第23話
『第八部隊、沖縄県全域の〈迷宮〉及び〈ダンジョン〉の制圧が完了しました』
「ご苦労。では予定通り〈那覇要塞〉に部隊を移し、中国からの侵略に備えてくれ」
『了解しました』
日本政府の許可のもと、日本の〈迷宮〉及び〈ダンジョン〉の制圧を始めてから三年。
私は、瞬く間に日本全域に勢力を伸ばし、二年半で本州及び四国、九州を制圧。
一年弱で北海道を制圧した。
それでも勢力拡大は留まることを知らず、各離島の制圧はもちろん、領土問題の種である竹島や尖閣諸島、北方領土等にも手を伸ばしている。
わずか三年で日本全域の制圧を完了した私に対し、世間はかなり警戒心を高めており、諸外国からも注目を集めている。
なにせ、私が急速に勢力拡大を拡大している事は、世界でも話題になっている。
あの自衛隊すら手に負えないと言われるほどの集団が、日本各地勢力を伸ばしているのだ。
もしそんな危険な集団が、自国に攻めてくることがあれば…
私が諸外国へ侵略戦争を仕掛けることを危惧し、世界的に私は注目を集めている。
また、注目を集めたことで、世界中の支配者に私の存在が認知され、他の〈迷宮〉や〈ダンジョン〉を制圧するという動きが活発化し、各国はその対応に追われている。
ある国では武力行使によって勢力拡大を防いだり。
ある国では特定の支配者を国が支持することで勢力拡大の援助をしたり。
ある国では全く持って無関心で、特に何もしなかったりと対応は国によって違うが、先進国であるほど行進による交通網の混乱が問題になっている。
支配者はどの国でも周囲に迷惑を掛けているらしい。
しかし、支配者が居ることで不利益ばかり発生するのかと言われると、そうではない。
日本がいい例だ。
私は〈迷宮〉の一部を広大な農地化し、大型の機械を用いた大規模農業を日本各地で行っている。
基本的に農家に一任しているが、土壌の及び天候の管理は私が行い、環境を整えている。
〈迷宮農場〉では主に大豆や小麦を生産しており、大豆は日本で消費される量の約30%、小麦は約15%を生産している。
他にも〈迷宮牧場〉を作り、乳牛の放牧も始めているが、これはまだそこまで収益にはなっていない。
それよりも、家畜飼料の原材料であるトウモロコシの生産に力を入れるべきとして、トウモロコシ栽培に着手している。
また、いくつかの〈迷宮〉を森林エリアに変え、木を伐採して木材にもしたりとそれなりに経済効果を発揮したりもしていることから、支配者は居なくていい存在とは一概には言えない。
……まあ、私が大量の〈迷宮〉及び〈ダンジョン〉を保有しているため、有り余るエネルギーと土地を有効活用しているだけなんだが。
しかし、諸外国では未だに迷宮戦国時代が続いているので、有効活用はまだ先の未来の話になるだろう。
「信恵様、高知の〈迷宮農場〉で不審者を捕らえたとの報告が上がっておりますが…」
私の影から一人の女性が現れ、不審者の報告をしてくる。
「日本の司法に任せておけ。身柄は高知県警に引き渡すんだ」
「かしこまりました」
女性はまた影に潜り、現地の管理人に指示を出しに行った。
各都道府県ごとに一人の元支配者を配置し、〈迷宮〉及び〈ダンジョン〉の管理をさせている。
流石に日本全国に存在する全ての〈迷宮〉や〈ダンジョン〉を一人で管理するのは無理だ。
その為、地域ごとに元支配者を管理人として配置し、その都道府県に存在する〈迷宮〉と〈ダンジョン〉の管理を委任している。
ちなみに、東京は私の直轄領であり、委任者居ない。
そして、さっき私に報告を持ってきた女性だが……あればクロだ。
昔からペットとして可愛がってきたシャドウウフルのクロ。
〈モンスター強化〉で何度も強くし続けた結果、クロは人化の術を手に入れ、人間の姿に化けることができるようになった。
今では私の影として、暗部の長及び秘書をしてもらっている。
この際この三年間で変わった事をいくつか説明しておこう。
大きな変化としては、私を含め多くの元支配者は人間を辞めたこと。
〈支配者強化〉によってある程度強くなった私や元支配者は、人間を辞め、別の種族へ変わる権利を与えられた。
私はこの仕組みを利用し、多くの元支配者を人外へ変え戦力増強を測った。
もちろん、私自身も人間を辞め、魅香と同じ鬼人になった。
それを知った魅香からは、『何故鬼ではなく鬼人を選んだのですか!?鬼人は半端者の弱小種。魔王を名乗るには相応しくない種族です!』と猛反対された。
しかし、私が鬼を選ばなかった理由は単純。
