で入場可。現役高校生は十八歳でも不可にしておけば、夢見がちな学生が無茶をすることはないだろう。
だが、問題は本当に人が来るかどうかだ。
魔石は国が買い取るにしても、その値段が低ければ話にならない。
魔石を手に入れるためには、モンスターと戦う必要がある。
当然、モンスターと戦えば怪我を負うし、最悪の場合死に至る。
そんな危険を鑑みても、魔石を得るために〈ダンジョン〉に潜る!と思えるだけの報酬を用意するのが難しい。
「一部の簡単な〈ダンジョン〉のみ開放し、魔石以外のダンジョンで得られるモノは、すべて各自で発見者のものと言うことにすれば少しは…」
〈ダンジョン〉の内容は私には変更することは出来ない。
せいぜい、難易度を間接的に変えるくらいだ。
例えば回復の泉を用意するとか、宝箱を多めに設置するとか。
モンスターの量は変更できないし、強さも変えられない。
しかし、魅香のような特殊な存在を取り上げる事で、その〈ダンジョン〉の難易度を著しく低下させるという手法は存在する。
強力なモンスターを回収し、こちらで処分すれば最初は難易度が下がるだろうが…
「現代社会でわざわざ危険を犯してまで〈ダンジョン〉に潜る理由がない。ましてや、消費税の減税に全国一斉賃上げを行えば尚更だ」
地方でも、バイトでそれなりに稼げるようになると考えると、わざわざ〈ダンジョン〉に潜る理由がない。
せいぜい、休日に遊び感覚で……待てよ?
「原崎。今話せるか?」
『はい、魔王様。何でしょうか?』
原崎剛
『鍛治長』の異名で呼ばれる、〈迷宮〉における鍛冶関係の最高責任者。
100名以上のドワーフを筆頭に、およそ2000人居る鍛冶関係職に従事しているシモベを統括し、本人は現存する数少ない刀鍛冶として何本もの刀を鍛えている。
「お前達は今、何を作っているんだったか?」
『魔王様の御命令により、人型シモベに持たせる武器を大量生産しております。現在は主に、オーガや鬼、エルフ種、ドワーフ種、ゴブリン種に持たせる武器を生産しています』
「そうか……ならちょうどいい。民間人向けの剣を――そうだな、1万本は作ってくれないか?」
『い、1万本ですか!?の、納期は…?』
納期か…流石に1万本を数ヶ月で作れというのは酷な話だ。
剣の生産に合わせ、少しずつダンジョンを開放しよう。
「8月までに1000本作ることは可能か?」
『それでしたら…可能です。しかし、現在生産しているシモベ用の武器の生産に影響が――』
「構わん。どうせ、私の軍隊が日の目を浴びるのはもう少し先だ。後回しにしろ」
『了解しました。8月までに1000本ですね?』
「ああ。――いや待て!剣1万本は撤回する!」
危ない危ない。
人には向き不向きというものがある。
すべて剣にするというのは、そういった事を考慮できていない。
私としたことが、こんな簡単な事を見落とすとはな…
「代わりに――各種武器を2000ずつだ」
『各種武器を2000ずつ…それは8月の納期でしょうか?』
「いや、8月は500ほどで充分だ。しっかりと試験運用をしなければならないからな」
『かしこまりました。では、8月までに各種武器を500ほど生産するということで』
「ああ、頼んだぞ?」
ある種のアトラクション(安全性には問題あり)として〈ダンジョン〉を運用すれば、副業や趣味で〈ダンジョン〉に潜る人間が現れるだろう。
そうすれば少しは魔石の回収も捗るはずだ。
……そうだと信じたい。
まずは一般人が入っても、問題が無さそうな難易度の〈ダンジョン〉を探すか。
できれば、そういった〈ダンジョン〉が東京にあれば良いんだが…
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