私の前に鬼になった元支配者が居るのだが……彼は、とんでもなく筋骨隆々で、3メートルはありそうな巨体を手に入れた。
これは鬼の平均的な体型らしく、女性でもほぼ同じ。
確かに鬼を選べは強いかもしれないが、あんな筋肉ダルマの巨人になるくらいなら、少し弱いが人間に近い見た目の鬼人になったほうがマシだ。
私だって美容と見た目に拘る一女性。
あんなのにはなりたくない。
そう言った理由を魅香に伝えると、不思議そうな顔をしつつ、人間の価値観では鬼の女性はあまり美しくないとして納得してくれた。
……この話は、育った環境によって価値観とは変わるものだと、改めて痛感する出来事でもあった。
また、他に変わった事として国内の私に対する評価が大きく変わった事。
昔はデモ隊が活発に活動し、他の〈迷宮〉や〈ダンジョン〉への進行は深夜でなければならなかったが…
三年も続くと世間もモンスターの軍勢が行軍することが日常的になり、ある種のパレードのような扱いを受けるようになった。
中にはモンスターの写真を撮るために、わざわざ県をまたいでやって来る人が出るほどであり、行軍に対する評価はある程度落ち着いたと言える。
しかし、その反面急速に成長する事や、元支配者の多くが人間を辞め、絶大な力を得たことで人外を見るような目が強くなった。
今の私は異類異形、魑魅魍魎の魔物たちを束ねる王――《魔王》と呼ばれ、非常に恐れられている。
ネットでは私の事を『魔王ノブエ』と呼び、様々な黒い噂が飛び交っている。
また、ネット上の噂は海を超え、海外にも『魔王ノブエ』の異名は広がっている。
元々自分から《魔王》を名乗るつもりではいたから、勝手にそう呼んでくれるのは嬉しい限りだ。
私が厨二病扱いされずに済む。
……はっきり言うが、断じて私は厨二病などではない。
絶対に違う。
……さて、そろそろ現実を見よう。
「農場の運営は問題なし。牧場は……やはり、あまり目に見えた成果が出ていないな。林業は限界が見え始めている…一度木を植え直すか?………いや、エネルギーの消費が大きすぎる。林業からは手を引くか」
各都道府県から上がってきた報告書に目を通し、現状の〈迷宮〉の運営状況を確認する。
農場は問題なく運営できているようだが、林業は限界が見え始めている。
そろそろ潮時だ。
手を引くべきだろう。
「林業は来月で終わりにするか。さて…問題はこれだな」
林業を来月末以降はしないことにした。
収入は減るが、これ以上ははっきり言って赤字なのでやる必要はない。
それ以上に今は解決すべき問題がある。
私は、引き出しから封のされた手紙を二つ取り出し、中身を確認する。
一通り目を通した私は、手紙を机に置いて溜息をついた。
「はぁ…何故日本の領土内の〈ダンジョン〉を制圧して、他国に文句を言われるんだ…」
私が取り出した手紙はとある国から送られてきたもの。
一つはロシア連邦から。
もう一つは大韓民国――略して韓国からの手紙だ。
手紙の内容は、どちらも私にある〈ダンジョン〉の所有権を放棄するよう指示しているもの。
ロシア連邦は、少し前に制圧した北方領土――はっきり言うと、択捉島の〈ダンジョン〉の所有権を放棄しろと言い、韓国は竹島の〈ダンジョン〉を放棄しろと言っている。
絶賛領土問題となっている島の〈ダンジョン〉を制圧したことで、この二ヵ国はかなり怒っている。
どうやら日本政府の許可の元勢力拡大を行っていた事が仇となり、私の行動は国の意志とみなされているようだ。
今から許可を放棄してもいいが、それでは確実に自衛隊がでしゃばってくる。
せめて、日本国内に存在する全ての〈ダンジョン〉を制圧してからでないと、確実に面倒なことになるだろう。
「国際問題とは面倒なものだ…まさか、こんな所で他国の妨害を受けるとはな」
ロシアと韓国は何度も私に文句を言ってきては、メディアを使って騒ぎ立てている。
特に酷いのは韓国だ。
ロシアはまだマシだが、韓国は何度も何度もメディアを使って私を批判し、様々な方面へ迷惑をかけている。
さらに、国の指示でやっているとは言っていないものの、韓国の人気アイドルグループが私が竹島の〈ダンジョン〉を制圧したことを強く非難した。
それが火種となり、日本でもそのアイドルグループのファンが抗議活動をしたり、ネットで騒いだり、ひいては〈迷宮農場〉で生産された大豆や小麦を使った製品を買わない、不買運動を始めた。
元々韓国は反日感情が強い国とはいえ、ここまでするか?
国ぐるみで私の事を批判してくるものだから、何度も政府から竹島の〈ダンジョン〉の所有権を放棄するよう促されている。
しかし、私は『竹島は正式な日本の領土であり、これは正当な行為』と言って、所有権を放棄するつもりはないと言っている。
……その結果、何故か韓国ではまた日本製費の不買運動が始まったが。
「反日の理由がほしいだけだろ……相手にするだけ無駄だな」
その点、ロシアはまだ理性的だ。
しっかりと交渉の場を設け、話し合いで解決しようとしている。
しかし、北方領土も日本の正式な領土。
話し合いは平行線であり、交渉は上手く行っていない。
一応、妥協案として今後択捉島の〈ダンジョン〉を私が利用しない事を条件に、この問題を終わらせようというものがあるが…そもそも何故日本の領土で勢力拡大を行っているだけなのに、ロシアに配慮する必要があるのだという話。
シモベや政府の意見はこの案を採用しようというものだが…私が断固拒否しているため、交渉は上手く行っていない。
「百歩譲ってロシアに配慮するとして、〈迷宮農場〉の利益を使って金をで解決という方法もあるが…それは断られている。これからも議論の余地がありそうだ」
いい加減、この問題をどうにかしないと『魔王の外交官』の異名を持つ、元政府高官の古河君がノイローゼになってしまう。
彼は正式に日本の政界を追い出され、以降私のもとで政府や他国との交渉役をしてもらっている。
しかし、仕事が多すぎて、環境改善の嘆願が何度も来ている。
他にこの仕事を出来そうな人物が居ないので、後回しにされている問題だが…彼はシモベの中ではトップクラスに待遇がいいので、今はそれで我慢してもらおう。
何度願っても、それが受理されない古河君の仕事環境を考え軽く同情していると、元支配者のシモベの一人から連絡が来た。
『信恵様、秋本です。おそらく国内最後の〈ダンジョン〉の最奥に到着しました。これよりコアを回収します』
「そうか…長かったな。これは重要な仕事だ。頼んだぞ?」
『いつも通りコアを回収するだけじゃないですか…変なプレッシャーをかけないでください』
秋本君は、プレッシャーをかける私に対して呆れの感情を見せながら、軽く文句を言ってきた。
彼女は昔、上司から酷いハラスメントを受けていたらしい。
しかし、そんな無能上司とは違い、部下を非常に大切にする私の事を尊敬してくれている。
私からもかなりの信頼を向けているため、《魔王》と呼ばれる私相手でも本心で話してくれたりする。
秋本君のような部下がいると、話し相手ができて気分がいくらか楽になる。
『回収しました』
「あぁ…〈占領〉」
私は秋本君を通して〈ダンジョン〉を占領する。
すると、その〈ダンジョン〉の情報が流れ込み、所有権が私に付与された。
「よし、終わったぞ。転送装置をそっちに配置するから、それを使って北海道へ戻ってくれ」
『了解です。お祝いパーティーとして、ジンギスカンでも食べてきます』
「あぁ、好きなだけ食べるといい」
私は小樽市にある〈迷宮〉へ繋がる転送装置〈ダンジョン〉へ配置し、秋本君の部隊を帰還させる。
そして、〈ダンジョン〉の内容を確認しようとしたその時――
【必要領土の制圧を確認しました】
頭の中に、機械音声のような声が響いた。
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